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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第5章 ~僕、夏になったら海水浴にいくんだ……~
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僕、夏になったら海水浴に行くんだ…… 7

 海開きは七月の第三土曜日と決まった。

 決めるまで一悶着はあったが、北海道の海水浴シーズンには充分間に合った。

「しかし、美鶴と羽原くんがねぇ」

 パスタを口に運びながら実剛が言う。

 あの夜、様々なことが判った。

 もちろん断片的な事柄ばかりだが、それに想像力という接着剤をプラスすれば見えてくるものは多い。

「伝わっていた口伝が、半分は正解だったことですよね」

 感慨深いです、と、向かい合わせに座った絵梨佳が笑う。

 美鶴は女神ハイドラの遺伝的特質を受け継いでいた。

 光は土地神の遺伝的特質を受け継いでいた。

 生まれ変わりというと語弊があるが、記憶の断片を魂に刻みこんでいる。

 しかも女神と土地神は宇宙人だったときた。

 神話からSFに格上げである。

「いやー やっぱり神話かなぁ」

 数万年を生きる宇宙人。文明が生まれるかもしれない星に派遣されていた監察官。卒業旅行中だった大学生の個人宇宙船が不時着して、二人は恋に落ちた。

「超古代恋愛スペースオぺラですよ」

「これ以上ごった煮にすると、わけわかんなくなるよ」

 宇宙人たちは現代の地球から及びも付かない科学力をもっていて、しかもサイキッカーだったというオチだ。

「監察官のレラって、アイヌ語のレラ・カムイじゃないですかね?」

「風の神? それで羽原くんは風というか酸素を操るチカラを持って生まれてきた? できすぎだよ」

 美鶴と光が、生まれ変わりなり先祖返りだったとしても、確かめる術はないし、確かめても意味がない。

 美鶴は美鶴であり、光は光だ。

「とはいえ、羨ましくはあるよね。あそこまでラブラブだと」

「ですよねー」

 年長組としては、いろいろ先を越されてしまっている。

 なにしろ二人とも将来的に結婚すると言ってはばからず、両家に婚約を迫ったくらいだ。

 ちなみに羽原家は諸手をあげて賛成しているが、暁貴は渋っている。

 娘を取られる父親の心境なのだろう。きっと。

「ま、まあ、僕たちとしても、負けないようにしたいね」

 頬を赤らめながら言う実剛。

「はいっ 超セクシーな水着を買っちゃいますよっ」

「いやいやっ 普通ので良いからっ」

「えー」

「僕だって嫉妬心くらいあるよ。なんというか、僕の絵梨佳ちゃんがじろじろ見られるのは、ちょっとね」

「おおう。なんか今の良いですねっ 録音するんでもう一回っ」

「言わないよっ」

 じゃれ合っている。

 死ねばいいのに。




 さて、バカップルは函館でデート中だが、それ以外の人々は着々と町作りを進めている。

 毎日のように新事業が立案され、連日スタートを切っている。

 ともあれ、まず町の上下水道の完備。

 平行して道路拡張。

 最大三年で完遂しなくてはいけない。

 これは最低条件だ。

 請け負う業者を選定しなくてはならないが、じつのところ澪に拠点を構える建築会社や土建屋をフル稼働させたところで、とうてい間に合うものではない。

 北海道だけでなく日本中から業者を集めてジョイントベンチャーを組ませる。

 降って湧いたような話に疑念を抱かれるだろうが、そのあたりは金銭で解決する。

 この事業には年間三百億円がつぎ込まれるのだ。 

 中途半端な仕事は許されない。

「元請けが四社。JVに参加するのが百二十社。動員される作業員の数はのべ三万九千人ほどになりそうです」

 書類の束を抱えた建設課長が副町長室で報告している。

 連日の激務で疲労の極みにあるはずだが、その顔はつやつやと光っていた。

「おつかれさん。頑張ってくれてるじゃねえか」

「この町はじまって以来の大事業ですからね。これで気合いが入らなきゃ嘘でしょうよ」

 建設課長だけでなく、澪役場全体がある種の興奮状態にある。

 この街の歴史に名を刻み込んでいるという実感。

 自らの手で退廃と滅びに終止符を打つという気概。

