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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第9章 ~うごめくモノども~
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うごめくモノども 5

「カトル。顕身したの? 愚かなっ」

 斬り結んでいた光則を蹴り飛ばし、おおきく距離を取ったリンが吐き捨てた。

 不用意に本性をあらわすのは拙い。

 戦術的にも、戦略的にも。

「熱くなりすぎてるのね。気持ちはわかるけど」

 戦闘開始から十分ほどを経過して、第一攻略目標である澪町役場の制圧は未だ。それどころか庁舎内への侵入すら果たしていない。

 難敵に阻まれて、前庭から一歩も進めていないのだ。

 しかも予定されていた援護攻撃もない。

「あちらはあちらで妨害されているとみるべきね。どうする?」

 自分自身への問いかけ。

 攻勢を中断して退くべきか。

 あるいは、自衛隊連中の援護はないものと考え、三人だけで澪の血族を全滅させるか。

「後者は論外、か」

 油断なく槍を構えつつ、自身の解答を切り捨てる。

 血族を皆殺しにするどころか、たった一人の戦士すら斬り破れない。

 ここまでの強敵は今生では初めてだ。

 御前と呼ばれるあの男は、あきらかに敵の実力を見誤った。

 眷属を籠絡し、その能力を分析した上での作戦だとほざいていたが、いったいどこを分析したものやら。

 同数の敵を倒せないどころか、カトルは顕身までしてしまった。

 しかも庁舎内には、最強と称される蒼銀の魔女や、先ほどの鬼、さらには澪の王まで控えている。

 これまでのところ登場していない量産型とやらは、おそらく自衛隊連中と交戦中なのだろう。

 そちらの戦況が、こちらよりも良いとは思えない。

 人間の軍隊ごときにたいして期待を寄せているわけではないが、せめて退路の確保くらいはしておいてもらいたいものだ。

「戦闘継続は現実的じゃない。かといって、このまま退くのもちょっと面白くない。せめて一人くらいは倒さないと、ね」

 軽く思い定める。

 戦略目標は果たせそうもないが、撤退信号が上がるまでは全力で戦おう、と。

 気が楽になった。

 区々たる用兵にこだわることなく、眼前の敵にだけ集中できる。

「さあミツノリ。もうちょっと楽しもうよ」

「楽しんでいるのは、おまえだけだっ」

 ばん、と、大地に手を突く少年。

 次の瞬間、アスファルトがめくれあがり、無数の剣となって迫る。

 軽業師のように回避しながら、距離を詰めてゆくリン。

「引き出し多いねっ」

 北海道で使われている舗装は、ほとんどが細粒度ギャップアスファルトコンクリートだ。砂使いの光則が操って操れないことはない。

「武芸で食えるほどの才能もないんでなっ」

 ふたたび絡み合う穂先と砂剣。

「充分食べていける芸だよ。もっと私を熱くさせて」

 宴は、まだ終わらない。

 終わらせない。




「これじゃ保たねえっ! 第五分隊は後退しやがれっ!!」

 信一がインカムに向かって怒鳴る。

 戦況は一進一退を続けていた。

 国道沿いにある公園。

 実剛たちが琴美や光と出会った、あの公園である。

 ここを抜かれると、澪町役場はもう指呼の間だ。

 八雲方面から侵入した自衛隊。

 兵数は目測で二百名ほど。

 対する澪側は信一が率いる量産型能力者第一隊と勇者隊の三十四名。

 人数差ほどに戦力差があるわけではない。

 量産型とはいえ超人の部隊である。

 むしろ本来であれば、自衛隊に勝ち目などないはずであった。

 だが現実は、訓練され組織された人間たちによる、機に臨み変に応じた戦術によって、じわりじわりと押されているようなありさまだ。

 個人的な戦闘力など、集団戦においては意味をなさない、ということだろうか。

 押し戻そうと突出すれば、各所から伸びた火線によって足を止められ、すぐに袋だたきにされてしまう。

 しかも、澪側の戦い方には重大な問題があった。

 この期に及んで、まだ相手を殺さないように気を遣っているのだ。

「信一っ! 殺害許可をっ!」

 勇者隊の一人が強い口調で求める。

 量産型能力者は突撃銃の弾丸ごときでは、余程あたりどころが悪くないかぎり死ぬことはない。

 死ぬことはないが、ダメージは残るのだ。

 いずれ戦闘不能に陥るし、芝や鬼でもないのだから、数分で復活というわけにはいかないのである。

「だめだ! 許可はだせねえ!」

「ふざけんなっ! むこうは殺す気で撃ってきてんだぞっ!」

 それでも殺して良いとは言えない。

「死なない程度に重傷を与えろ。負傷者をが増えればあいつらだって退くはずだ」

 苦渋に満ちた指示。

 そんなことなら最初からやっている。

 PK(サイコキネシス)の槍で腕や足を貫き、戦闘力と行動力を奪う。

 止まらないから殺害の許可を求めているのだ。

 負傷した味方を後送して、すぐに新しい部隊が前面に立つ。

 普通ならありえない。

 だが、人間たちは知っている。澪のモンスターどもが、命までは奪わないことを。そして、負傷といっても四肢の欠損など今後の日常生活に支障をきたすような怪我はさせないということを。

 ようするに戦いというものを舐めているのだ。

「信一。味方が死ぬまで気づかないのか? 俺たちの後ろには澪があるんだぞ?」

 勇者の一人が告げる。

 なんのために頑張って育ててきたのか。

 欠点だらけの澪。

 町政は腐敗し、不景気で、人口流出に歯止めがかからない。

 矛盾も不公正も一山いくらで売れるほどあった。

 それを断ち切り、やっと再生への道を歩み始めた。

 こんなところで終わらせていいのか。

「…………」

 答えられない信一。

 判っている。

 子供のごっこ遊びではないのだ。

「お前が命令を出せないというなら、知らなかったということにしておいてくれ」

 手にレイピアを出現させる勇者。

「何をする気だ……」

「指揮官を殺す。頭がいなくなれば奴らは退くだろう」

 それが、最も犠牲者の少ない方法だ。

「命令違反のかどで、後ほど俺のことは処分してくれ」

 泥を被ろう、と笑う。

 それが勇者たちの覚悟だ。

「……だめだ。それでは筋が通らない」

 一拍の沈黙を言葉の前に挿入した信一が、決然と顔を上げる。

「指揮官を倒す。勇者隊が切り込み。第一隊は、一から五分隊は継続して足止めを行え。六から十分隊で陽動する。派手に暴れろ」

 一度、言葉を切った。

 大きく息を吸って続ける。

「敵の排除に手段を選ぶな。殺害も許可する」

 頷く能力者たち。

 澪のモンスターが、ついに人間に牙を剥く。

 



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