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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第1章 ~おかしな人たち~
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おかしな人たち 3


 町営スキー場。

 リゾートといえるような規模ではない。

 ナイター用の照明が設置されたただの斜面だ。リフト設備すらなく、麓に小さな休憩小屋が建っているだけである。

 雪もほとんど残っておらず、現在では閑散とした空き地にしかみえない。

 そこに対峙する人影。

 野戦服をまとった十名以上の集団と、高校の制服を着た五人。

 後者は、実剛、光則、絵梨佳、そして凪信一(なぎ しんいち)信二(しんじ)の双子。

 これが現在のところ巫陣営の全戦力だ。

 圧倒的多数の萩陣営は統制が取れており、包囲を完成させている。

「わざわざ山に逃げるなんて、馬鹿な連中ね」

 嘲笑するのは佐緒里。

 絵梨佳の攻撃で失神してから十分も経過していないのに、完全に復調していた。

「逃げたと見ましたか。さすが短慮姫ですね」

 信二が微笑する。

「俺たちは逃げたのではありませんよ。君たちを誘い込んだのです」

 ここなら特殊能力も使い放題ですから、と、付け加える。

 普通ならこれで萩は動揺するはずだ。

 なにしろ彼らには特殊能力者がいない、という事になっているのだから。

「はっ」

 佐緒里が鼻で笑う。

「それで勝ったつもりになってるの? 馬鹿な魚ね」

「…………」

 黙り込む信二。

 魚と言われて怒ったわけでは、もちろんない。

 短慮な姫の自信の源は、やはり能力者の量産なのだろう。

 問題は、量産できないものをどうやって量産したのか、という点だ。

 となれば、もう少し歌ってもらうか。

「ば、ばかなっ!? 萩に能力者は二人しかいないはずだっ!?」

 狼狽(ろうばい)した声をあげてみせる。

「は。ようやく気づいたの? しょせん魚ね。ここにいるのは全員、能力者よ」

 なるほど、佐緒里を入れて十二人か。

 内心でほくそ笑む。

 この程度の演技で乗せられる相手には、この程度の演技で充分だ。

 全戦力を一カ所に集中するなどありえないから、萩にはこの倍以上の能力者がいると見るべきだろう。

「不可能ですっ! 能力者は澪の血にしか(あらわ)れないんですよっ!!」

「いつまで古い血にしがみついているの? そんなだから」

「お嬢。喋りすぎだ」

 良い調子で語り出す佐緒里の前に立つ野戦服の男。

 ち、と小さく舌打ちする信二。

 ちゃんとブレーキ役がいたか。

「貴様らはここで消えろ。目障りなのでな」

 男が一歩踏み出す。

 いきなり包囲を狭めてくる萩たち。

 そうはさせじと斜面を駈けくだる巫陣営。

 数の差を活かされてはたまらない。

「大地よっ! 我が前に立つ愚者どもに裁きを与えろっ!!」

 光則の叫びと同時に地面に無数の尖った杭が生まれ、男たちの足を貫く。

 たちまちのうちに数名が脱落した。

「光則っ」

 走りながら声をかける実剛。

「なんだっ」

「その呪文って必要なのっ?」

「つっこむなっ! きっかけ作りをしないと発動させにくいんだっ!」

 光則が怒鳴り返す。

 これから使うぞ、という一種の自己暗示なのだろうか。

「悠長に喋ってる場合かよっ!」

 三角飛びで二人ほど蹴り飛ばした信一が着地する。

 両手にはファイティングナイフ。

「銃刀法違反ですよ。信一先輩」

「それはあいつらに言え。いまもらったばっかりだっ」

 蹴られた男たちの脇下のホルスターが空になっていた。

 交錯する一瞬ですり取ったらしい。

 これで五対七。

 すばやく信二が観察する。

 一連の攻防で五人ほど無力化できた。武器も手に入った。このまま相手に能力を使わせず撤退に追い込みたいところだが。

「そんなに上手くはいきませんかっ!?」

 突然足を払われ転倒する。

 とっさに受け身を取らなければ、捻挫くらいはしていただろう。

 だが、今どこから攻撃された?