 厳密にいえば、彼らは巫と萩が用意した舞台に乗っているだけだが、錯覚であろうと勘違いであろうと、役人たちがやる気を出すのは良いことだ。

 もう役立たずの穀潰しとは言わせない。

 名実ともに、澪役場が町を主導するのだ。

「ただ、作業員用の住居が足りません」

 当然である。

 四万人近くの作業員だ。澪の人口は二万人足らず。人口の二倍の人員を受け入れる手段などない。

 街に二軒だけあるビジネスホテルの収容人数は合しても八十。旅館や民宿まで数えたところで二百に届かないのである。

「近隣の市町村に受け入れを頼もうかとおもっていますが」

「却下です。建設課長」

 口を挟む高木。

「作業員たちは単なる労働力ではありません。街の経済に貢献する消費者です。余所の町にまわすなんて、もったいない」

 もっともである。

 作業員には当然、給料なり日当なりが支払われる。

 それを街に還元させるのだ。

 具体的には、飲んだり食ったり遊んだり。

 そうすることで飲食業界が潤う。

 飲食業界が潤えば、そこにさまざまな材料を卸す卸売業界が活気づく。

 卸売業界が活気づけば、彼らが商品を買い付ける生産者に活力が戻る。

 生産者の活力とは、すなわち街の財産である。

 そしてそれぞれの場所から納められる税が街を支える。

 サイクルになっているのだ。

 経済を回すとは、こういうことである。

「しかし総務課長。現実問題として住居はないぞ?」

「ないなら作りましょう。飯場を」

 最近ではあまり使われなくなった言葉。ようするに寄宿舎だ。

「四万人規模の寄宿舎だと……」

 愕然とする建設課長。澪町をあと二つ作るのに等しいではないか。

 土地は? 建物は?

「なんか腹案がありそうだな。高木」

 暁貴が促す。

「もちろんですよ。四万人といっても延べ人数ですからね。実際には二万人分も用意すれば充分です。さきにそれだけ作っておいて、あとは随時増やしていけば事は足りますよ。場所は濁川地区。温泉つき寄宿舎を十棟建設します。これは後でホテルに流用できるでしょう」

 収容人数が千人程度のものを十。

 口で言うのは簡単だが、実行は大変な苦労である。

「しかも、それでも半分じゃねえか」

「あと五千は、町内の旅館やホテルを増改築することで賄います。プラスして、ロングステイ用のアパートやコンドミニアムもいくつか建設すれば、一万七千くらいは受け入れられるはずですね」

「まだ足りないが?」

「ええ。建設課長。そこで近隣の自治体におこぼれをあげるんですよ」

 人の悪い笑みを浮かべる総務課長。

 完全に利益を独占しては、嫉妬を買うだけだ。

 周囲にも多少は良い目を見せてやる。

 ようするに、最初から頼るのではなく、あくまでもこちらが主導権を握り、その上で利益を喰ませてやることが肝要だ。

「そんなわけで副町長。補正予算が百億くらいと、人員の確保をお願いします」

「金は必要なだけ使って良いさ。人員は臨時職員の任用を許可する。細かい条件は任せるが、ケチんなよ? 金もださねえで良い仕事しろっていっても無理だからな」

「委細承知しました」

 軽く頭を下げて退室する総務課長と建設課長。

 後ほど上がってきた報告書で、職員一人に対して補助として二名の臨時職員が採用され、三人一チーム体制が構築されることになった事を知る副町長だった。

 まずは濁川地区の寄宿舎十棟。十チームで事に当たる。

 兼務はさせない。とにかく一つの物事を完璧に遂行させるのだ。

 それが完成次第、水道と道路工事が開始され、同時に市街部の宿泊施設建築が始まる。

 大枠してはこのような感じだ。

「タイムテーブル的には、けっこうギリだなぁ」

「それは仕方ないわね。工期を早めて突貫工事の粗悪品を作られても困るもの」

 つねに影のように付き従う秘書の沙樹が言った。

「にわかに活気づいてきたわね。あのやる気がなかった町役場が」

「変革に立ち会えるんだ。やる気だって出るさ。それでも出ねえやつは、本気で首にしてやる」

 ふんす、と鼻息を荒げる副町長。

 微笑した従妹が報告書を渡す。

「でも、急激な変革は軋轢を生むわ」

 視線で目を通すように促す。

「ついにおいでなすったか」

 巫の党首が肉食獣の笑みを浮かべた。

 紙面には、北海道知事からの面会要請という文字が躍っていた。




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