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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第6章 ~歓迎! 勇者様御一行~
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歓迎! 勇者様御一行 2

 勇者様御一行が拘留されている部屋は、実剛の私室より十倍ほど立派な客間だった。

 エアコンだってついている。

 北海道の個人宅でエアコン完備は、かなりのオカネモチの証拠だ。

 もちろん巫邸にそんな文明の利器はない。

 囚人のはずの彼らが、自分より良い環境にいるというのは如何なものか。

「もう殺しちゃっていいんじゃないかな?」

 いきなり不穏当なことを言う実剛。

「まあまあ実剛くん」

 まるで平和主義者のように琴美がたしなめる。

 話をするために赴いたのに、殺してどうする。

 むろん実剛の言葉は六十パーセントほど冗談だ。

「残り四割は本気ということだな。モンスターの首魁」

 腫れた顔で御劔が皮肉を飛ばした。

 拷問の痕ではなく、昨夜の殴り合いの痕跡である。

 敗北した彼らは、べつに証言を拒否しなかったので、拷問などは行われなかったと萩の当主は語っていた。

「元気そうで何よりだよ。勇者さん」

 おもいきりしゃらくさい口調で返す実剛。

 勝手に椅子に座る。

「おなかはすいてないかい?」

「敵の施しなど受けない」

 虚勢を張るが、鼻腔を刺激するにおいに釣られて腹が鳴る。

 く、と悔しそうに頬を染める少年。

「ハンストなんてバカらしいよ。死ぬにしても生きるにしても、まずはこれを食べてからにしてほしいな」

 目配せ。

 頷いた信二が廊下に控える絵梨佳と琴美に合図を送る。

 カートを押して入ってくる少女たち。

 乗っているのは、澪豚の唐揚げ丼と唐揚げラーメンだ。

 露店で販売しているものである。

「これは施しじゃない。取引だよ。感想を聞かせて欲しいんだよね。あと、どっちが美味しいかも」

「何を言っている?」

 怪訝そうに御劔が問う。

「僕たちがB-1で勝つためには、出場までに一人でも多くの声を集めて、究極の一品を完成させないといけないからね」

「B-1……だと……?」

 モンスターの首魁が何を言っているのか理解できない。

 圧倒的な戦闘力で町を支配下に置く怪物たちが目指しているものが、B級グルメ選手権の優勝。

 意味不明すぎる。

 冷めないうちにどうぞと重ねて勧められ、狐につままれたような表情で箸を付ける勇者たち。

 一口、二口。

 止まらない。

 よほど飢えていたのか、御劔などは掻きこんで食べている。

 感想は期待できそうもないかなと苦笑した実剛の耳道に滑り込む呟き。

「これは……美湯豚……いや違う。あそこまで上品な味でも完成された味でもない……でも、潜在能力(ポテンシャル)で負けていない。なんなのこの豚は……?」

 ロングボウを使っていた女勇者の一人だ。

 認識するより速く次期当主と芝の姫が動いていた。

 光の速さで女勇者のまえに移動する。

「あなたはっ 知っている人ですねっ」

 くわっと目を見開き、掴みかからんばかりに詰め寄る絵梨佳。

「美湯豚を知っているんですねっ 味の差も判るんですねっ」

 似たような状態の実剛。

「落ち着きなされ。御大将。絵梨佳嬢」

 呆れた顔の魚顔軍師が、襟首を掴んで引きずってゆく。

 目を丸くする勇者たち。

「あ、こいつらはかまわなくて良いんで、まずは食事をしちゃって」

 にっこりと琴美が笑った。




「ぐえぇぇっぷ」

 下品な音を立てて、御劔がげっぷをした。

 食べた食べた。

 唐揚げ丼と唐揚げラーメンを二杯ずつ。

 ハーフサイズとはいえ、二人前以上食べた計算である。

 空きっ腹にそんなに食べて大丈夫かと心配になるが、泣きそうな顔でおかわりをせがまれると、琴美としても出さざるを得なかった。

 それに、御劔などはどうでもいいのだ。

「かなりの舌を持つ御仁とお見受けします」

「まずはお名前を教えてください」

 実剛と絵梨佳が、女勇者のまえに正座している。

 威厳もへったくれもない。

 あんなんでも、澪を実質的に支配する巫一族の次期当主とその婚約者である。