 視線を巡らすと、足を止めて集中している男がいることに気づいた。

PK(サイコキネシス)!? えらくストレートなっ」

 つぎつぎと襲いくる光の槍を転がって回避する。

「兄! あの男!」

「合点!」

 信一の手から放たれたナイフが直線の虹を描いて飛び、男の左肩に突き刺さる。

 怪鳥ような悲鳴を上げて転げ回る男。

「次っ!」

 再びナイフを投擲しようとする信一。

「させるわけないでしょ」

 その腕が蹴り上げられる。

「ぐおっ!?」

 骨の折れる嫌な音。

 いつの間にか佐緒里が最接近していた。

「くそっ」

 左手で右腕を支えて飛び下がる。

「逃すかっ」

「あなたの相手はわたしよ」

 割り込んだ絵梨佳が迎撃する。

 まずい、と、信二は思った。

 佐緒里と互角以上に戦えるのは絵梨佳だけ。そうなると他の萩を信一と光則で引き受けなくてはならない。

 この状況で信一が利き腕を負傷したのはかなりのマイナスだ。

 敵はあと五人は残っている。

 時間をかけすぎれば、光則と信一が倒した連中も復活してしまうだろう。

 どうするか。

「援軍っ! ただいま登場っ!!」

 そのとき、大声が響き渡った。

 振り仰げば斜面の上に、少年少女が立っている。

 三名の。




「も、もうダメかも……」

「諦めるな美鶴っ こんなところで寝たら死ぬぞっ」

「傾斜きつすぎぃ……」

 妙でも珍でもないことだが、海辺にある澪町には坂が多い。長崎や函館と同じである。

 澪中学校や澪高校は、その坂の頂上部分に存在する。

 ちなみに巫邸は坂の底部である。

 下見をしておくのも悪くない。家からの所要時間などを知っておくことは、何時まで寝ていられるかという重大な問題な直結するため、散歩がてら連れだって家を出た巫兄妹。

 いきなり困難に直面した。

 毎日この坂を歩いて通わなくてはいけないという。

「心折れそう……」

「あ、でもこの公園をショートカットすれば近いっぽいよ」

 実剛が指さすのは、昭和時代に整備されたと思しき閑雅(かんが)な公園である。

 かすれかけた看板には、虹ヶ丘第二公園と記されていた。

「第二があるってことは、第一があるはずだよなぁ」

「……そうなるわね」

「どこにあるんだろう?」

「どこでも良いわよ……いくらでも土地余ってそうだし……」

 疲労から、美鶴の反応はかなり投げやりだ。

 公園の中を進んでゆく二人。

 かつては美々(びび)しかったであろう遊歩道は、アスファルトがひび割れ、なんともいえない侘びしさを醸し出している。

「見ねぇツラだな。よそモンか」

 突然、声が降ってきた。

 顔を巡らすと、岩に腰掛けた人影がひとつ。

 金に近い色に染めた髪。両耳にはピアス。ぼろぼろのジーンズに皮っぽい上着。

 二昔前の不良って感じの少年だ。

「えーと……」

「だれか捜してるのかな……?」

 視線をさまよわせる兄妹。

 あまり積極的に関わり合いたい人種ではない。できればスルーしたい。

「おめーらだよ。おめーらっ 他に人いねーだろうがっ」

 だめだった。

「よそモンが挨拶もなしに通ろうってのか? 澪の掟はそんなにあまぐわっ!?!?」

 良い調子で何か言おうとした少年が、口を押さえて(うずくま)った。

「……かんだね」

「うん……盛大に噛んだ……」

 ()っと兄妹を睨む少年。

 こげ茶の瞳には涙がたまっている。

「あのー 大丈夫ですか?」

 さすがに哀れに思った実剛が声をかけた。

「……せぇ」

「え?」

「うるせぇ。色男。あんまチョーシくれてっと犯すぞ?」

 いま文脈がとてもおかしかった気がする。

「わんもあぷりーず」

「調子くれてると犯すぞ?」

 妙に平坦な口調で少年が繰り返す。律儀だ。

 そして聞き間違いじゃなかった。

「それは、僕に言っているのでしょうか?」

 こくこく。

「ワタクシ考えますに、そういうセリフは、こちらにかけるべきではないかと」

 両手で美鶴を指さす実剛。

「それはそれでかなりまずいと思うけど……」

「ちょっ おまっ なにいってやがるっ!?」

 十三歳の少女の主張は、少年の怒声でかき消された。

「こんな美少女に犯すとか言ったらシャレになんねーだろうがっ!!」

 真っ赤になっている。

「僕になら洒落になるんだ……」

「言っとくけどっ 俺にそーゆー趣味はねえからなっ!」

 なんだろう。バカなんだろうか。

 自分の言動に責任を持って欲しい。

「私が美少女なのは、かなりの線で同意見なんですけど。それはそれとして、そろそろ本題に入って頂けると助かります」

 しれっと言う美鶴。

「あ、すんません」

 なぜか謝って、ポケットから紙切れを取り出す金髪の少年。

「カンペだ……」

「カンペだねぇ……」

「えーと、問われて名乗るもおこがましいが?」

 突っ込まないぞ、という意志をこめて視線を送るふたり。

「俺は羽原光(はばら ひかる)。友達になってください?」

 うん。バカだ。

 確信した。

「ええと……」

「これ、暁貴さんからの紹介状」

「あ、どうも。拝見します」

 差し出されたメモ用紙を美鶴が受け取った。

 面接かよ、と思いながら。

『あほのこなので、なかよくしてあげてください。あきたか』

 オールひらがな。

 お墨付きだった。しかもバカではなくてアホだった。

 がっくりとうなだれる。

 すごく疲れた。たくさん歩いたせいだろうか。

「僕は巫実剛。こっちは妹の美鶴。よろしくね」

「ああ」

 握手が交わされる。急速に高まってゆく親和力。

「や、今の流れのどこに仲良くなる要素があったの? 私がおかしいの?」

「細かいことを気にしちゃダメだよ。美鶴」

「アンタはもう少し気にした方がいいわ。兄さん」

「よくぞ俺を倒した。巫兄妹。だが、俺は四天王の中でも最弱」

 再びカンペを読み始める光くん。

「あ、この小芝居まだ続くんだ」

「むしろ自分で最弱とか言っちゃってるのはいいのかしら?」

「えーと、第二の刺客は……こっちです」


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