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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第7章 ~四方八方敵だらけっ~
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四方八方敵だらけ 4

 誰もいない廊下。

 絵梨佳を抱いた実剛が歩く。

 あちこちに戦闘の痕跡はあるが、負傷者はすでに後送されたのだろう。

 破壊された調度品が、無駄に広い廊下に散らばるばかりである。

「だいたい片づいたってことかな」

「そうなんですか?」

「たぶんね」

 戦闘が継続中であり、それが激しいものだとするなら、負傷者にかまっている余裕はないだろう。

 決着したか、膠着状態か。

 いずれにしても、すぐに襲われる危険はすくない。

「信二先輩たちに合流するか、アンジー姉さんを追いかけるか。どうしようかな」

 きちんと決めていない。

 まさに、行き当たりばったり作戦である。

「それじゃあ、さきに信二さんと合流しませんか?」

「そのこころは?」

「アンジーさんはまっすぐ地下に向かったと思うんですよね。そしたら一階にいる信二さんチームの方が近いと思います」

 たいして深い意味もない。

 単純に、居場所が近そうな方と合流しようというだけだ。

「OK」

 実剛としても他に名案があるわけではない。

 仲間たちの姿を求めて、一階をうろつくことになった。





「組織的な抵抗は終わりましたね。指揮官にはまんまと逃げられてしまいましたが」

 裏口を見やった信二が溜息をついた。

 地図には裏口など載っていなかったが、ちゃんと存在していたらしい。

 彼らがここを発見したときには、自衛隊は完全に逃走してしまっていた。

 出し抜かれた格好だが、目的は敵の殲滅ではない。

 逃げたいというなら逃がしてしまってかまわないのだ。

 もっとも、絵梨佳も琴美も敵の逃走を許してしまっていることを知れば、魚顔軍師もここまで落ち着いていられたかどうか。

 これほどの大立ち回りを演じて、情報源をひとつも確保できなかった。

 むろん、彼らの最大の戦略目標は沙樹の救出である。

 それ以外のことが疎かになるのは、この際は仕方がないだろう。

 その第一目標は達成されようとしていた。

「お母さんっ」

 地下室に躍り込む琴美。

 村井が油断なく周囲を警戒する。

 地下の一室。

 かなり豪華な部屋だ。

 ビリヤード台などが置かれているところをみると、遊戯室の類かもしれない。

 沙樹は中央部に設置された簡易ベッドに拘束されていた。

「やあ。出迎えごくろう」

 余裕たっぷりの母親の声。

 首だけこちらに向けている。

 身体は毛布のようなものがかけられているので見えないが、どうやら相当に恥ずかしいポーズを取らされているらしい。

「いやっ そんなかっこで余裕かまされてもっ」

 駆け寄る。

「あー 毛布剥がすなよ? さすがに夫や娘にもこのかっこは見せられないから」

「沙樹……お前はまだ俺を夫と呼んでくれるのか」

「むしろあたしこそ、それを問いたいわよ。なんであなたがここにいるのよ。ゆうぞーくん」

「ぐ……」

「別れた女房を助けにくるとか。意味不明なんだけど」

「……た」

「た?」

「た、ただの気まぐれだっ」

「はいはい。中年夫婦のツンデレごっこなんて誰得なのよ。ワイヤー斬るからおとうさん下がってて」

 呆れ果てた口調の琴美が極細のワイヤーに手をかける。

 力任せに引きちぎってしまうと母親の手足にダメージを与えるので、一点だけに集中し、指先の力だけで千切る。

 ぶつ、という音とともに解放される沙樹の右手足。

「けっこう頑丈。なんだろこれ」

「おそらく、炭素繊維を編み込んだものだろうな」

「無駄なことにお金かけて」

