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ゲームセンター狂騒曲 ③


 いつも通りのゲームセンター


 お客さんも増えて、対戦台の後ろには順番待ちのお客さんが並んでいる

 当店は不良どころかマナーの悪いお客さんも寄り付かない

 理由は、本作の前篇を読んで頂けたら色々察して頂けるはずだ


 私のケータイが鳴る (当時はPHSだが)

 店長からだ



「はい、もしもし」


「おい、おめえよ、俺がよ、女子高生の客に声かけまくってるって言ってるらしいな」


「……言ってません」


「おい、嫁が言ってんだよ、おい、どういうことだよ」


「……店長、私は自分がそんなこと口にすればどうなるか、誰より理解しています」


「だよな、わかった、なんかあったら連絡しろ」


「……はい、お疲れ様です」



 電話は切れた

 いつも通りの通話内容


 そして、いつも通り大幅に遅刻して

 奥さんが交代にやってきた



「はいお疲れ、帰っていいよ」



 奥さんの顔はボコボコで

 両目は青く殴られた跡があり、鼻血も固まったままだった

 いつもの事なので、私はツッコまない

 いつも通り挨拶だけして、そそくさと帰るのだった


 ある意味、仲の良い夫婦である



◇◇◇



 どうやってゲーセンを盛り上げ客を増やしたかは

 要望があれば語りたいが

 需要はなさそうなので我慢する


 それはそうと店長は、プリクラにご執心だった

 プリクラは店長が直接担当していた

 女子高生の客が来ることに喜びを感じていたらしい

 私は売り上げも大したことないし流行りもわからないのでノータッチ

 店長は常に予算度外視で最新のプリクラを導入していた


 ある日、店長肝いりの最新型が導入された

 なんでもデジカメのデータを入れれば、オリジナルの背景が作れるらしい

 店長は当時まだ珍しかったデジカメを手に

 自らを被写体として当店オリジナルプリクラを作成

 サンプルとして筐体に貼り付けていた


 ……これが、凄かった


 姫路城を背景に単独で写るヤクザとしか言いようのない人物のプリクラ

 族車を背景に単独で写るヤクザとしか言いようのない人物のプリクラ

 そして、当時の流行に配慮したのか

 笑顔の安室奈美恵を背景に単独で写るヤクザ(以下略


 全て、店長は無表情である

 いや、ややしかめっ面と言っていい


 後日、店長からオリジナルプリクラの感想を聞かれたとき

 私は正直に答えることが出来なかった

 良いと思います、そう淡泊に答えただけだった


 当時のお客さんは、あれをどう見ていたのだろうか

 今は知る由もない



◇◇◇



 そのゲーセンの近くに、夜間高校があった

 当店はそこの生徒のたまり場になっていた

 ちょっぴりヤンチャだが、決してマナーが悪いわけでなく

 みんな対戦ゲームに夢中だった

 ケンカや揉め事は一度も無かったように記憶している


 さて、その高校生の中にTがいた

 彼とはその後も長い付き合いとなる

 余談だが、彼は後に私のバンドでドラムを叩いた時期もあった

 とはいえ技術的にアレだったので交代することになるのだが……


 それはともかく高校時代のT

 ちょいヤンチャ、ちょいオタクな小僧で

 私も客としてそれなりに可愛がっていたのだが

 ある日、店でバイトしたいと言い出した


 私は止めた

 全力で止めた

 必死で説得した


 とはいえ、なぜダメなのか具体的に口にすることが出来ない

 まあ、そりゃそうだよね

 とてもじゃないけど、言えないよ……


 というわけで説得力が足りず

 何も知らないTは私を通さず直接店長に話をしてしまった


 即採用


 そして数日後

 実態を知ったTは激しく後悔するのだった



 ある日、奥さんがTに聞いた



「黒い安息日は、ちゃんと仕事教えてくれてる?」



 Tは……彼なりに、私を立てようとしてくれたのだろう

 良い人だと思ってもらえるよう言ったつもりだったのだろう

 バカの考え休むに似たり

 言わなくていい余計なことを、口にしてしまったのだ




「黒い安息日さん、めっちゃいい人っすよ!ボクが遅刻しても、時間通りに来たってことにしてくれたりするんすよ!」




◇◇◇



 自宅で優雅なひとときを過ごしていた

 私のケータイが鳴る (当時はPHSだが)

