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潮騒の街から ~特殊能力で町おこし!?~  作者: 南野 雪花
第11章 ~キタへっ~
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キタへっ 1

「で、結局、楓お嬢ちゃんもくっついていったと」

 仮庁舎の副町長室。

 煙とともに暁貴が溜息を吐き出した。

 いっこうに煙が籠もらないのは、安普請のプレハブ小屋だからだ。

 冬になる前に居城たる庁舎が完成しないと、凍え死ぬことになってしまいそうである。

「転校一週間で公務出張に同行とか。都会の子はアクティブよねえ」

 やたらと感心する沙樹。

 そういう問題ではないと澪の王は思ったが口には出さなかった。

 いくら本人が希望してもそれだけで叶うわけがない。

 次期当主や軍師の裁可が必要だ。

 そして実剛や信二が同行を許可したということは、なにか考えがあってのことだろう。

 だとすれば、ことは恋愛がらみではない。

 知事へのカードに利用するか、他に使い道を考えているのか、いずれにしても政略的な手駒として考えるのが妥当だ。

 御前の協力者だったリン。現総理の孫娘である楓。

 無位無官の民間人ながら、肩書きが尋常でない。

 知事だろうが、北海道警察本部長だろうが、充分に強力な切り札となるだろう。

「さすがは首相すら認めた軍師というところか。深慮遠謀だな」

 感心したように言った鉄心が、煙草をくゆらせる。

「遅くとも数年後には俺の右腕になってもらわんとな」

 大きく頷く暁貴。

 政治のことは高木、軍事のことは信二が補佐すれば、政戦両略の幅がぐっと広がる。

 鉄心や沙樹も現場に出ることができるようになるだろう。

 もともとが肉体派の二人なのだ。事務仕事から解放されたいと陰日向なく訴えている。

 そして盤石な体制が築かれたら、後事をを実剛に託して、暁貴も副町長職から解き放たれ、アコガレの図書館長の座に落ち着くことができる。

 バラ色の未来図だ。

 町の予算を使って、古今東西出版されたすべてのライトノベルを買い揃え、小中学生たちに読書の楽しさを教える。

 暁貴の野望である。

 なにしろ澪町の住民は、大人も子供も活字を読まない。

 本など読んでいる暇があったら家の手伝いでもしろ。

 いまだにそのような台詞が聞こえる町なのだ。

 現代日本ではあまり信じられないことだが、文盲の人間がそれなりの数いる。

 すでに他界した彼の祖母もそうだった。

 この風潮に一石を投じる。

 改革を志したときから、それが暁貴のライフワークとなった。

 経済だけでなく、文化も充実させなくては、真の発展など望むべくもないのだから。

「だからってライトノベルに傾倒するのはどうなのよ?」

「あんなものは漫画の延長線だろう」

 沙樹が呆れ、鉄心が同調する。

「それで良いんだよ。漱石や芥川を揃えたって、ガキが読むわけねーだろうが」

 とは、暁貴の持論だ。

「ライトノベルが小説のレベルを下げたのは事実さ。あんなもんは文学じゃねえって意見だって正論だろうよ。けどな、裾野を広げた功績は誰にも否定できねえ」

 世にライトノベルと呼ばれるものが生み出されて以降、趣味は読書ですと答えてインテリだとは言われなくなった。

 小説を読むのは真面目な優等生だけ、そんな時代ではなくなった。

 知識層だけのものではなくなった。

 気軽に手に取れるようになった。

「最初に文字に触れるならこのくらいでちょうど良いんだよ。いずれそれじゃ満足できなくなって、本格ミステリでも純文学でも読みたくなってくる。大事なのはとっかかりだ」

 語る語る。

 甥が幕末史マニアだとすれば、伯父は文学マニアである。

 肩をすくめた沙樹。

「まあ、信二くんが優秀な子で良かったわね。暁貴の野望が成就する日もちかいわよ」

 おざなりな賛同であった。




 ちなみに、魚顔軍師への評価は過大である。

