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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第8章 ~モンスター~
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モンスター 7

「秀人がなぁ……」

 なんとも言えない表情で嘆息した身体を前後に揺する。

 朝一番の特急列車で澪に帰着した実剛らを迎え、報告を受けた。

 時刻は午前十時前。

「伯父さんによろしくとのことでした」

「あいつには普通の人生を歩んで欲しかったんだけどな」

「よそで愛人どころか息子まで作っていたなんて。見下げ果てた男だわ。暁貴は」

 笑いながら沙樹が言う。

 もちろん冗談口の類である。

 暁貴は独身であり結婚歴はない。風俗で遊ぶくらいは許容範囲であろう。

「あいつの父親になってやれりゃ良かったんだがな。それは結局、秀人を澪に縛ることになっちまう」

 存外真面目な顔で返す従兄に、やや寂しさを沙樹は感じた。

 元夫との仲は修復し、復縁の話も出ているのだが、こればかりは感情の産物なのでどうにもならない。

「何はともあれ、貴重な情報に感謝だな」

 腕を組んだ鉄心が大きく息をつく。

 稲積が指摘したように、情報という一点に置いて、澪陣営は著しく不利な立場にあるのだ。

 敵が明らかになり、眷属の行方が知れたのはかなり大きい。

「どうする? 暁貴」

 質問。

 判明したということは、次は動く順番だ。

「東京に乗り込むしかあるまいよ。問題は人選だな」

「今回は苦しいな。さすがに俺とお前が出なくてはならんだろう」

「だよなー……」

 眷属を奪還しなくてはならない。

 しかも相手は、御前とよばれるモノ。

 何者なのか想像も付かない。

 人間でないことはたしかだろうが。

「たぶん、サトルやカトルの親玉だとは思うんですけどね」

 実剛が言う。

 自明のことだが、そもそもサトルやカトルが何者なのか、ということも判っていないのである。

「親玉はケトルとかスキットルとかじゃねえか?」

「暁貴」

「冗談だよ」

 沙樹に咎められ、首をすくめる当主殿。

 さすがにふざけて良い場面ではない。

「サトルってのは、サトゥルヌスじゃねえかな。で、カトルはケッツァルカトル」

 ばつが悪そうに続ける。

 前者はローマ神話に登場する神で、英語ではサターン。

 後者はメキシコの神で、翼ある蛇の姿で描かれることが多い。

「詳しいな。暁貴」

「伊達にラノベを読みまくってるわけじゃねーさ」

「情報源として信用できないというのが判った」

「ひでぇな。無駄知識の宝庫なんだぞ」

「自分で無駄だと言っているじゃないか」

 中年どもの会話を聞きながら、実剛は思い出す。

 カトルと名乗った少年がいっていた言葉を。

「どの神話大系にも属さず、魔に堕されることもなかったまつろわぬ神、だったかな」

「それな。俺なりに考えてみたんだが、ただの言いがかりじゃねえかな」

 暁貴が煙草をくわえる。

 副町長たっての希望で、澪町役場庁舎内で、唯一副町長室だけは喫煙が認められた。

 おかげで鉄心のようなスモーカーが、いつでもたむろしている。

「言いがかりですか?」

「ああ。宗教ってもんは信者がいてナンボだ。澪の女神にゃあそもそも信者なんかいねえから宗教になりようがない。宗教にならねえってことはキリスト教から弾圧されることもねえ。悪魔に堕させることもありえねえんだよ」

