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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第5章 ~僕、夏になったら海水浴にいくんだ……~
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僕、夏になったら海水浴に行くんだ…… 3

 覚悟をもった言葉。

 量産型能力者のチカラなど限られている。特殊能力者とまともに戦えば相打ちにすらならないだろう。

 村井のような例を除けば。

 それでも佐藤教諭は、自分がブレーキになるといった。

 命を賭けるということだ。

「茨の道ですよ? 人間たちからは人外(ばけもの)に尻尾を振る裏切り者として恨まれるでしょう」

 そして能力者たちからは、主君に意見をぶつける生意気な奴と見られるだろう。

 損な役回りだ。

「教師だもの。誰に強制されたわけでもなく、自分の意思で教職の世界に飛び込んだんだから、覚悟くらいとっくに完了してるの」

 透明な笑顔を浮かべる女教師。

 本物の教師か、と、実剛は内心で襟を正した。

 高木に出会ったときの暁貴と同じ思いだ。

 生徒を導くのが教師の仕事。だから聖職といわれた。しかし、そんな時代が過ぎ去って久しい。

 現在の教師の多くは教育技術者でしかないし、それ以上を求められる筋合いもない。

 だが奈月は違った。

 愚直なまでに、理想の教師像を追いかけようとしている。

「僕が間違ったときは、殴ってでも止めてください」

 深々と頭を下げる実剛。

 女教師が笑う。

「不安がないわけじゃないの。その霊薬って副作用とか本当に大丈夫なの?」

「まったく無いわけではないらしいですよ? 代謝系が活性化するから便秘をしなくなるとか。燃焼効率が良くなるんで内臓脂肪が付きにくくなるとか。あとは視力が良くなるとか吹き出物ができなくなるとか。しょーもないものばっかりですけど」

 ダイエットサプリみたいですね、と苦笑する実剛に、ぐいと顔を近づける奈月。

「ほんとに?」

 夢の薬ではないか。

 常人を超えるチカラを身につけ、ついでに健康になってしまう。

「え、ええ……」

 かっくんかっくんと頷く。

 怖い。

 なんかわかんないけど怖い。

「極秘扱いなんで資料はあげられませんけど、萩の研究施設でちゃんとした説明は受けられますんで」

 怖いので、担当者に丸投げすることにした。

「わかったわ。後で確認します。安全が確認できるまで生徒たちに使わせるわけにはいかないもの」

 なるほど。

 安全性の問題か。

 大きく頷く実剛。

 やはりこの女性(ひと)は本物の教師だ。まず生徒たちの安全を考えるなんて。

 奈月への評価を再び上方修正する。

「ともあれ、これからよろしくお願いします」

 右手を差し出す。

 女教師が握り替えした。

 無駄に力強く。




 霊薬と称させるモノを使用するにあたって事前説明を受けたい。

 その提案自体は妙でも珍でもなかったので、萩家は快く受け入れた。

 ただ、研究施設そのものは秘中の秘であるため中に入ることはできない。これもまた当然の警戒である。

 第二第三の村井が生まれたら、大変なことになってしまう。

 データが渡った先が寒河江だったから良かったものの、日本政府や海外の軍需産業だったら、本気で歴史が変わってしまうのだ。

 そのような事情により、説明会は澪高校で行われることとなった。

 放課後である。

 会場となった会議室には、奈月をはじめとする量産型能力者の候補者たち、そしてなぜか琴美と絵梨佳の姿があった。

「アンジー姉さんや絵梨佳ちゃんが聞いても、たいして面白い話じゃないと思うけどなぁ」

 責任者である実剛が頭を掻く。

 護衛役なら光則と佐緒里で充分だ。

「いちおう、お父さんの研究だしね。どんなものか知っておきたいから」

 琴美の理由は、割と真っ当だ。

 感傷的ではあるが。

「わたしはアレです。なんだっけ。興味本位とか、そういうやつです」

 ものすごく怪しい絵梨佳の理由付け。

 ぜったい違うことを考えている顔をしている。

「いやまあ良いんだけどね。聞いて損をする話でもないだろうし」

 何も考えていない男、実剛が鷹揚に頷き、説明会が始まった。

 霊薬とは、巫の本家に保管されていた始祖の爪とされるものから抽出したDNA情報を科学的に再現することによって得られた人造血液を培養し、成分を抽出した上で、人間の細胞との親和性を高める処方をおこなったものである。

 研究員が説明する。

 すでにちんぷんかんぷんである。

 絵梨佳あたりの頭上には、疑問符の鼓笛隊がラインダンスを踊っていた。

「製法等の説明は要りません。効果効能、それと副作用についてのみ解説してください」

 凛とした声は、もちろん奈月のもの。

 安全か危険か、それのみを話せといっているのだ。

 実剛が大きく頷く。

 まことの聖職者である。

 彼の中での奈月への評価は、ほぼストップ高を記録している。

 咳払いした研究員が説明を再開した。

 霊薬の効能としては、まずは身体能力の飛躍的な向上が挙げられる。

 まだ生粋の能力者の域までは達していいないものの、常人……それもスポーツ選手などの運動能力の高い人間の数値を参考にしても、二倍から三倍程度の数値がたたき出されている。