「えと…薄五十鈴(すすき いすず)ですが……」

 面食らいつつも自己紹介する女勇者。

「五十鈴さんですねっ まずは忌憚のない意見を聞かせてくださいっ」

「美湯豚との比較もお願いしますっ」

「あ、はい」

 なんだかよくわからないが、感想を言えばいいのだろうか。

「唐揚げですが……」

 たしかに旨い。

 洗練されたものではないが、ある種野蛮なまでの旨味をもち、食感は暴力的ですらある。

 たとえて言うなら、ボーイッシュで元気いっぱいの女の子、というかんじであろうか。

 比較対照として出された美湯豚は、鹿児島のブランド豚である。

 柔らかく繊細でたおやかな味は、深窓の令嬢と例えればよかろうか。

 だが、根底の部分では両者はよく似ている。

 裡に秘めた強烈な旨味(パワー)だ。

 一口で人を虜にする魅力。

「でも、この唐揚げは、まだ未完成ですよね?」

 小首をかしげての台詞。

 ハンマーで思い切り頭を殴られたような顔をする絵梨佳と実剛。

 見抜かれたっ!?

 たった一度の試食で気づかれたっ!?

 澪豚にまだ伸び代があることを。

 五十鈴の右手を実剛が、左手を絵梨佳が握る。

『ぜひ協力してくださいっ』

 はもってるし。

「なんなんだ? いったい」

 御劔が問いかける。

 ぎゅりっ と音がしそうな勢いで振り返った実剛が、いきなり握手を求めてくる。

「ありがとうっ 御劔くんっ こんなすばらしい人を連れてきてくれてっ」

「あ、ああ。どういたしまして?」

 勢いに負けて、思わず握手に応じてしまう。

 悪の総大将と。

「て、そうじゃないっ」

 ばっと振り払う。

 なんでフレンドリーに握手などしているのだ。

「話がまったく先に進みませんね。アンジー。めんどくさいんで御大将と絵梨佳嬢を隣室に放り込んできてください」

「はーい」

 魚顔軍師の指示に従い、二人の襟首を掴んで引きずってゆく琴美。

「まってアンジー姉さんっ もう少し話を」

 又従弟が抵抗するが、しったこっちゃなかった。

「さて、順を追って説明しますか」

 やれやれと言った顔で、信二が語り始めた。

 巫の一族は澪を支配しているが、目的は町おこしであること。

 民主主義的な手法にこだわる余裕がないほど、この町が疲弊し腐りきっていたこと。

 人民による改革ではないが、人民のための改革であること。

 実剛たちが名産品作りに心血を注いでいること。

「ようするに、俺たちとしては無駄に人間と争うつもりはないわけですよ」

 もちろん牙を剥いてくるなら容赦はしませんが、と付け加える。

「なんというか、御伽話やサーガを根底からひっくり返すような話だな」

 微妙な顔をする御劔。

 呆れきった顔、というのが最も近いだろうか。

 人外たちが町おこし。

 笑うしかない。

「御大将の為人に引っ張られたかたちですね。どうです? まだ戦いを望みますか?」

「すでに勝敗は決している。この上は勝者の意向に従おう」

 御劔が言った。

 葛藤が無いわけではない。

 生きて虜囚の辱めを受けるより、潔く死を選ぶべきとの思いもある。

 だが、先ほどの飯は旨かった。

 時間をかけ、手間をかけ、食べる人に喜んでもらいたいという思いが伝わる味だった。

 そんなモンスターなら、

「軍門に降るのも、悪くはない」

 リーダーの言葉に、勇者たちが頷く。

「ただし、あくまでも貴様らが世のため人のために動いている限り、という条件だ。人に害をなそうというなら、そのときは」

 言葉を切る。

 戦闘力において比較にならないのは明らかだ。

「差し違えてでも、討つ」

 静かな、だが断固とした覚悟を込めた言葉。

 そのとき、ばーんと音を立てて扉がひらく。

 実剛と絵梨佳が戻ってきたのだ。

 横断幕をもって。

『熱烈歓迎! 勇者様御一行!!』

 広げられたそれには、頭痛の種にしかならない言葉が踊っていた。

 いっしょうけんめー作っていたらしい。

 ドヤ顔の二人。

「めずらしく大人しくしていると思ったら……」

 頭を抱える信二。

「……なあみんな。もう歩いて帰るか……?」

 仲間たちに問いかける貧乏勇者であった。








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