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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第3章 ~こんなシリアスな話だっけ?~
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こんなシリアスな話だっけ? 10


「あなたを拘束します。無駄な抵抗はやめて投降しなさい。村井雄三」

「お断りだ。安寺琴美」

 次の瞬間、父娘の拳が衝突した。

 一瞬の均衡。

 弾き飛ばされたのは琴美だった。

 数メートルの距離を飛ばされ、ガードレールに激突する。悲しげな悲鳴を上げて(ひしゃ)げる鉄板。

 信じられないものでも見るかのように娘が父親を見上げる。

 研究員を殺害したとの情報は受けていた。

 萩の能力者たちを戦闘不能に追い込んだとも聞いていた。

 だがそれは、しょせんはまがい物同士の戦いであると、たかをくくっていたのだ。

 よろよろと立ちあがる琴美。

「さすがにタフだな」

 構えを解かない男。

 ぺっと少女が口腔内にたまった血を吐き捨てる。

 飲み込むと嘔吐感が強くなって、戦闘に支障をきたすからだ。ごくわずかなことだが、勝算を下げるわけにはいかない。

 慎重に間合いを琴美が計る。

 動く!

 互いの距離が一瞬でゼロになり、少女の右回し蹴りと男の手刀が衝突した。

「ち」

 琴美が小さく舌打ちして、村井が不敵な笑みを浮かべて飛び離れる。

 牽制攻撃。

 この次にこそ本当に力を込めた打撃が繰り出されるはずだった。

 だが出せなかった。

 見えなかったから。互いに相手の攻撃が。

 初手がぶつかったのは偶然の結果だ。

 だからこそ次の手は出せない。

 相打ちになってしまう。

「なんで……」

 呟く少女。

 異常なスピード。異常なパワー。異常なまでの勝負勘。

 背筋を伝う冷たい汗。

 萩の能力者と戦ったときだってこんな感覚はなかった。

「慢心だな。まがい物が本物に劣ると、誰が決めた?」

 娘の思考を読んだかのように父親が告げる。

「くっ!」

 弾丸のように飛び出す少女。

 上段の回し蹴り。

 身をかがめての回避。追尾するように軌道を変えた右脚が迫る。

 屈伸したばねを活かして半歩後方へ。

 男の五ミリ前方を通過する足。

 琴美の攻撃はまだ終わらない。

 勢いを殺すことなく後ろ回し蹴り。

 かがみ込んでの足払い。

 伸び上がりざまのサマーソルトキック。

 意表を突いての前転踵落とし(コイン)

 次々と高速で繰り出される攻撃。

 当たらない。

 すべて紙一重で回避されてゆく。

「どうして!? 見えるはずがないのにっ!」

 少女の叫び。

「読めるからだよ。琴美。お前の攻撃には魂がない。相手を格下に見て侮っている。だから避けることなど容易だ」

 攻撃を避けながら、うたうように答える父親。

 たしかに琴美の攻撃は速い。目視できるような速度ではない。

 しかし、この攻撃が外れたら後がない、というような気迫がこもっていない。外れたら次。避けられたら次。二の手三の手を考えながらの攻撃だ。

「そんな中途半端な覚悟が、私に届くと思うな」

 一閃。

 娘の攻撃をかいくぐり、鋭く踏み込んで掬いあげるような肘打。

 まともに腹部に決まる。

 肋骨が折れ砕ける音。

「か……は……っ!?」

 血と胃液を吐き、琴美が崩れ落ちた。

「…………」

 哀れむような目で娘を見た男が踵を返す。

 セダン車へと向かって。

「……まち……なさい……よ……」

 背後からかかる声。

 アスファルトに両手をつき、琴美が立ちあがる。

 栗毛がミスリルブルーへと染まってゆく。

 蒼銀の魔女。

 男が大きく息をついた。

「どうして、その力を最初から使わなかった」

 振り向く労力すら惜しむような言葉。

 最初から全力で戦っていれば、結果は違っていたかもしれない。

 出し惜しみしたあげくに敗勢に追い込まれた愚かな娘。

「沙樹は、そんな愚劣さとは無縁だったぞ」

「ダマレっ!!」

 少女の瞳に憎しみの焔が燃え上がる。

「私たちを捨てたキサマが! お母さんを語るなっ!!」

 突進。

 技も何もない。

 こいつだけは。こいつだけはただでは済まさない!

「激したか。どこまでも愚かな」

 呟いた男。

 振り向きざまに貼山靠(てぃえしゃんかお)

「ぇ?」

 大きく跳ばされる琴美の身体。

 十数メートルの距離を飛行して湖水と接吻する。

 激しくあがる水柱。

「……むしろ、お前が沙樹の異名()(かた)るな。愚娘よ」

 言い捨て、歩き出す。

 立ちはだかる二人の少女。

「親子水入らずを邪魔しちゃいけないと思ったんで、黙ってみてたけど」

「貴様には愛が足りない」

 絵梨佳と佐緒里である。

「芝の姫と萩の姫か。どうして三人で戦わなかった?」

 ゆっくりと構えをとる村井。

「今理由を言ったけど?」

「そうか」

 いきなり距離を詰める。少女たちの間を縫うように。

 右から絵梨佳の蹴り。

 左から佐緒里の正拳。

 易々と受け止めた。

「これが答えだな」

 そのまま力任せに投げ飛ばす。

 くるくると空中で回転し、危なげなく着地する少女たち。

 一方は憎々しげに、もう一方は淡々と。

「連携ができないのだろう? だから一人ずつしか戦えない」

 ふたりの中間地点に位置取れば、同士討ちを恐れて中途半端な攻撃しかできない。

「同時に仕掛けてこなかった理由だな」

 面白くもなさそうな顔で、男が言った。

「……一瞬でバレてるし。どうするんですか信二さん」

 物陰からこそこそと見守っていた実剛が軍師に訊ねた。

 戦闘力の高い三人は、じつは連携力が弱い。

 それぞれがワンマンアーミーと呼べるほどの力を持っているからである。

 仲間を信じて背中を預ける、という戦いに慣れていないのだ。

「どうにもなりませんよ」

 連携など一朝一夕で身に付くようなものではない。

 そもそもが、強大な敵に一丸となって立ち向かうという経験自体、今日が初めてだ。

 いままでは立ち向かわれる側だったのだから。

「戦術レベルでの連携は捨てました」

「え?」

「大地よ! 我が前に立つ愚者に裁きを与えろ!!」

 躍り出た光則が、勢いよく両手を大地に叩きつける。

 次の瞬間、石筍のようにのびたアスファルトが幾本も、セダン車を貫いた。

「ゆえに、戦略レベルでの連携を取らせてもらいます」

 魚顔軍師が(うそぶ)く。

 絵梨佳と佐緒里が村井の注意を引きつけ、その隙に逃走手段を奪う。

 琴美が敗北した瞬間に思い定めた。

 資料の奪還は諦める、と。

 力を出し惜しんでどうにかできる相手ではない。

 本当に勝てるかどうかもあやしい。

 だから、奪還ではなく破壊へと戦略目標をシフトした。

 轟音とともに火の手が上がる。

 ガソリンに引火したのだろう。車内に資料が隠してあったとしても灰になる。

「これで隙をついて逃げられる心配はなくなりました。佐緒里嬢。まずは貴女の出番です。絵梨佳嬢は一時後退。チェンジのタイミングはこちらで指示します。存分におやりなさい」

「委細承知」

 物陰から出て指示を飛ばす軍師。

 オレンジ色の炎の照らされた魚顔は、まるで冒涜的な怪物のようだった。



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