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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第8章 ~モンスター~
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モンスター 4

 中島公園の派出所は、ビール園からほど近い場所にあった。

 愛想のないパイプ椅子に座らされた実剛。

 正面に警官が座り、背後には絵梨佳が立っている。

 たのむから激発してくれるなよ、と思いながら、少年が口を開く。

「確認はとれましたか?」

「こんな時間にかけても、夜警しかいないだろう」

「大丈夫ですよ。澪町役場は二十四時間体制でやっていますので」

「は。ばかげている」

 警官が笑うが、事実である。

 現在の大々的な発展に対応するため、三百六十五日二十四時間体制が構築された。

 暁貴が言明したとおり、ブラック企業も裸足で逃げ出すような過酷な労働環境である。もっとも、必要充分なだけの人員的な補充も行っているので、過労死する者はいないだろう、とは、高木の言い分である。

「否定するより前に、ちゃんと確認して欲しいですね。大事になる前に」

 実剛が心から忠告する。

 なにしろ、一番温厚なのが彼なのだ。

 あまりごねると、この警官が心配である。立場的にも純粋に肉体的にも。

「子供が大人に意見するものじゃない」

 むっとする警官A。

 どうしてわざわざ虎の尾を踏むのか。

 大きく息を吐いた実剛が腕を組む。

「そういう事を言われると、こちらとしてもこう返さざるをえないんですよ。いち警官ごときが、小なりといえども街の全権代理者を拘束するのか、とね」

 穏やかな口調。

 だが、警官は激した。

 軽侮されることに慣れていないのだろう。

 椅子を蹴って立ちあがる。

「ふざけるなっ!」

「やめた方が良い。職を失いますよ。あるいは本当に消されるか」

「ガキがっ!」

 つかみかかろうとする腕。

 無言のまま、絵梨佳が迎撃に移る。

 その瞬間、轟く銃声。

 一瞬でも遅ければ、無謀な警官の腕はへし折られていたことだろう。

 駆け込んでくる数名の私服の男たち。

 唖然とした警官Aを拘束し、床に這い蹲らせる。

「申し訳ありません巫さま」

 二十代に見える男が、警官の横に平伏した。

 若いが、おそらくは階級が一番上なのだろう。

 中肉中背で、ごくありふれたスーツ。

 整えない黒い前髪が、好青年の印象である。

 先に知事が動いたか。

 軽く予測した少年が鷹揚に頷く。

「かまいませんよ。どうやらこの方は事情を知らなかっただけのようです」

「寛大なお言葉。感謝に堪えません」

「あなたは?」

「道警の稲積(いなづみ)です。知事より連絡を受け、部下の不始末を謝罪するために参じました」

「ご丁寧に。どうか顔を上げてください。何もなかったのですから謝罪は不要です」

 立ちあがらせる少年。

 稲積が時の氏神ともいうべきタイミングで登場してくれたおかげで、大事にならなかった。

 感謝こそすれ、責めるべきなにものもない。

「ホテルまでお送りします」

 慇懃な態度だが、ようするにこれ以上トラブルを起こすな、という意味だ。

 東京でも似たような扱いを受けたのでよくわかる。

「ありがとうございます」

 逆らわずに頷くが、気にかかることもあった。

「彼らはどうなるでしょう?」

 実剛たちに難癖を付けた警官たちだ。

 知事のやり口を考えると、詰め腹を切らされてもおかしくはない。

「戒告と減俸。このあたりで手を打ちませんか?」

 二手先を読んだような稲積の申し出。

 彼は言っているである。

 お咎めなしというわけにはいかない。知事の面目を潰してしまったのだから。

 だが放っておいて粛正の対象とするのは忍びない。

 実剛から寛恕を求める口添えをしてもらえないか、と。

「一筆書けばよろしいですか?」

 察した少年が紙とペンを求める。

 記す内容は簡潔だ。

 このような事態を招いたのは、警官たちが職務に忠実だったためで、咎めるには及ばない。彼らの対応は丁寧で、とくに不快感は感じなかった。

 後半はリップサービスである。

「感謝いたします」

『か、感謝いたしますっ!!』

 稲積に続いて警官ABも頭を下げた。

 同行の私服刑事たちから説明を受けたのだろう。蒼白になっていた。

 手を振って派出所を出る実剛と絵梨佳。

 夜の空気が包む。

 ライトアップされた中島公園が美しい。

「ふぁぁぁっ」

 おもわず感嘆の声を少女が発した。

「まっすぐホテルに帰るのが惜しいくらいだね」

 実剛も目を細めている。

「少しだけ散歩していきますか?」

 提案する稲積。

「良いんですか? 稲積警視」

「ふたりきりにしてあげられないのが恐縮ですが」

 自分が同行する、と言外に告げる。





 幻想的な装いを見せる豊平館を横目に散策する三人。

「昼は家族連れが多いのですが、さすがに夜はカップルばかりですね。おじゃま虫が一緒で申し訳ありません。巫さま」

「邪魔だなんて思っていませんよ。それに、敬称はやめてください。いつまで経っても慣れません」

「そうか。では巫」

「いきなりタメ語っ!?」

 切り替えの速さに、おもわず絵梨佳が笑ってしまう。

「知事のお膝元でトラブルは避けろ。足下をすくわれるぞ」

 真面目な表情で続ける稲積。

 警告めいた発言。

 実剛が面食らう。

「ええと……ご忠告ありがとうございます?」

 反応に困る。

 北海道の役人から注意を喚起されるのは、いささか意外だった。

「お前らには、せいぜい派手に知事と潰し合ってほしいからな。制服警官ていどの小者と相打ちでは話にならん」

「え?」

 笑う稲積。

 なぜか背に冷たいものを感じる。

「稲積警視? あなたはいったいなにを……」

「巫。お前はまだ力に目覚めていないな」

 すっと手が伸び、少年の顎を掴んだ。

 くいと持ち上げられる。

「え?」

 近づいてくる顔。

「そういう展開は望んでないからっ!」

 絵梨佳の脚が跳ね上がる。

 必殺の間合いのはずだが、大きく飛びさがって回避する稲積。

「芝の姫君はやきもち焼きだな」

「何者ですかっ」

 実剛を背後に庇い、威嚇する少女。

 男に抱きしめられたりキスされそうになったり。

 ここ最近、散々な目に遭っている実剛が、両腕に吹き出した鳥肌を懸命にさすっていた。

「何者ね。良い質問だ。俺も最近までは知らなかったからな」

 夜よりもなお深い深淵の蒼(ディープブルー)に染まってゆく稲積の髪。

 目を見張る実剛と絵梨佳。

 この変身は、まさか……。

「澪の血族がひとつ、稲津の血を引く者。稲積秀人(いなづみ ひでと)。お前らの敵だよ」

 ふたたび笑う男。

 唐突に実剛は思い出した。

 アルカイックスマイル。

 仏像などがしばしば見せる、慈愛と冷酷さを併せ持つ笑み。

 それは、そう呼び慣わされてきた。



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