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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第5章 ~僕、夏になったら海水浴にいくんだ……~
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僕、夏になったら海水浴に行くんだ…… 8

 澪駅から歩いて五分ほどのところに海水浴場の入口がある。

 迷う心配もない一本道だ。

 その道の片側を夏季商店街にしてしまおう、というのが信二のアイデアである。

 海岸に用意できたのはプレハブの更衣室が八棟だけで、海の家の設置にまで至らなかった。

 これは海岸清掃から海開きまで、わずか一週間しか時間がなかったという事情もある。

 業者への働きかけが間に合わなかったのだ。

 もちろん来年度には間に合うが、今年は自前で何とかするしかない。

 そして海開き当日。

 駅から海水浴場へと続く一本道には、色とりどりの露天が並び、朝から詰めかけた観光客によって長蛇の列ができていた。

 主導したのは商工会議所である。

 信二の弁舌によって職業意識を刺激された彼らは、澪の一大ムーブメントの最初の一手である海水浴場のオープンを商売に繋げるため最大限の努力をした。

 特産品や食べ物を売る店だけでなく、浮き輪や水着などを売る店、テントなどを貸し出す店も軒を連ねる。

 コンセプトは、「日帰りで帰さない」だ。

 宿泊客と日帰り客では、落とす金が違う。

 ホテルなどに泊まる金が無くとも、海岸でキャンプできれば、泊まっちゃおうかなと思ってくれるかもしれない。

 まさにそれが狙いである。

 そしてその狙いは的中し、澪の海岸にはビーチパラソルとほぼ同数のテントが立ち並んでいた。

 アウトドア経験のない人むけに、テントの設置サービスを格安で行ったのも大きい。

 夕刻になれば、バーベキューなどを始めるチームもあるだろう。

 もちろん食材も道具も有料で提供している。

 基本的に、客は手ぶらできて、最大限の楽しみを享受することができる。

 お客様にお手数をかけさせない、観光業としてはごく当たり前のことだが、それができなかったのがこれまでの澪だ。

 あえて不便さを売り物にするというやり方もたしかにあるのだが、客を不快にさせないラインを見極めないでそれをやると、その客はもう二度ときてはくれない。

 田舎だから仕方がない、とは、言い訳として稚拙すぎる。

 不便さを求める客がいるとすれば、それは間違いなく旅の上級者であり、観光客の九割までは旅慣れてはいないのだ。

 ちょっとした不便さでもいらついたりする。

「そもそも手抜きというのは、きちんとできる人間がすることであって、できない人間がやったら無様なだけなのです」

 えらそうに言う魚顔軍師。

 アロハシャツとハーフパンツが不気味だ。

「絵梨佳嬢。手が止まってますよ」

「うう……わたしもあそびたい……」

 ビキニの上からエプロンで肢体を隠した美少女が料理に精を出している。

 実験を兼ねた露店。

 実剛チームが担当するのは澪豚の唐揚げ丼。料理人は絵梨佳である。

 光則チームは澪豚の唐揚げラーメン。料理人は佐緒里だ。

 商工会議所や青年会議所の人間に混じり、巫陣営も夏季商店街の手伝いであった。

 オープン初日なのに、とは、絵梨佳が泣きながら訴えたことであるが、こればかりは仕方がない。

 上に立つ彼らが率先して苦労を引き受けなければ誰も付いてこないだろう。

 そのような事情で、巫陣営と量産型能力者たちは、全員が急造の商店街に揃っている。

 海水浴場の監視等は、萩の第一隊から四名が受け持っていた。

 ちなみに初日の来客予想は一万人。

 すこし多すぎる予想だが、少なく見積もってモノが足りなくなったりするよりはずっと良い。

「がんばれ絵梨佳ちゃんっ 一段落したら僕らもあそぼうっ」

 懸命に調理補助をしながら、実剛が激励する。

 すでに汗だくだ。

 なにしろ最も体力がないのが彼である。

 先日の「儀式」以来、妹の美鶴もちゃくちゃくと能力に開眼しており、いまや量産型能力者と変わらないくらいのスペックとなっているため、大将の貧弱さのみが際立つ結果となった。