 愛車(ハイエース)のハンドルを握る信二は、べつに深慮遠謀に基づいて楓やリンの同行を許可したわけではない。

 単純に、押し切られただけだ。

 助手席に座る美しい少女の横顔を、ちらりと盗み見る。

 出てくるのは溜息。

 残念ながら感嘆の吐息ではない。

 リンの同行に関しては、まあ仕方がないだろう。

 不確定要素の槍使いを澪に残すのは不安がある。仮に暴れたところで残留メンバーの実力なら充分に防衛は可能だが、見えないところで蠢動されるのは面白くない。

 手元に置いて監視した方が効率的であるし、残留するもうひとりの軍師たる美鶴の負担を軽くする必要もある。

 問題は首相の孫娘だ。

 彼女を札幌に連れてゆく理由など、地平の彼方まで探しても存在しない。

 にもかかわらず。

 いんすぱいとおぶ。

 どうしても一緒に行くと言ってきかない楓に押し切られた。

 泣かれたらアウトだった。

 我が事ながら情けなさの極致だが、女の涙はやはり最強の武器らしい。

 軍師としては忸怩たるものがある。

 こうして今回の出張は、実剛、信二、絵梨佳、佐緒里、五十鈴、リン、楓の七人チームということに決定した。

 そして、当初予定から三名も増えたことによって、JRではなく自家用車を使用することなった。

「向こうに着いてからの機動力ができたって考えましょう。信二先輩」

 二列目座席から実剛が声をかける。

 ここに座っているのは、次期当主を中央に入れて右側に五十鈴、左側に絵梨佳だ。両手に花というより、護衛する上で必要な配置である。

 後部座席には佐緒里とリン。

 十人乗りワゴン車に七人なので、スペース的な余裕はある。

「こんなデカブツじゃ、駐車場を探すのも面倒ですけどね。立体駐車場(りっちゅう)はまず無理でしょうし」

 苦笑する軍師。

 どこか拠点を決めて、基本的には徒歩と地下鉄の移動となるだろう。

 ただ、今回は札幌だけでなく隣の江別市まで足を伸ばす予定なので、機動力は無駄にはならないはずだ。

「できれば北見まで行きたいんですけどね」

 塩焼きそばでB-1に参加している都市である。

 実際のライバルを実見しておきたいと思うのは、なにも実剛に限った話ではない。

 絵梨佳や佐緒里が大きく頷く。

「日程的に厳しいですよ。御大将」

 とはいえ、さすがに道東までとなると二泊三日の行程では厳しい。

 澪から札幌までだって二百五十キロくらいあるのだ。

 そこから北見までざっと三百キロ。往復すれば千百キロである。

 あと百キロほど足せば、日本縦断ができてしまう。

「いまさらながら、北海道はでっかいどーですねぇ」

「俺には、海を越えずに隣の県に入れる内地の方が、よほど驚異ですけどね」

「こちらの人って、本当に内地っていうんですね」

 驚いた声を出したのは楓だ。

 ちなみに内地というのは本州のことである。

「うん。それは僕も驚いたよ」

 食いつく実剛。

「…………」

 東京出身同士、盛り上がれるかと思ったが、華麗にスルーされる。

 なんだろう。

 すごく壁を感じる。

 救いを求めるような目を婚約者に向ける。

「はいはい。よしよし」

 おざなりに頭を撫でられた。

「なんか怒ってる? 絵梨佳ちゃん」

「いいえ?」

 真剣な眼差しが楓に注がれている。

 ファッショナブルな都会人から学ぼう、という雰囲気ではなかった。

 美少女同士のライバル意識というものでもない。

 それは警戒。

 戦士としての本能のようなものが、芝の姫の神経に危険信号を送っていた。

 言語化することは難しく、他人に伝えるのはもっと難しい。

 なんと声をかけて良いか判らず、実剛が戸惑う。

「そろそろ静狩峠に入ります。越えたら豊浦の道の駅で一休みしましょうか」

 信二の声が、緊張を解きほぐすように響いた。

 ドライブは順調である。




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