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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第5章 ~僕、夏になったら海水浴にいくんだ……~
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僕、夏になったら海水浴に行くんだ…… 10

「……何人?」

「六名。能力者ではありませんが、訓練された動きです」

 ささやき合う実剛と絵梨佳。

 やがて二人の前に姿を見せる人影。

 若い。

 まだ少年といって良い容貌だ。

「良く気づいたな。モンスター」

 リーダー格なのだろうか、実剛とそう変わらない年頃の少年が口を開く。

 実剛を守るように立つ絵梨佳。

 自分でも情けないとは思うが、こればかりは仕方がない。

 なにしろ彼の戦闘力は凡人以下なのだ。

「何の用だろうか。できればアポイントを入れてからにして欲しかったが」

 問いかける。

 鼻で笑う少年。

「これから会いに行きますって電話でもするのか? 人間が? バケモノに?」

「最低限のマナーだと思うけどね」

「バケモノが人間にマナーを要求する。滑稽を通り越してグロテスクだな」

 好戦的だ。

 そして無礼だ。

 自分たちが人外であることは事実としても、それだけを理由に社交儀礼すら守らないというのは如何なものだろうか。

「それで、君たちは戦いにきたのだろうか?」

 質問を繰り返す。

 なにしろまともに答えてくれないので、こちらで誘導するしかない。

 きっとファンタジーもののボスキャラもこんな感じだったんだろうな、と、こんな場合だが実剛は奇妙なおかしみを感じた。

 相手は端から交渉するつもりなど無く、コミュニケーションすら拒否している。会話が成立しないというのは、なかなかに大変である。

「知れたことを」

 吐き捨てる少年。

 どうやら当然のことらしい。

 深い溜息を実剛が吐いた。

「判ったよ。でもここじゃまずい。観光のお客さんたちを巻き込んじゃうからね」

「バケモノが人間の心配か?」

「むしろ人間の君たちが人間の心配をしなよ。それに、僕は良心的でいられる範囲内においては良心的でありたいと思っているんだ」

 巫の次期当主が微笑した。

 良心的でいられる範囲を超えたら、どうなるか判らないぞ、と言外に語る。

「…………」

 鼻白む少年。

「公園にでも行こうか。グラウンドがあるからね」

 返答も待たずに歩き出す。

 途中、一度だ振り返ったのは、付いてこいという意思表示だ。

「ひとりで大丈夫そう?」

 絵梨佳の耳にだけやっと聞こえる声。

「手加減の方が大変そうです」

 笑み。

 天使のような、と表して良いが、どこか薄ら寒いものを感じさせる微笑。

 当然である。

 実剛に失礼な口をきいたのだ。

 命までは奪わないが、骨の二、三本は覚悟してもらわねばなるまい。




 かつて佐緒里と琴美が戦いを演じた公園。

 あのときは早春だった

 季節は巡り夏となったが、やはり訪れたのは非友好的な客たちである。

「人がいない。桜の季節にはいっぱいいたのに」

 実剛が慨嘆した。

 寂しげな公園。

 人がいない場所に連れてきたのだから当然なのであるが、これはこれで改善すべき案件ではある。

 一年中、どんな場所でも人の溢れる町にしたい。

 もっとも、深夜の公園にまで人がたむろしているのでは、いささが問題があるというものだが。

「さてと、このあたりでいいかな?」

 軽く頭を振った実剛が振り返り、少年たちに視線を送る。

 六名。

 内二名が女の子だ。

 その子たちが後衛の位置につき、少年四名が前衛の位置に立つ。

 上空から俯瞰すれば、ややゆがんだ矢印といった陣形だ。

 鏑矢陣というのだが、もちろん実剛にそんな知識はない。

 そもそもフォーメーションをとって戦った経験すらないのである。

「一応、もう一度確認しておくよ。君たちの目的はなんだい?」

「くどいな。バケモノの首魁。貴様を倒し、この町をバケモノの手から開放する」

「おおう……」

 不覚にも感心してしまった。

 ここまで判りやすい目的だったとは。

 政治とか血族とか、まったく絡まない戦いらしい。

「貴様らのようなバケモノが人間を支配するなど絶対に許さん」

 リーダー格の少年が剣を抜く。

 刃渡り八十センチメートルほどのロングソードだ。

 玩具には見えない。

「剣っ!? どっからだしたのっ ていうか銃刀法違反じゃんっ」

 答えず、次々と武器を取り出す少年たち。

 メイスだったりムチだったり、女性陣に至っては洋弓を構えている。

「なんの団体っ!?」

 素っ頓狂な声をあげてしまう。

 こんなものをもって歩いていたら間違いなく捕まるだろう。

 つまり超法規的な存在ということか。

 すっと進み出る絵梨佳。

「実剛さんはうしろに」

「あ、うん。了解」

 躊躇いつつも距離を取る実剛。

「相手は、わたしがいたしますよ」

 婉然たる微笑。

「女。なんだ貴様は」

「魔王と戦うには最強の四天王を倒さないといけないんですよ。ご存じありませんでしたか? 勇者様。あ、あと三人は有給中ですので、わたしがまとめて面倒を見て差し上げます」

