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ゲームセンター狂騒曲 ②


 夜中に店長から呼び出された

 とにかく急いで店に来いという


 風営法などガン無視で深夜営業していたゲーセンだったが

 私が店に着いた時は、無人だった


 いや、正確には

 店長、奥さん、そして見るからにチンピラの三人が

 私を待ち構えていた


 私はそのチンピラを詳しくは知らない

 だが、店長は見るからに「金持ってそうなヤクザ」なので

 すり寄ってくる怪しい連中が後を絶たない

 彼もその一人らしい


 店に入るなり、灰皿が飛んできた

 続けて椅子

 店長が吠える



「おい、おまえ仕事中にサボってゲームしてるらしいじゃねえか、ああ?」


「……してません」



 私は短く反論した

 確かにゲームは好きだが、別にプレイしたいわけじゃない

 だって下手くそだから

 そもそも、こんなヤバい店で堂々と仕事サボれるわけねーじゃん

 店長の横でニヤニヤするチンピラ

 ああ、そういうことかと私は察した

 店長は続けて吠える



「店の両替機から俺が金抜いてるとか言ってるらしいな」


「……言ってません」


「俺がテレクラで女漁ってるとかも言ってるらしいな」


「……言ってません」



 後に分かるのだが、これ全て事実だったりする

 しかし、当時の私は知らなかったわけで

 ていうか知ったところで、誰に話すっちゅうねん

 ましてや、目の前で偉そうに座っている

 名前も知らないチンピラに言うわけがない


 私は、あまり良い環境で育ったわけではない

 そして、いや、だからこそ武術を習っていた

 (柔道はかじった程度なので初段、あと空手少々と古武術)

 正直この3人相手なら、何とかなるかもしれない


 だが、反社を相手にして怖いのは暴力ではない

 その先にある事象だ

 殴り合いで制圧するくらいなら、逃げて警察に駆け込んだ方がいい

 そのくらいのことは理解している

 何度か体験してきたことなのだから

 とはいえ、この時私はまだまだ若く

 足が震えていたのも事実である



 店長がサングラスを外した

 その目を見た


 あ……


 何か感じた

 私は安心した

 だが店長は吠える



「おい、外に出ろ」



 裏口のドアから店を出た

 外で店長がキャスターマイルドを咥えた

 私は店長用に持ち歩いていたジッポで火をつけた



「……今日は帰れ、明日は休め」



 店長はそう言って店に戻った

 私は家に帰った


 次の日の昼、私の家のインターホンが鳴った

 一応警戒していたので覗き穴から外を見たら

 昨日のチンピラが立っていた

 ……どこで私の家を知ったのか?


 正直その場でボコボコにしてやりたかったが

 あえて、居留守を使った



◇◇◇



 夜。


 また電話が鳴った

 今度は奥さんからだった

 ものすごく高圧的に、今すぐ店に来いと言っている


 昨夜と同じように裏口から入った


 当然客のいないゲーセンの中央で

 椅子に座った奥さんがいた

 手には、やたら大きく黒い断ち切りバサミ


 足元には昨日のチンピラ

 四つん這いだった

 背中は肌が露出していて

 血まみれだった

 彼は、ハァ、ハァ、と息を切らし

 周囲には毛髪が散乱していた


 奥さんは私に言った



「おい、目線が高いねん」



 ……つまり座れ、ということらしい

 奥さんはなぜか、相手が自分より高い目線で話すことを許さない

 私は正座した



「お前な、昨日の夜な、身に覚えないんやったら、その場でハッキリ言わんかい」


「……はい、すいません」



 いや、ハッキリ言ってましたけど?

 などと反論できる雰囲気ではない



「お前がハッキリせんから、こういうアホが調子乗ってな、店長に適当なこと吹き込むんや、せやろ!」



 ズブッ。



「ぎやああああああああ!」


「……はははい、すすいませせん」



 すでに何度か突き立てられたであろう断ち切りバサミが

 チンピラの背中に……



「ハッキリ言わんお前も悪いんや、わかっとんか、ああ?」


「……はははい、すすすいません」



 ズブッ。



「ぎやああああああああ!」



 この手のチンピラは基本アホなので

 店長に取り入ろうと適当なことを言ったのだろう

 程度の低いバカ同士ならともかく

 本物のアレな人に「適当なこと」は「適当なこと」で済まない


 昼間にチンピラが私の家に来たのは

 思ったよりヤバいことになったと察し

 私に詫びを入れようとしたのだろう

 八方手を尽くし家を探し出したのか

 まあ、手遅れなのだが


 私は「ざまあみろ」と思いつつも

 目の前で人がズブズブ刺されているのを見て平然としていられるほど

 豪胆な人間ではない

 内心、結構ビビっていた

 誤解は解けたはずだ

 その刃物、いや狂気が今、私に向かうとは思っていない

 だが、このような人間に関わってしまった事に

 激しく後悔していた

 そして、こういう社会、こういう世界、こういう人間関係に

 心底、疲れと拒絶を感じていた


 奥さんは言った



「今日は帰れ、明日は早く店に来て掃除してから開店しろ」




 ……マジか

 朝一でこの血と毛髪まみれの床を掃除すんのか……

 筐体や椅子も並べ直さないと……

 もう、やめたい……


 なお、私の人生で人が刺される瞬間を見たのは

 この時二度目だった



◇◇◇



 ……以上、文言は若干違うかもしれないが、内容は偽り無き事実である


 そして本作は「栄光なき知人たち」

 基本私の友人の話を語っていく

 次回、こんなゲーセンと知らずバイトにきた愛すべきバカ、友人Tくんの物語である


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― 新着の感想 ―
おお、これは何という修羅場に… いくらチンピラという良き市民とは言い難い反社会的な人物とはいえ、すでに何度も刺された背中に更に刃物が突き立てられるという光景には壮絶な物が御座いますね…
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