 店長からだ



「おい、こら、どういうことだ、ああ?」


「……なんでございましょう?」


「おめえよ、Tの遅刻、見逃してるのか、こら?」


「……いや、知らないですね」


「知らねえだと、こら」


「……知らないです」


「わかった、じゃあ」



 電話は切れた



◇◇◇



 解説しよう

 ここで重要なのは遅刻ではない

 それなら毎日遅刻しかしていない店長や奥さんはどうなんだ、という話になる

 そもそもTが遅刻しようが、店長や奥さんには関係ないし興味もない


 問題なのは

 遅刻をごまかしているという話を、店長や奥さんの「耳に入れた」ことなのだ


 それが「怒られない事」だと「思われた」事なのだ

 つまりそれは「なめられた」と判断されたのだ


 反社会のロジック

 裏世界のルール


 前回話したチンピラの騒動を覚えておられようか?


 彼らはなぜ怒ったのか?


 「仕事をサボってゲーム」

 はそもそも事実無根なので論外としても

 「店の両替機から店長が金抜いてる」

 「店長がテレクラで女漁ってる」

 は共に事実である

 (その時は知らなかったが)


 だが、事実であるかどうかなど関係ないのだ

 そのような内容を人に話して「耳に入れた」ことが問題なのだ

 それを彼らは「なめられた」と判断したことが全てなのだ


(実際は話してもいない事だったので「なめた」のはチンピラだった

 ゆえに、過酷な制裁を受けている)


 つまり極論すれば

 例えば「仕事サボってゲーム」しても問題ないのだ

 なんなら気付かれても見て見ぬふりされる場合すらある

 ダメなのは「耳に入れる」ことなのだ


 表向きは薬物取り扱い禁止の反社組織

 しかし実態は……言うまでもない

 そんな矛盾が成立するのは

 この独特なロジックにある

 上層の「耳に入る」事がなければ、良しとされるのだ

 (まあ、本当はみんなわかっててやってるんだけどね)


 つまり私は「知りません」という立場を表明したのだ

 あとはTが「思い違いでした」と言い張ればいい

 事実など関係ないのだ

 そういうストーリ (筋書き) を見せ貫くことで

 「決してなめている訳ではありません」

 という態度を崩さなければ、そういう物語として終わるのだ


 変なロジックだが、そういうものなのだ


◇◇◇



 その日の夜、Tがガチ泣きしながら私の家に来た

 オーナー夫婦に、めっちゃ詰められた (怒られた) らしい

 彼は号泣し、ひたすら私に謝った


 しかし私は全く怒っていなかった

 だって、こんな普通の子どもに、高校生に

 こんな世界のロジックなんてわかる訳ないし、知っているはずもない

 むしろ理解している方がおかしい

 とはいえ


「遅刻をごまかしてもらいました」


 なんて言うことをオーナーに言うことは

 一般社会の常識としてもおかしいことだし

 私の立場がなくなってしまうだろう


 私はTと共に、今から店長に会わなくてはならないとのこと

 泣いて詫びるTに、私は諭した



「よくお聞きなさい、私は知りません、と言い張ります」


「……はい」


「ですから貴方は、ぼくの思い違いでした、と言い張りなさい」


「……はい」


「彼らはそれで納得します、そういう筋書きなのです、その後は私に任せなさい、さあ行きましょうか」


「……はい」



◇◇◇



 次回、「ゲームセンター狂騒曲」最終回


 誰もが予想だにしない衝撃の結末が訪れるッッ!



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― 新着の感想 ―
よくぞご無事で…! 事実はVシネより奇なり…。 店長:白竜、奥さん:小沢真珠、監督:三池崇史で脳内映像化。 続きを楽しみ?にします、ハラハラ
こりゃ面白い!(^q^)
〉どうやってゲーセンを盛り上げ客を増やしたかは 〉要望があれば語りたいが 〉需要はなさそうなので我慢する   いや、ソレ大事やろ  存分に語るべし
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