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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第6章 ~歓迎! 勇者様御一行~
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歓迎! 勇者様御一行 9

 嫌な夢を見た。

 生きたまま四肢を引き千切られ、血まみれで異形の怪物に喰われる夢だ。

 小さな悲鳴をあげ、眠りの園から逃亡する。

 冷たい汗が髪を額に張り付かせ、不快感をさそう。

 右手でそれを拭おうとした沙樹だったが、腕が動かないことに気が付いた。腕だけではない。足にも感覚がない。

 まさか!?

 慌てて自分の身体を観察する。

 そして、ほっと息をついた。

 縛りあげられているため、一時的に感覚が麻痺しているだけだ。

「……どのくらい時間が経ったのかしら?」

 次第に明瞭になってくる意識が、彼女に問いかける。

 むろん、解答の持ち合わせなどあろうはずもない。

 窓もない暗い部屋。

 倉庫だろうか。それとも地下室?

 知る術もなかった。

 それにしてもなんたる失態か。

 気配を消して背後から近づいてきた男に気づかなかった。

 相手の方が一枚上手だったとか、探知系は苦手だとか、言い訳はいくらでもできるが、敗北して捕まってしまったという事実は動かない。

「ふぬぬぬぬっ……ダメか……」

 両手両足に力を込めたが、おそらくワイヤーか何かで縛られているのだろう。引き千切ることはできなかった。

 命が奪われていないということは、敵に自分を殺すつもりがないということだ。あくまで現状、という注釈がつくが。

 もちろん、人道や騎士道精神によって沙樹は生かされているわけではないだろう。

 目的は澪の血。

 これは自明である。

 ただ、いくら若く見えても沙樹は四十代だ。

 子作りに利用されるとは考えにくい。

 となると、求めているのは知識か。

「教えないと殺されるんだろうな……やっぱり……」

 拷問死という残酷な方法で。

「……ゆうぞー……琴美……ごめんね」

 心の中で別れた夫と愛娘に別れを告げる。

 黒曜石のような瞳から落ちた雫が一条、頬を伝う。

 不思議だった。

 あの日から、もう二度と涙は流すまいと決めていたのに。

 感情の泉とは、尽きないものらしい。

 奇妙なことに納得しながら、沙樹の耳は近づいてくる足音を聞いていた。






 安寺沙樹が東京の能力者に敗れ、いずこかへ連れ去られた。

 東京に潜入している草たちからの情報。

 この報に触れたとき、寒河江の当主たる義春はまずは耳を疑い、ついで報告者の正気を疑った。

 蒼銀の魔女である。

 同世代の彼は知っている。

 直接の面識はないが、澪の最強の女戦士。

 その気になれば、ひとりで一国を相手に戦えると言われていたほどだ。

 にわかには信じがたいニュースである。

 と、そこまで考えて、ある可能性に思い至る。

「おい。この情報、村井には絶対に伝えるなよ」

「それが……」

 言葉を詰まらせる部下。

「おい。まさか……」

「……すでに村井氏は、出奔しました」

「なんてこったい……」

 頭を抱える鬼の頭領。

 とはいえ、起こってしまった事態を嘆いてばかりもいられない。

「澪に連絡しろ。うちの村井が救出に向かったことも含めてな」

 疑いもしない。

 彼がそういう男だということを、義春は長くもない付き合いで知っている。

「死ぬなよ。村井」

 呟きは音波にはならず、誰の耳にも届かなかった。





「暁貴」

 ノックもなしに副町長室に入ってきた鉄心が、盟友の名を呼ぶ。

 緊迫した声。

 巫の当主は、それだけで事態の急を悟った。

「なにがあった? 鉄心」

「沙樹が拉致された」

「殺されたわけではないんだな?」

「未確認だ」

「判った。すぐに救出隊を組織する」

 無意味な問答に時間をかけず決断する暁貴。

「了解だ。人選をしてくれ」

「俺とお前」

「却下」

「じゃあ、実剛、琴美、絵梨佳、佐緒里、光則、信二だ」

「子供チームの主力投入か。戦闘員で様子見はしないのか?」

 暁貴と鉄心が動けない以上、これが最大戦力である。

 さすがに中学生の光や美鶴は投入できない。

「様子見?」

 ふん、と鼻を鳴らす暁貴。

「場合によっては、東京って街を地図から消してやんよ」

 冗談めかした言葉。

 だが鉄心は、首の後ろあたりに寒気を感じた。

 盟友が、ただの一言も冗談など言っていないことを知っていたから。

 何のつもりで東京の連中が暴挙に出たのかは知らないが、どうか沙樹を無事に返して欲しいものだと、切に願う。

「首都消失はSF小説だけでたくさんだからな」





 その日の午後、実剛たちは東京の地を踏んでいた。

 沙樹が拉致されてから、十二時間も経過していない。

「アンジー姉さん。頼みます」

 チームリーダーの言葉に従い、蒼銀の髪の少女が感覚を研ぎ澄ます。

 最初から本気モードだ。

 東京中の動物たちから情報を集める。

 どんな諜報員よりも優秀な、彼女の情報収集能力である。

「……みつけた」

「すぐに向かいましょう」

「場所が悪い、かも」

「どこです? まさか軍事施設とかじゃないですよね?」

 実剛の質問。

「もうちょっと性質が悪いかな。首相官邸よ」

「それはそれは」

 にやりと笑ったのは魚顔軍師だ。

 どうやらこの国は、本気で澪の一族とケンカがしたいらしい。

「正面から乗り込むのは、まずいですね」

 いくらなんでも、それは話題性豊富すぎる。

「でも、正面以外からは入れませんよ?」

 まさか地下に秘密の入口がある、という都合の良い展開もない。

「なら、上から行きましょう」

 絵梨佳が言った。

 真剣なまなざしである。

「上?」

「なるほど。首相官邸の屋上はヘリポートになっていますね」

 実剛の疑問に応えるのは信二である。

「絵梨佳嬢が全員を抱えて飛ぶ、ということですか」

「実剛さんと信二さんは居残りですよ? 戦闘力低いんですから」

「……それだと俺も居残りじゃないか?」

 情けなさそうに言う光則。

 絵梨佳、琴美、佐緒里の三人と比較されてしまうと、砂使いは明らかに一段落ちてしまう。

「遊兵を作るのは面白くないですね。ここは二手に分かれますか」

 腕を組む軍師。

 敵地において戦力を分断しない。これは常識であるが、ここはあえて奇策をとろう。

「俺と佐緒里嬢。そして光則君で正面から行きます。なるべく注意をひくように行動しますので、その隙に御大将と絵梨佳嬢、アンジーで屋上から潜入。沙樹さまの救出に向かってください。こまごましたことは、都度修正しながら、臨機応変に」

 信二らしくもない大雑把な作戦。

「わかりました。それで行きましょう」

 だが、実剛は大きく頷いた。






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