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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第9章 ~うごめくモノども~
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うごめくモノども 4


 玉座から消える御前。

 次の瞬間、その姿は津流木の右隣にあった。

 無造作に手を伸ばして青年の腕を握る。

「人を指さすなと教わらなかったのか? 不出来な親だな」

 ごきりという音が響き、腕がありえない方向に曲がる。

「あぎゃあああっ!?」

 津流木の悲鳴。

「うるさい」

 蹴り飛ばす。

 さらに骨が折れる音が奏でられ、倒れた青年の身体が床を滑る。

 口からごぼりと溢れる血泡。

「肋骨が肺に刺さったか。やはり弱い。なのに二、三日もすれば回復する。まっこと不思議な身体よな」

 無様にもがく青年を、生ゴミでも見るような目で見おろす。

「そもそも、おぬしに仇討ちなどと格好いいことを言う資格はあるまい」

 津流木と宇蘭の息子たちが、御前の奸計に嵌らなければ、今日の事態は招来していない。

 酒と女と金に目がくらみ、家族まで呼び寄せておいて、いまさら被害者面とは片腹痛い。

「だからといって、はいそうですかと殺させてやるわけにはいかんな」

 津流木と御前の間に立つ御劔。

 右手に提げただんびら(ブロードソード)

「その手のすり替えは個人的に嫌いなのだ。吸血鬼の王よ。貴様がそもそも奸計を巡らせねば、こんな事態は起きていないのだぞ」

 騙しておいて、騙された方が悪いという言い分は通らない。

 津流木と宇蘭が欲に目がくらんだのは事実だろう。

 短慮さはたしかに責められるべきものだ。

 うまい話など、世の中にはないのだから。

 しかし、それは本人の心の問題だ。

 一番悪いのは誰かといえば、間違いなく騙した側なのである。

「説教か。勇者くずれ」

「弾劾だ。不死の王」

 剣が閃く。

 危なげなく飛んで回避する御前。

 伸ばした御劔の左手から無数の光弾が放たれ、着地地点をめがけて殺到する。

「詠唱なしで攻撃魔法? 初めて見るな」

 空中に静止した御前が面白そうに言う。

「魔法ではない。友情パワーとでもしておこう」

「は。いいぞ道化者。相手になってやろう」

 男の手に生まれ出る深紅の細剣。

 急降下しながら振りかざす。

 がっちりと受け止める御劔の剣。





 倒れた青年に駆け寄った五十鈴が絶望の表情で首を振る。

 彼女の回復魔法で治療できる限度を超えていた。

「実剛……」

 弱々しい呼びかけ。

 前線指揮を信二に委ね、次期当主が近づく。

「すまない……すまない……」

 血の涙を流しながらの謝罪。

「まったくですよ。不出来な眷属を持つと苦労が絶えません」

 あえて偽悪的なことを言って実剛が笑う。

 負担にならぬために。

「羨ましかったんだ……東京からきたお前が……」

 そして口惜しかった。

 いずれは澪へと戻らなくてはいけない自分の身が。

 大学の四年間は執行猶予にすぎない。

 急速に発展している澪だが、田舎町だという事実は動かないのだ。

 いやだった。

 都会から離れたくなかった。

 だから、甘言に乗ってしまった。

 家族共々住める豪壮な邸宅と、超一流企業へのコネ入社。億を超える年収。

 最初は信じなかった。

 だが、何度も美女をあてがわれ、幾度も高級酒を振る舞われ、見たこともないような高級車をプレゼントされるうち、信じてしまった。

 必要とされているのだと。

「バカですよ。津流木さん。そんなうまい話、あるわけないじゃないですか」

 優しげに説教する年少の次期当主。

「ああ……まったくだよ……」

 笑おうとした青年が苦しそうに咳き込む。

 しょせんは田舎町の小倅。

 さぞ騙しやすかったことだろう。

 自嘲にもならぬ思い。

「実剛……いや、御大将……願いをきいてください……」

「なんですか? お金ならありませんよ?」

 冗談には答えず、青年の左手が実剛の右手を掴む。

 男に手を握られても、嬉しくも何ともない。

「なんかこういう展開に慣れていく自分がいやですね」

「はは……ご勘弁を……ツルギを我が君に……」

 青年の手が離れてゆく。

 だが、実剛の手は何かを握りしめたまま。

「つまり、津流木はツルギって意味だったんだね。もうちょっと捻ってもいいのよ?」

 次期当主の冗談に青年は応えない。

 ぱたりと床に落ちる手。

 ぎょっとする実剛に、

「気を失いました」

 五十鈴が伝える。

 頷いて立ちあがる少年。

 その手には白銀に輝く剣。

 片刃で刃渡り一メートルほど。

 材質は判らない。鉄なのか鋼なのか、それとももっと他の何かなのか。

 ただ、判ることもある。

「不思議だね。こいつのこと昔から知っているような気がするよ」

 それは魂に刻まれた記憶。

 もしこの場に美鶴や光がいれば解説を加えてくれたことだろう。

「五十鈴さんは津流木さんを本陣に運んでください」

 信二のいるポイントだ。

 本陣などといえるほど体裁の良いものではないが、逃走しやすい場所として最初から位置している。

 さしあたり、信二の側が最も安全なのだ。

「わかりました。そのままあちらの援護に入ります」

「お願いします」

 言い置いて、御劔の方へと歩き出す。

不死の王(ノーライフキング)、ドラキュラ。我が眷属を害した罪、千歳の時が流れようとも赦されるものではない。これより汝の不義を正す。覚悟めされよ」

 一歩二歩と進みながらの宣告。

 斬り結んでいた御劔が飛び離れ、実剛の左側に並んだ。

「大丈夫なのか。実剛」

「体が軽い。こんな気分で戦えるのは初めて。もう何も怖くない」

 冗談を飛ばす。

 とあるSFファンタジー作品に登場する台詞だ。

 この台詞を言った本人は直後に死ぬことになるのだが、もちろん御劔はそんなことは知るよしもない。

「そもそもこれが初陣ではないのか?」

 何を言っているのだ、と顔に書いてある。

 せつない。

「うん。素で返されると悲しくて恥ずかしくて、泣きたくなるね」

「すまん。不調法でな」

「謝るような事じゃないよ。戯言だからね。それより、鬼退治の時間だよ」

「任せろ。鬼退治は得意なのだ。先祖代々な」

「や。それは頼もしい」

 御前と正対する二人。

「別れの会話は済んだか?」

 嘲笑には応えず、

「巫実剛」

「御劔朔矢」

『推して参るっ!!』

 魔王の後継者と元勇者の声が唱和した。




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