「具体的には?」

「萩の量産型能力者の例を挙げます。百メートルの全力疾走が四秒〇六。これは最も遅かった者の記録です」

 奈月の質問に答える研究員。

 会議室がざわめく。

 世界記録を軽く超えている。

 たしかにこれは公開できない。

 もちろん、生粋の能力者には遠く及ばないのだが。

 他にも、垂直跳びや反復横跳び、持久走や握力測定などの結果が、次々と告げられる。

 どれかひとつの数字を取っても、常識がひっくり返るものばかりだ。

「問題は副作用です」

 冷静な奈月の言葉。

 大切なことだ。

 常識を越えたチカラを手にしたとしても、反作用があっては意味がない。

 軽く頷いた研究員が資料をめくる。

「じつは、細胞の劣化速度が極端に落ちています。これが最大の副作用であり、疑問点です」

「つまり?」

「新陳代謝が促進されているのに劣化速度が遅くなっている。つまり、老化しにくくなっているのではないかと」

 まだ運用が始まってから一年も経っていないため、本当に不老効果があるかまでは判らないが、と付け加える。

 マウス等の実験では、寿命が二倍程度に延びているという。

 再びざわめく会議室。

 さきほどよりずっと大きなどよめきだ。

 もちろんそのまま人間に敷衍して考えることはできないが、本当だとすれば文字通り不老長寿の霊薬である。

「私たちは被験体ということになりますね」

「否定はしません」

「他の副次的な作用は?」

「たいしたものはありません。視力が回復するといっても常人並ですし、体機能が活性化するのですから健康体になるのも当然です」

「念のため、もう少し詳しく」

 やたらと食いつく奈月。

 たしかに、細かいことだからといって疎かにはできない。

「慎重ですね。佐藤先生」

「ええ。巫くん。大切なことだから」

 ううん、と、唸りながら研究員が資料をめくる。

 本当にたいしたものじゃないんですよ、前置きする。

 いくら食べても太らなくなるとか。

 肌が赤ん坊のようにつやつやになるとか。

 風邪を引かなくなるとか、水虫とかの皮膚炎がすべて治るとか。

 どうでも良いものばかりでしょう、と結ぶ。

「あとは、戦士らしい体つきに勝手になっていくくらいしか……」

 視線が佐緒里に向けられる。

 それを追うように。主に女性陣がぐりっと振り向いた。

 怖い。

「な、なんだ?」

 面食らう鬼の姫。

 舐め回すような視線。

 スリムでありながら女性らしい丸みがある。引き締まった足、くびれたウエスト、豊かな胸。無駄のない二の腕。

 射抜くような三白眼を除けば、ファッションモデルですら裸足で逃げ出すだろうスタイルだ。

「べつにあたしは霊薬を飲んでいないが?」

「いえ、お嬢様のスタイルは虎体狼腰と申しまして、古来、最も戦士に相応しいと呼ばれたものなのです」

 ゆえに、村井氏は霊薬を生成する上で、そのような体つきになってゆくよう因子を組み込んだ。

「なるほど。鬼の身体能力も計算されているわけか。さすがとしか言いようがないな」

 形の良い下顎に手を当てる佐緒里。

 あの体型が手に入る。しかも何の努力もせず。

 ざわざわと騒ぐ参加者たち。

 主に女性陣。

 その横で、なぜか琴美と絵梨佳が握手を交わしている。

 なにか思うところがあるのだろうか。

 咳払いする研究員。

 苦笑している。

 同じ質問を何度も受けましたよ、と顔に書いてあった。

「誤解なきよう言っておきますが、豊胸効果はありませんよ? 戦士に胸は関係ありませんので」

『あぁぁぁぁぁ!』

 絶望の声を合唱させて膝から崩れる又従姉と婚約者を、実剛が目撃した。

「ばか! お父さんのバカっ! そこが一番大事なところじゃないっ!!」

 悔し涙を流しながら床を叩く琴美。

「もえつきたよ……真っ白にな……」

 ぶつぶつと呟いている絵梨佳。

 理解不能の光景だ。

 動揺する実剛の肩を、奈月が叩いた。

「そっとしておきましょう」

 満足そうに微笑んでいる。

 ふと視線を下げると、佐緒里ほどではないにしても豊かな胸が目に入った。

 なんだろう。

 コノヒトハ、カチグミニ、ナルンダ。

 謎の言葉が脳裏をよぎる。


 ……なぜか霊薬の投与には、女性陣の方が積極的だった。



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