「それでも肉を叩くくらいはできるだろうからな」

 どん、と肉の入った箱をおく信一。

 魚顔兄弟は、見た目のインパクトがありすぎるため、基本的に裏方だ。

 売り子は主に量産型能力者たち。

 三十名の美男美女軍団である。

 たとえば佐藤教諭のウインク一つで、独身の男性などは注文せずにはいられないだろう。

 売れる売れる。

 唐揚げラーメンも唐揚げ丼も、朝から飛ぶように売れていた。

 昼を前にして食材の追加注文が出たほどに。

 結局、実剛が休憩を取れたのは、午後も遅くになってからのことである。

「ぶるぁぁぁっ」

 謎の声をあげながら、どっかりと簡易ベンチに座り込む。

 疲れた。

 肉を叩き続けた腕が鉛のように重い。

「お疲れちゃん」

 笑いながら近づいてきた光則がペットボトル入りのスポーツドリンクを差し出す。

「あ、ありがとう……」

 受け取ったが、手がプルブル震えてキャップが切れない。

「どんだけひ弱なんだよ。御大将は」

 苦笑した砂使いが奪い取り、封を切って渡してやる。

「君たちと一緒にするな……僕の体力は人間並みなんだからな……」

 ぐびぐびと喉を潤す。

 生き返るようだ。

「どっちもよく売れているな」

 感慨深げにいう光則。

 メニューが決まらなかった結果、候補二つを販売して様子を見ることにしたのだが、どちらも甲乙付けがたい売れ行きだ。

 唐揚げ丼と唐揚げラーメン。

 前者はチキン南蛮を参考に、ピリ辛のたれとタルタルソースをアクセントにして丼で唐揚げを味わってもらうもの。

 後者は北海道の定番のみそラーメンではなく、とんこつベースのスープでいただく、いわば親子丼ならぬ親子ラーメンだ。

「うん。僕たちも結局、どっちが良いか決めれなかったからねぇ」

 人心地つき、実剛が述懐した。

 どちらも旨かった。

 たれの染みこんだ唐揚げとごはんを咀嚼し、飲み込むときの暴力的なまでのうまさ。

 スープに抱かれた唐揚げの、官能的なまでの味わい。

 どちらかを選ぶことなどできない。

「両方食えばいいじゃんっ」

 という、食欲魔神光の提言もあり、ハーフサイズでの提供となった。

 売れた方を採用しようという日和見だったが、客たちも選ぶことができないらしい。

「十月まではまだ時間あるから、もっと高めていかないとね」

「これでまだ不満なのか?」

「絵梨佳ちゃんに聞けば判るけど、あの子もまだ満足してないよ」

 唐揚げを揚げ続けている婚約者の後ろ姿に視線を送る。

 ビキニに包まれたヒップラインと生足が眩しい。

「お前ら仙台の牛タンに、どんだけ打ちのめされたんだ?」

 うろんげな顔をする光則。

「口で言っても理解してもらえないって」

 衝撃だった。

 驚愕だった。

 手前贔屓の部分はあるにせよ、澪豚の唐揚げは天下一品だと思っていたが、世の中は広いと思い知らされた。

「これで、どうにかこうにか互角くらいかな。絶対に勝てるって自信はまだないよ」

「それほどのものか。さすがは寒河江のお膝元というべきか」

 うなる。

「あれと出会ったから、僕も絵梨佳ちゃんももっと頑張らなきゃっておもったのさ」

 好敵手(とも)を得て強くなる。

 少年漫画みたいだった。

「じゃあ、あいつは好敵手(とも)か、それともただの敵か」

 ぽつりと呟く光則。

 視線の先。

 黒塗りのリムジンが、ゆっくりと駅前通りを通過していった。





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