 くすくすと笑いながら右手を伸ばし、人差し指をちょいちょいと動かす。

 嘲弄されたと悟った勇者様御一行が一斉に動いた。

 まず放たれる矢が二本。

 正確に絵梨佳の頭と胸を狙って。

 光源の乏しい深夜の公園でたいした技量である。

 相手が絵梨佳でなければ、これで片が付いていたかもしれない。

 手刀一閃。至近距離から放たれた矢を叩き落とす。

 佐緒里あたりならば、二本の指で挟んでみせるくらいパフォーマンスをやっただろうが、彼女はそこまでのサービス精神がなかったので、落としたのみである。

「疾っ!」

 それを隙と見たのか、両手にダガーをもった少年が躍りかかる。

 速い。

 普通なら目で追えないほどの動き。

 だが、能力者たちの戦いを幾度も目にしている実剛にとっては、スローモーションと変わらなかった。

 絵梨佳には、止まっているとしか思えなかっただろう。

「いきますよー」

 散歩に出掛ける以上の緊張感を示さず、芝の姫が動く。

 実剛が視認できたのはそこまでである。

 動いたと思った次の瞬間には、少女はいつもの横回転で宙を舞い、元に位置に着地するところだった。

 バタバタと倒れる御一行。

 お一人を除いて。

「な、なにをしたっ」

「当て身を入れただけですよ」

 人間相手である。本気で攻撃するわけにはいかない。

 すれ違いざまに腹や首筋に一撃入れて気絶させただけだ。

「このっ!」

 斬りかかってくる少年。

 がっちりと絵梨佳が受け止める。

 レイピアで。

 彼女の持ち物ではなく、そのへんに倒れている勇者の一人から無断拝借したものだ。

「バケモノめっ」

 鍔迫り合いをしながら少年が罵る。

「わたしたちは人外。だから共存できないの?」

 静かに絵梨佳が訊ねた。

「あたりまえだっ」

「あたりまえなんだ」

 冷たい瞳。

 少年を蹴り飛ばす。

 二度三度と地面とキスして転がる少年。

「実剛さん。共存を拒否されました。殺して良いですか?」

「いや。僕が話すよ」

 歩み寄ってきた実剛が婚約者から細剣を受け取った。

 勇者の前に立ちふさがる。

「どうしても人間が頂点じゃないと気に入らないのかい?」

「だれも……そんなことは言っていない……」

 四肢に力を込め勇者が立ちあがる。

 まだ戦意を喪失していないようだ。

 剣を構える。

 たいした執念だと感心しながら、実剛が続ける。

 人間は現在、絶滅に瀕している動物をいくつも保護している。それはもちろん尊いこと。だが、現実を見れば絶滅に追い込んだのはほとんどが人間なのだ。

 そもそも、保護という言葉すら上から見おろしたものだろう。

「次は人間が見下される立場になったって、べつに不都合はないんじゃない?」

 冷然と決めつける。

「ふざけるなっ」

 斬りかかる勇者。速くも重くもない。

 実剛ですら受けられるほどに。

 弾かれ、押し戻されても彼は突進をやめない。

「象が歩けばアリが踏みつぶされる。それは当然のことだろうよっ 象に悪意だってないだろうっ しかしっ」

 剣を水平に突きかかる。

「アリは象に踏みつぶされるために生まれてきたわけじゃないっ!」

「人間がそれをいうのかっ!」

 怒りを込めた突き込みは、だが音高く弾かれる。

 勇者の手から飛んだ剣が地面に刺さった。

 失望の面持ち。

 まだだ。まだ心の牙は折れていない。

 拳を握りしめ殴りかかる。

 実剛の頬に決まるパンチ。

 ぐらりとよろめくが、巫の次期当主は倒れなかった。

「君たちの言う共存なんて嘘だっ 人間は結局この星を食いつぶすっ」

 実剛もレイピアを捨て殴り返す。

 たたらを踏む勇者。

「だとしてもっ 俺たちの未来をモンスターなどに決められたくないっ」

 人間がその叡智でこの星の覇者となったなら、滅びるときはその愚劣さによってであるべきだ。

 殴り合い。

 型も何もない。

 ただのグーパンチの応酬だ。

「そんなこと言われなくてもわかってんだよっ」

「ならなぜ人間を支配しようとする」

 実剛だって最初から支配権を求めたわけではない。

 力によって改革を推し進めるしかないほどに、澪は腐りきっていた。

 もちろん他に方法がなかったとはいわない。

 だが、

「やり方は三つしかないんだよっ 正しいやり方っ 間違ったやり方っ そして、僕のやり方だっ!!」

 文節ごとに拳を繰り出す。

「ぐぶ……」

 ついに力尽きて倒れる勇者。

 後を追うように次期当主も崩れ落ちる。

 他人と殴り合ったのなんて、初めての経験だった。

 仰向けに転がる。

 絵梨佳が覗き込んでいた。

「ひどいありさまですねぇ」

 笑いながら。

 ぼこぼこに殴られた顔。

「拳で語っちゃったよ」

 地面に座り込んだ婚約者が膝枕してくれる。

「明日泳ぎに行くのは、無理そうですね。これは」

「行きたかったなぁ」

 残念そうに言う。

「フラグでも建てちゃったんじゃないですか? どこかで」

 小首をかしげる絵梨佳だった。

 強さを増した風が、ざわざわと梢を揺らしていた。





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