 自由になった右手を使い、左のワイヤーを千切る沙樹。

 十数時間ぶりの自由を謳歌するように、両手を振る。

「ふえーぃ からだばっきばき」

「……大丈夫か? 沙樹」

「肉体的にはたいしてダメージはないわ。精神的なダメージの方は、あなた達が復讐してくれたんだよね?」

「最後は逃げられてしまったが」

「OK。いまはそれで我慢しましょ。次にあったときに殺せば良いわ」

「……強いな」

「母親だもの。子供を産んだら女は強くなんのよ」

 犯したくらいで女が屈服すると思ったら大間違いだ。

 ふん、と鼻をならす蒼銀の魔女。

 どれほどの穢れも、彼女の輝きを奪うことはできまい。

 埒もないことを考える村井だったが、心づいたように服を脱ぐ。

「なに? 欲情したの? ゆうぞーくん」

「阿呆。裸では逃走もままならないだろう。これを着ろ」

 ぼろぼろで血まみれのシャツ。

 激戦の痕だ。

 こんな状態になってまで、この男は離婚した妻を助けにきた。

 受け取った沙樹。

「……あほうはきみだよ……」

 口中に呟く。

「なんだ?」

「なんでもないっ 血まみれできたねーなって言っただけよっ」

 言いつつも嬉々として身につけたりして。

「熟女の裸ワイシャツ。どこにそんなニーズがあるか聞きたいところだけど」

 なまあたたかい目で両親を見守る琴美。

 一度言葉を切って続ける。

「もうあんたら復縁したら?」

 どんだけラブラブなんだって話だ。

「む」

「ぬ」

 変な声をだして、互いの顔を見つめる沙樹と村井だった。




「実剛。無事だったか」

 親友の姿を発見した光則が駆け寄ってくる。

 そして抱かれている絵梨佳を見て、

「降りろ」

 一言。

「またみっつが妬いてます」

「戦地だぞっ 時と場合を考えろよっ」

「まあまあ光則。絵梨佳ちゃんは力を使ったばかりで疲れてるから」

 仲裁する実剛。

「ぐ……お前がそうやって甘やかすから……」

 疲れてたら重力制御なんて使えるわけないだろうが、と言いたい。

 すごく言いたい。

 だが、力を解放して戦ったのなら、疲労困憊しているのはたしかだろう。

「憶えてろよ絵梨佳。月夜の晩ばかりじゃないからな」

「前にもそんなこと言ってたけど、月夜じゃないとなんか意味あるの? みっつ」

「ああ。闇討ちに気を付けろよって意味なんだよ。絵梨佳ちゃん」

 解説してみせた実剛だ。

 ようするに、月が出ていない夜道なら闇討ちの成功率が上がるというわけだ。もちろん、常夜灯などがない時代の台詞である。

「へぇ。そうだったのか」

「知らないで使ってたのかよっ」

 あまりといえばあまりな光則の言葉に思わず実剛がつっこむが、語源を知らない台詞回しなど良くある話だ。

「ところで信二先輩。佐緒里さんの姿が見えませんが」

 視線を転じ、歩み寄ってきた軍師に訊ねる。

「組織的な抵抗は終わりましたがね。念のために斥候に出ていますよ。御大将」

「なるほど。ならじきに沙樹さんの居場所も判るかな」

「遠からず……と、言っている間に向こうからやってきましたね」

 苦笑し、信二が片手を挙げる。

 廊下の向こう側から、姿を見せる親子連れ。

「おやおや。村井氏まで出張っていたとは」

「愛ゆえにじゃないですか?」

 余計なことをいう絵梨佳。

「大人の問題ですからね。子供が口を出すもんじゃありませんよ」

 困った顔で信二がたしなめた。

 これで、どうにか作戦終了のようである。

 弛緩した空気が流れる。

 それを破ったのは、佐緒里だった。

 やや慌てた様子で合流する。

「戦車と装甲車が近づいてる。数は二十くらいだった」

 緊張を含んだ声。

 べしっと、軍師が平手で自分の額を叩いた。

「戦争でも始めるつもりなんですかね。この国は」

 冗談めかした言葉に、だが笑う者は一人もいなかった。





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