 つまり、カトルの言っていたことは的はずれなのだ。

 わざわざ的はずれな発言をしたのは、勘違いしているか、誘導するためのブラフか、どちらかだろう。

 外なる神うんぬんに関しても同じだ。

「ようするに、あいつらの精神世界で戦う必要はねぇってこったな」

「まあ、元々俺たちは鬼だしな。悪魔でも修羅でもたいしてかわらん」

 鉄心がまとめる。

 相手の言い分を真に受ける必要はない。

 敵の先兵が、神話上の存在であると判っていれば充分だ。

「で、人選の話に戻るんだが、俺と鉄心は行かないとなんねえ」

「ならあたしも当然同行ね」

「ダメですよ」

 ごく柔らかく拒絶する実剛。

「お三方とも、澪を離れるのはまずいです」

 いまが一番大事なときだ。

 実質的に街を動かしている暁貴と鉄心の不在は、非常に問題がある。

 ここで改革の手を止めるわけにはいかないのだから。

「僕たちが行ってきますよ」

「それも充分に拙いだろうが……子供チームに任せられる案件じゃないぞ」

「最善が取れないのなら次善の策しかありません。伯父さんの名代ができるのは僕しかいませんし」

「俺の名代は佐緒里ということか。そこはかとなく不安だがな」

「戦闘力はアテにしています」

「頭は?」

「信二先輩がいますからね。交渉ごとも安心です」

 期待していません、とは口に出さない。

 実際、頭脳労働担当が少ないのは事実なのだ。

 光、絵梨佳、佐緒里、信一あたりは完全に脳筋だし、光則や琴美もどちらかといえば肉体派である。

 軍師役ができるのは信二と美鶴だけ。

「ただ、今回は中学生は置いていきます」

「拗ねるだろうが、仕方ないな」

 事態が事態だ。

 それに、澪の防衛を考えても、能力者全員が留守にするというわけにもいかない。

 信一や光則、琴美も防衛にまわってもらった方が良いだろう。

「四人か。少なすぎるだろ」

 実剛、絵梨佳、佐緒里、信二。

 うち二名はまともな戦闘力を有していない。

 さすがに危険すぎる。

「ならば、俺たちが同行しよう」

 戸口からかかる声。

 小脇に抱えた安全帽(ヘルメット)と、粋に決めた超ロング八分丈の鳶服。

「御劔くんっ!?」

「話は聞かせてもらった」

「盗み聞きは良くないよ」

「すまん。良いシーンに登場しようと思っていたわけではないのだが、出るタイミングが掴めなくてな」

「御劔ったら、他人からお土産をもらったのが嬉しくて嬉しくて、どうしてもお礼を言うんだって宿舎を飛び出しちゃったんですよ」

 鳶の背後から、ひょっこりと顔を出す五十鈴。

「……よけいなことはいわなくて良い。実剛。ありがとうな。初めてだ。人から土産などをもらったのは」

「そんなに感謝されるとこっちが恐縮しちゃうから」

「部屋に飾ってある」

「賞味期限内に食べてね? 中身はクッキーだからさ」

 札幌の定番土産だ。

 選んでいる時間がなくて、駅構内の売店で買い求めたものである。

「その恩を返すわけではないが、俺と薄を同行させてくれ」

「でも、勇者とはいえ普通の人間には……」

「あー 言ってなかったな。御劔どのも五十鈴ちゃんも、もう量産型能力者だぞ」

 口を挟む暁貴。

「伯父さんっ!? なんでっ!?」

 実剛の口調が尖る。

 伯父は知っているはずだ。

 霊薬を飲むということは、人間を捨てることなのだと。

 まさか強いたのか。

「落ち着け。暁貴どのを責めるな。俺たちの意志だ」

 静かな御劔の態度。

「どうして……」

「暁貴どのや鉄心どのにも訊かれたがな。友のために全力を尽くすのに、なにか理由が必要なのだろうか?」

 大きく息を吐いた実剛が、御劔の胸に軽く拳をぶつける。

「君の友情は過激すぎるよ。でも、ありがとう。五十鈴さんも」

 百万の感謝を込めた言葉。

 何も言わず、五十鈴が微笑んだ。

「決まりだな」

 ぱん、と手を拍つ副町長。

「実剛たちは今日は休息して、明日には東京に向かってくれ。他は通常業務をこなしつつ防衛対応の強化だ。耳目を東京にひきつけて澪を急襲するって作戦も考えられるからな」

 盟友たちを見渡す。

 軽く頷いた一同。

『友と明日のためにっ』

 唱和する。一人を除いて。

「なあ……どうしてもその歓呼の叫び(シュプレヒコール)が必要なのか?」

 すごく嫌そうな顔を、御劔がした。



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