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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第9章 ~うごめくモノども~
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うごめくモノども 9

 佐緒里と絵梨佳が両翼となって走る。

 中央には御劔。

 一分の隙もない布陣で肉薄する。

 空中に逃れようとする御前。

 そうはさせじと五十鈴が立て続けに矢を放つ。

 危機を悟ったのか、ふたたび黒い霧となって消える。

 突然軌道を変えた佐緒里が、何もない空間に拳を繰り出した。

「ぐ……」

 腹に拳をめり込ませた格好で、バンパイアロードが出現した。

「ふんっ」

 そのまま回し蹴りで吹き飛ばす。

 十メートル近い距離を飛んだ男が、壁に激突して止まる。

「萩に同じ手は二度通じない」

「ホントは?」

 胡乱げ問う絵梨佳。

「ただの山勘」

 しれっと答える佐緒里。

「だと思った」

 気配とかを探知する術を、彼らは有していない。

 ものすごく目が良いので遠くのものや小さいものまで見えているだけだ。

 したがって、この攻撃が当たったのは単なる偶然である。

 二度も三度も続くわけではない。

 霧化は、是非とも防ぎたいところだ。

 立ちあがる御前。

 怒りに瞳を燃やしているが、突きかかってこない。

 それどころか、ふたたび霧化を始める。

 各々に警戒する澪陣営。

 霧に必要以上に近づくことはしない。

 どういう成分でできているのかも判らないのだ。

「どこに現れる……?」

 視線を巡らす実剛。

 彼と信二、気を失って倒れている津流木が、澪陣営の弱点である。

 このあたりを狙うのが常套手段だが、そこを攻撃すると他のメンツからの反撃は必至だ。

 大将同士の相打ちを狙うならばともかく、こちらの方が人数の多い状況で賭に出るだろうか。

「…………」

 油断なく気配を探る御劔。

「…………」

 弓を構えたまま、五十鈴も瞳をせわしなく動かす。

 探知能力をもつ二人。

 だが、当惑したように顔を見合わせる。

「消えた……?」

「どうやら、そのようだな」

 実剛たちは判らないだろうが、先ほどまで漂っていた濃密な死の気配がなくなっていた。

「逃げたということですかね」

 我知らず、大きく嘆息する魚顔軍師。

 とても信じられないことではあるが、バンパイアロードは逃げを打ったらしい。

「戦術的撤退、というものかもしれませんが」

 自身もダメージを受けている。

 部下か仲間か知らないが、サトルやカトルの助勢もない。

 澪を襲っているという心理的な揺さぶりも効果が薄かった。

 いくつかの事象をトータルで考え、戦闘継続の道を放棄した。

 ようするに、このまま戦い続けるのは不利だと判断したわけである。

「だとするとかなりのリアリストですね。もっとプライドが高いと思いました」

 実剛の言葉に、軍師が軽く頷く。

 伊達や酔狂で闇を統べる夜の王などとは呼ばれないだろう。

 傲岸不遜であっても何ら不思議ではないし、事実バンパイアロードは途中までそのような振る舞いをしていた。

 敗色が濃くなったからといって逃げ出すほど、負けっぷりが良いようには見えなかった。

「ですが、やめておきましょう。バンパイアロードの心理など推測しても無意味です。それより澪が気になりますね」

「問題ない」

 佐緒里がポケットから携帯端末を取り出す。

 あれだけ動き回った割に、傷ひとつついていない。

「じんこうえいせいをつかったすごいでんわだ」

「台詞が全部平仮名になっていますよ。佐緒里嬢」

「萩に逃走はないことだ」

 相変わらずわけのわからないことを言いながら操作する。

「あたし。そっちの状況を教えて。……判った。こっちも片が付いた。詳しくは戻ってから」

 ごく短い会話。

「だれにかけたの? 役場は不通だったのに」

 訊ねる実剛。

「父親」

「……もう少しフレンドリーに接しようよ」

「鬼は共食いを忌避しない」

 やはりわだかまりがあるらしい。実際、父親によって殺されそうになったのだから、簡単に割り切れという方が無理である。

 ただ、実剛はそのあたりのことを疑っている。

 鉄心と交流を持ち、鬼の頭領の為人に触れて思ったことだ。

 佐緒里を使った受胎実験。あれは嘘ではないか。

 こちらに「目」があることを知った上で演技した茶番の可能性を考えてしまう。

 霊薬があるのだから、実の娘を実験に使ってまで能力者を生み出す必要はないし、そもそも、そこまで鉄血の意志を持って行動していたとするなら、あの投了宣言(リザイン)は中途半端すぎる。

 もちろん彼は自分の考えを鉄心にぶつけたことなどないが。

「澪も襲撃を受けたが、撃退したそうだ」

 父娘の短い会話では、その程度の情報伝達で精一杯だろう。

「それだけ判れば充分です。帰還しますか。御大将」

 信二が言った。

 やや不分明な表情で頷く実剛。

「どうしました? 実剛君」

「いえ……結局ひとりしか助けられなかったんだな、と思いまして」

 宇蘭と津流木のことだ。

 七人のうち、津流木の息子しか救うことができなかった。

 中には小学生の少女も含まれていたというのに。

「御大将。それは……」

 口を開きかけた軍師が言葉を飲み込む。

 一人助けられただけでもマシな方だ、とは言えなかった。

 それは、生者と死者の双方を愚弄することだから。

「顔を上げろ。胸を張れ。貫くと決めたのだろう?」

 横合いから声をかけたのは御劔である。

 澪の支配者たろうと望んだのは、他ならぬ実剛自身だ。

 それが茨の道であると知って、なお進もうと決めたのも実剛自身だ。

 であれば、うつむいてはいけない。

 しょぼくれていてはいけない。

 今回の作戦は、たしかに完勝とはいえない。

 最大限、好意的に解釈しても辛勝というところだろう。

 しかし下を向いてはいけないのだ。

 そんなことをすれば、自分自身の決意を貶めることになるし、ひいては自分を信じて付いてきてくれる仲間たちの決意すら軽んじることにもなる。

「御劔くん……」

「帰るぞ。実剛。凱旋だ」

 勇者の台詞に、むりやり微笑を作る。

「退きません。媚びへつらいません。反省しません」

「実剛さんっ お気をたしかにっ それは一番だめな方向ですっ」

 鬼姫の台詞を真似した少年に、あわてて絵梨佳がつっこみを入れた。





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