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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第2章 ~学園ラブコメだと思ったんだけど~
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学園ラブコメだと思ったんだけど 4


 佐緒里との会見は、絵梨佳の乱入によってなし崩しに終わった。

 もう少し真意を探りたかったという思いはあるものの、これで良かったと思う部分もある。 

 底知れない深淵のような佐緒里の精神世界に長く触れていたら、どうにかなってしまいそうだ。

「破壊のあとの再生、か」

 帰り道、ぽつり呟く実剛。

「どうした?」

 横を歩いていた光則が聞きとがめる。

「いや……」

「やめておけ。萩が語ったことが真意とは限らない」

 光則の認識はドライだ。

 萩の言うことを頭から信用することはできない。

 短慮な佐緒里自身は嘘を付いていないかもしれないが、真実と思いこんでいるだけ、という可能性もある。

「願望が含まれているって線もあるしな」

「判ってるよ」

「願望っ だからあんなに顔を近づけていたんですかっ」

 絵梨佳が食いついた。

 まだ怒っている。

「絵梨佳ちゃん。あれは違うと思うよ」

「いーえっ わたしにはわかりますっ 女の勘ですっ」

 絵梨佳が語るところによれば、実剛を執拗に攻撃したのも、存念を打ち明けたのも、愛情ゆえということらなるらしい。

「でも、光則の方が好みだっていってたじゃん」

「そこは微妙なオンナゴコロです」

 都会からきた転校生と、同郷の少年。

 外見的には甲乙付けがたい。

「そういえば聞こえは良いけど、二人とも十人並みってことだよね」

「本当のことを言うな実剛。悲しくなる」

 一方は血統正しい澪の末裔。

 他方は、血は引いているものの分家でしかない。

 そして両者とも敵対関係にある。

「揺れる心……抑えられない気持ち……ぐふふふ」

「なあ絵梨佳。その妄想劇場はいつまで続くんだ?」

 ぽす、と軽い音を立てて、光則のチョップが少女の頭に当たる。

「やんっ」

「やんじゃねーよ。そんな妄想のために俺は売られたのかよ」

 やっすい人生だ。

 売られていく仔牛だって、もうすこしマシな待遇だろう。

 すくなくとも、あっちは生活がかかっている。

「平和だねぇ」

 やれやれと実剛が肩をすくめた。

 その夜のことである。

 居間の座卓で、実剛は家主と差し向かいに座っていた。

「なるほどなぁ」

 一応の事情を聞き終えた暁貴。

 ため息とともに紫煙を吐き出す。

「伯父さんはどう思います?」

「萩の小娘はホントのことを語ってるとは思うぜ」

 萩のありようについて語ったことも含め、一歩踏み出そうとしていると見るべきだろう。

「俺はそこまで過激じゃねぇがな」

 べつに暁貴は破壊のあとの再生など目指してはいない。

「理由を尋いてもいいですか?」

 訊ねる実剛の瞳に、やや険がこもる。

 生まれ故郷の衰退を願うというのは、彼には理解できない。

 血の桎梏(しっこく)があるにしても、だ。

「こいつは語弊があることを承知でいうんだがな。お前さん、この町に来て良かったと思うかい?」

「……たくさんの友人ができました」

 返答の前に挿入される一瞬の沈黙。

 それこそが答えだ。

 都会にいても友人は作れる。

 事実、東京にいたころにだって友人と呼べる存在はいた。

 澪で短時日のうちにこれほどの知己を得たのは、巫の血のなさしめるところである。

 つまりそれは、彼の立ち位置が特殊だったというだけで、他者に敷衍(ふえん)して考えることはできない。

「生活の便利さ。教育機関や医療機関の充実。職業選択の幅。田舎が都会に勝っている部分なんてもんは、ただの一つもねぇんだよ」

「…………」

 黙り込む実剛。

 言い過ぎだ、と言いたかった。

 だが、彼自身が実感してしまっているのだ。

 比べてはいけないと思いつつも、東京と比較してしまうのである。

「ま、文明を知った人類は、いまさら原始人には戻れねーからな」

 もちろん不便さを楽しむことのできる人間はいる。

 しかしそれは少数派なのだ。

「だから衰退を望むと?」

「俺が望む望まないじゃねえさ。いずれこの町は地図から消えるだろうよ。この町だけじゃねえけどな。消滅可能性都市って知ってるかい?」

 耳慣れない言葉に首を振る実剛ではあったが、字面からイメージは掴むことはできる。

 読んで字のごとく、消滅する可能性のある自治体だ。

「百四十五だってよ。笑っちまうだろ。北海道には百七十九市町村しかねーんだぜ?」

 ようするに、ほとんど消えるということだ。

 もちろんそれは数字上の可能性であるにすぎないが、事態の推移を手をこまねいてみていれば、可能性は事実に取って代わられるだろう。

 少子高齢化と人口流失に歯止めのかからない田舎町は、すでに死に至る病に冒されている。

「それってどうにもならないんですか?」

