歓迎! 勇者様御一行 5
さて、子供チームが無限の麺製をして遊んでいる頃、大人チームはもう少し深刻な話をしていた。
「勇者様の背後を探る? なんでまた」
私設秘書の沙樹が小首をかしげる。
「タイムリー過ぎると思ってな。ご登場が」
鉄心の言葉。
ふむ、と暁貴が頷いた。
言われてみれば情報が速すぎる。
北海道知事が動くのとほぼ同じタイミングで澪を訪れる。偶然といってしまえばそれまでだが、勇者たちには独自の情報網などないはずだ。
こんな田舎町の改革の情報が耳に入り、その後、仲間を募って遠征する。
一日二日で可能なことではない。
「すこしばかり能動的すぎんな。たしかに」
作為的なものを感じる。
「けど、あの子たちは悪い子には見えなかったわよ」
リーダーの御劔が十七歳。娘の琴美と同い年だ。
政略とか謀略とかに縁がありそうにはみえない。
「あいつらはただの正義の味方だろうよ。無力な人間たちのために立ちあがったな。もちろん相応の野心はあるだろうが」
「問題は、その野心の炎に誰が風を送ったのかってことか?」
盟友の言葉を引き継ぐ副町長。
不遇を託っていた勇者の末裔。
誰かが彼らに澪の情報を与えた。
モンスターが支配する町がある、と。
「いや、そこはそれほど問題ではない。暁貴」
「だよな。べつに俺たちは素性を隠してない。積極的に語ってないだけで、調べりゃすぐに判るこった」
「調べれば判ることをわざわざ教えて、勇者たちを動かしたって事? なんのために?」
ううん、と沙樹がうなる。
目的が判らない。
「まあ、判らないから調べるんだがな。それに、戦略的な目的は判らなくとも戦術的な目的なら推測できる」
「どういうこと? 鉄心」
「あいつらは捨て駒さ。まずは一当たりして、こちらの戦力的なものを部分的にでも知りたかったんだろう」
「あっきれた……そんなしょーもないことに子供たちを使ったってこと?」
勇者の末裔といっても、戦闘力は訓練を積んでいない量産型能力者と同程度。ただの自殺行為である。
温厚な実剛と脳天気な絵梨佳が相手だったから殺されずに済んだが、琴美や佐緒里と戦っていたら、冗談ではなく屠られていた可能性が高い。
非情の策といっても良い。
「もっとも、幕の影で笛を吹いていた御仁は、我々も勇者も同列に見ているだろうから、非情でもなんでもないだろうがな」
澪の血族や鬼の血脈がモンスターだとするなら、勇者の血統もバケモノなのだ。
つぶし合ってくれるのが最も効率がよいということだろう。
「なんか腹立つわね……」
「いまさらだ。人間が考えそうなことではないか」
「ちなみに、鉄心はどう読むんだ?」
沙樹の感想はひとまずおいて、暁貴が訊ねる。
「図ったようなタイミングから考えて、そのへんを調整できる組織だろうな」
知事が訪町する時期を見計らったように、勇者たちが現れた。
偶然でないとするなら、知事のスケジュールと勇者たちの行動速度を正確に読みとれる人間ということになる。
そんなことは個人レベルでは不可能だ。
となると、
「国か、それに準じる組織っちゅー話だな。めんどくせー」
やれやれと肩をすくめる副町長。
いずれそのあたりが絡んでくるのは判りきっていたことだが、実際に対応するとなると面倒さが先に立つ。
「内調か陸幕あたりを探ってみれば、なにか出てくるかもしれん。沙樹。頼めるか?」
「あたし暁貴の秘書だよ? 澪離れるのまずくない?」
「おおいに拙いが、かといって、他に適任もいない。能力的にも人員的にも」
鉄心の声は苦い。
探るとしたら東京に出向くことになる。
潜在的な敵の総本山だ。
なまなかな人間では、きれいに消されてしまう可能性がある。
「ピンでも動けて、絶対に無事に帰ってこれるやつってなると、たしかに沙樹しかいねぇのか」
頭が切れ、戦闘力が高く、諜報活動もできる人材などそうそういるわけがない。
腕を組む暁貴。
「修行がてら、うちの娘でもいかせてみる?」
「なんかあったら困るから却下」
「あたしになんかあるとは思わないのかねぇ。暁貴は」
すこしだけ拗ねたような沙樹の顔。
「思ってるから困ってる。いっそ俺がいこうかとか」
横目で見ながら、副町長が溜息を吐いた。
「それは一番駄目だろうが」
すっぱり切り捨てる鬼の頭領。
総大将がのこのこ敵地に赴くなど、聞いたこともない。
「いずれにしても子供チームには任せられんだろう。経験不足も否めないしな」
ことは国との騙し合いなる。
いくら聡明とはいえ、信二や琴美では荷が重い。
「仕方ないか。あたしのいない間、暁貴のフォローは鉄心がやってね」
「やだよ。こんなおっさんが秘書なんて」
暁貴が一秒で却下する。
むろん、かなり線で鉄心も同意見だった。
「俺だって嫌だ。うちの戦闘員から女性を一人まわそう」
まあ、来客に鉄心がお茶とか出したら、ほとんどの客は逃げてしまう。
戦闘力的には不安がのこるが、萩の女性戦闘員というのは無難な選択だろう。
「浮気しないでよね。暁貴」
「するかっ というより俺とお前は従兄妹同士だっ 誤解を招くような発言すんなっ」
すっかりトラウマになってる副町長である。
からからと沙樹が笑う。
「ちなみに出張扱いで良いの?」
「もちろん」
「じゃあ、赤プリ泊まってみたい」
「バブルかよ。いいけどな。べつに」
「駄目に決まっているだろう」
横から口を挟む鉄心。
「けちねぇ」
「けちではない。物理的に不可能だ。もう赤坂プリンスは存在しないからな」
バブルの夢は、とうの昔に弾けてしまっているのだ。
『マジでっ!?』
暁貴と沙樹の声がはもる。
情報が遅すぎだ。
「赤プリはともかく、できるだけ高級なホテルに泊まれ。貧乏だと思われないように軍資金はたっぷりもっていけよ。あとは沙樹の判断に委ねる」
「りょーかい」
軽く受ける。
蒼銀の魔女と呼ばれた女。
ソビエト連邦の諜報員たちが震え上がった魔女が、ふたたび蠢動する。




