ゲームセンター狂騒曲 ④
社会のルールから逸脱した世界とは如何なるものか
それは自由か
否。
より厳しく縛られた社会なのだ
自由はルール無くして成立しない
自由奔放にも見えるジャズやロックの即興演奏も
スケールやコードの縛りがあればこそであり
漫談、フリートーク、日常会話ですら
その地域の言語を解せずして成立しない
ゆえに社会のルールから逸脱した世界は
より理不尽で
より複雑で
より儀式めいたロジックで構築されている
世界中のマフィアやギャングなどを見るがいい
共通して宗教的、オカルト的な儀式を行っている
(特に組織への入会時など)
逆説的だが宗教とは
社会から逸脱し信仰という新たなルールを自らに課す行為を指すのだ
◇◇◇
……とまあ、難しい話は置いといて
私はTの遅刻を見逃した件について
「知らない」
と言い張るから、Tにもこの件を
「思い違い」
と言い張るように私は厳命した
Tは泣きながら了承した
今の彼には理解できないだろうが
これで全ては解決できるのだ
「言い張ること、そしてそれを貫く意思を見せること」
一般社会では通用しないが
こういう世界では、一番話が早い解決法なのだ
私たちはゲーセンに向かった
店には奥さんがいた
彼女はミカンを食べていた
そして店長が来るまでバックルームで待つよう私たちに告げた
Tは震えていた
……しばらくして
店の前にフルスモークの高級車が停車した
肩で風切りながら店長が入店して来た
そのままバックルームへ
部屋の扉は閉められ、開口一番、店長は吠えた
「おう、どうなってんだこらあ!」
Tは絶叫した
「黒い安息日さんに、思い違いだと言い張れって言われましたあああ!」
えええええええええええええええええええええええええ!
いきなりの裏切り
内心ズッコケる私
一瞬動揺した店長だったが、私に雷を落とす
「ど、どういうことだこらあ!」
とりあえず言い張る私
「私は何も知らないっす」
うわあああああああん!
大声で泣くT
店長が彼に吠える
「うるせえ!てめえは帰れ!」
号泣しながら部屋を出たT
しばらくして店長は、ポケットからキャスターマイルドを取り出した
私がジッポで火をつける
ふー。
煙を吐く店長
そして私に問うた
「……どういうこと?」
私も、どう説明したらいいのかわからない
とりあえず謝った
「いや、ほんとスイマセン」
「言い張るんだったら、ちゃんと最後まで言い張れよ」
「いや、ほんとスイマセン」
「缶コーヒー飲むか?」
「あ、頂きます」
ちょっとわかりにくいので、店長の気持ちを代弁しよう
店長はまず、オーナーとして「遅刻すんな」と言いたかった
そしてなにより
「遅刻をごまかしてもらいました」
なんて話を聞きたくなかった
そういうことは見つからないようにやれ
堂々と話しやがって、俺をなめてるのか?
……というロジックなのだ
まあ、わからんでもない
だから、店に来てしまった何も知らないヤンキーどもを
いつも通りビビらせるような感じで入店し
ちょっと怒鳴りつけて威厳を見せたかっただけ
つまり本当は、全然怒ってなかったのだ
そもそも店に来た時、奥さんはのん気にミカンを食べていた
この時点で私は茶番だと気付いていたし
Tも実はビビるような状況ではないと察するべきだったのだ
私は家に帰ると
玄関前にTが立っていた
私を見るなり土下座し、再び号泣し始めた
「ずびばぜんでじたあああああああああ!」
私はこの時
可笑しいというか
可愛いというか
私は兄弟や親族を持たないのだが
弟って、いるならこんな感じなのかなって……
それは今も、そう思っている
用事がないので最近は連絡を取っていないが
いつでも気軽に話せる関係性で今日に至っている
◇◇◇
余談だがこのT
当時、めっちゃ可愛い彼女がいた
なんとお互い初めて付き合った彼氏・彼女で
めっちゃラブラブだった
その関係は長く続き
やがて二人は入籍した
ひゅ~、すげえ
こんな甘々な恋愛小説みたいな話って現実にあるんだ
私は感心していた
私にとっては弟と妹みたいな感じで
二人は永遠に幸せであって欲しい……
それから長い、長ーーーーーい時が経ち
割と最近、つまり数年前
Tから電話が入った
「あら、お久しぶり、お元気かしら、ホーホホホ!」
ここに至ってもキャラを崩さない私はともかく
Tは電話口でこう告げた
「……離婚しました」
「ふぁ????????????????」
「……浮気されました」
「ふぁふぁふぁ???????????????」
「……ぼく、浮気されたんです」
久々に聞いたTの号泣
衝撃で腰を抜かす私
お互いの事情については当事者ではないので何とも言えないが
こんな理想的なカップルでも離婚ってするんだ……
そう思う吉宗であった。
◇◇◇
「ゲームセンター狂騒曲」はいったんここで終わります
次回はリクエストがあったので、番外編として
「どうやってゲーセンを盛り上げ客を増やしたか」
について語ります
先に言っときますけど
めっちゃ「なろう異世界転生」的な話になりますよ
私は語れてうれしいけどね