「なるわよ」

 割り込む声は美鶴のものだ。

 飲み物を運んできた少女が、伯父の前に缶ビールを、兄の前に炭酸飲料のペットボトルを置く。

「何とかする方法なんて、いくらでもある。でも伯父さんはやりたくないのよね」

 抽象的な指摘に苦い笑みを浮かべる暁貴。

 どういうことか、と、実剛が視線で妹を促した。

「澪が再生するってことは、澪の血の一族も、また力を持っちゃうってことだからね」

 もちろん萩もねと付け加える。

 巫や萩が力を貸しての再生などありえない。

 もし澪が生き返るとしても、それは町の人々の努力の結果でなくてはならない。

「そのへん頑固よねぇ」

 呆れたように首をふる美鶴。

 少女の目には年長者たちの思惑が見えていた。

 自力で立て、できないなら滅びろ、というのが暁貴の考え。

 特殊なチカラを使ってでも町の人々を決起させようとするのが、萩鉄心の思い。

 そして、自らが破壊者となり、その後に再生を図ろうと考えたのが萩佐緒里だ。

「どれが正しいなんてのはないと思うよ? ぶっちゃけね」

 肩をすくめる。

 たとえば、高校を卒業したら東京の大学に進学する。

 そのころには親の遺産が使えるようになっているはずだから、つましく暮らすには充分だろう。

 こんな街は、ただの通過点として考える、ということもできる。

「……ずいぶんドライだね」

「私は女だもん。巫の家督を継ぐわけじゃないし」

 いずれは結婚するだろう。

 巫との縁は切れるのだ。

「問題は兄さんよ。澪を捨てるか、それとも救うか。主導権(ヘゲモニー)は、兄さんが握ってるんじゃない?」

「素直じゃないね。お前さん」

 苦笑を浮かべる伯父。

 少女は言外に言っているのだ。実剛が決めろと。自分はその決定に従うと。

「あの夜、伯父さんも決めたんでしょ? そのくせわざわざ惑わすような言い方するんだから」

「こいつは一本取られたな。美鶴の言うとおりだ。俺は実剛の決断に乗ってみようと考えてる」

 二組の視線が実剛を射抜く。

 揺るぎなく受け止める少年。

「僕の答えも変わらないよ。先のことは何も判らないけど、その判らなさを可能性と呼ぶなら、僕はそれを信じる」

 一言一言を噛みしめるように言った。




 と、覚悟を語ってはみたものの、話はそう単純ではない。

 実剛は高校生にすぎず、政治的な影響力は皆無だ。

 いくら澪の現状を憂いたとしても、なにもできないのである。

 悪い奴らをばったばったと薙ぎ倒していれば万事解決、というほど現実は簡単にはできていない。

「まず必要なのは、何を置いてもお金ですよ。これがないとそもそも何もできませんからね」

 信二が語る。

 翌日のことである、実剛は知恵袋である魚顔軍師にアドバイスを求めた。

 事情を聞き終えた軍師が導き出したのが、まずは金という結論である。

「お金ですかぁ……」

「金銭を侮ってはいけませんよ。実剛君」

 嫌な顔をする後輩を、魚顔がたしなめた。

 世の中が貨幣で回っている以上、金がなくては何もできない。

 一定の自由を得るのにだって金がかかるのだ。

 金がなくても買える自由など、餓死する自由とか、金持ちになった自分を想像する自由くらいのものである。

「けど、お金だけあっても仕方ないんじゃ?」

「そういう台詞は、金を持っている者だけに許された戯れ言です。我々が言っても貧乏人のひがみにすぎません」

 正論である。

 そして正論とは、常に切ないものなのである。

「つまり僕たちの選択としては、金を集める、というものになるんですか?」

「学生のアルバイト程度で稼げる金銭では、自分自身の生活すら支えられません。これもまた自明のことですがね」

 にやりと笑う軍師。

 悪いことを考えている顔だ。

「じゃあ、借りるとか?」

「借りたものは返さなくてはいけない道理です。まして澪には二百億円以上の借金があります。返す算段がつきませんよ」

 金がない。借りたとしても返すアテもない。

 これで貸してくれる人がいるとすれば、物好きという次元を通り越している。

「まあ、それでも国や道は貸すんですけどね。彼らの目的の一つに、地方自治体を借金まみれにするってのがありますから」

 辛辣な口調の信二。

 借金で縛る。

 中央政府のコントロールを受け付けなくなるほどに一都市が力を付けるくらいなら、貧困にあえいでいてくれた方が御しやすいからだ。

 言うことを聞かなければもう金は貸さないぞ、あるいは、耳を揃えて借金を返せ、と言われれば、従わざるを得ない。

 それが現代流の支配術というものである。

 絶望の表情を浮かべる実剛。

 それでは手詰まりではないか。

「ですから、借りません。もらいます」

「え?」

「むしろ、奪います」

 この町には、道南一帯を支配下に置くほどの資産家がいる。

 その富をそっくり奪えば、財政的な不安など一気に片が付く。

「無茶苦茶ですよ……」

「でも、有効でしょう?」

 魚顔軍師が笑った。


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