ゲームセンター狂騒曲 ①
199x年 某地方都市
深夜のゲームセンターに私はいた
そこには他にも中年の女性と、男が一人
ゲーム筐体の床に散乱する毛髪と、血痕
時折男の絶叫が、店内に響き渡る
なぜ、こんなことになったのか……
◇◇◇
私の名前は「黒い安息日」
ごく一般的でありふれた貴族令嬢にすぎない私も、若い頃はあった
いや、今も若い
若いはずだ
まだ、やれる!……何を?
そういえば某アイドルが不祥事でグループを脱退し、独自に新ユニットを結成
そして制作された1stシングルのタイトルが「世界征服」
しかし売れ行きは芳しくなかったようで
間を置かず作られた2ndシングルのタイトルは「まだ、やれる」
なお、3枚目がリリースされることは無かった……
いや、そんな話はどうでもいい
とにかく私は若い頃、地元を離れ某地方都市に移り住んだ
元々非上場とはいえそこそこの大手企業に就職していた私だったが
どうしても音楽 (バンド) の道が捨てられず……
いや、言い訳だな
自由奔放に生きたくて、退職したのだ
その後、夢は破れたり叶ったり紆余曲折するのだが
今は語るまい
とにかく当時、私はわずかな貯えと根拠なき自信を胸に
あまり馴染みのない地方都市へ移り住んだのだ
とはいえ地元と大して離れているわけでもなく
友人や音楽仲間との関係性が薄れたわけでは無かった
さて、退職したことで収入が完全に断たれている
貯えはあっても長続きはするまい
とりあえずバイトでもしようと考えていたところ
駅前のゲームセンターの存在に気付く
少しわかりづらいビルの中にあるその店は
絶妙な怪しさを醸し出している
そして「バイト募集」の張り紙が……
私はゲームセンター、というかオタク文化
いわゆるサブカルチャーに強い関心を持っていた
この業界、これから伸びる、と
今なら「何言ってんだ?」と思うだろうが
当時はエヴァンゲリオンが大流行していた頃で
オタク文化に対する風当たりは、まだまだ強かった
そしてゲームセンターは不良のたまり場としての側面を残しつつ
熱心なゲームユーザーを集め始めていた時代
……良くも悪くも熱かった
まあ、そんなわけで
私なりに大志を抱いてゲームセンターのバイト募集に応募したのだ
甘かった
◇◇◇
そのゲーセンは夫婦で経営していた
まずはオーナーである、店長
常に薄いサングラス
前髪だけ金に染め、カッチカチに固めたオールバック
派手なネックレスも金
そして黒いスラックスに紫のジャケット
誰がどう見てもヤクザにしか見えないが
実際は……
関東の某有名な暴走族の元支部長であり
とてもここでは書けないような事件で収監され
(薬物?傷害?そんな甘い事件じゃないよ)
関西に逃げてきた経歴を持つ
なんというか……
ヤクザにしか見えないっていうより……
ねえ……
まあ、そんな人である
そして、その店長の嫁、奥さん
これがかなりの曲者で
旦那以上に気が強く喧嘩っ早い
つうか相手が誰であろうと引かない
そう聞けば豪快で気風の良い姐さんを思い浮かべるかもしれないが
めちゃくちゃ陰険
そして思い付きと咄嗟で平然と嘘を吐く
なかなかの怪人物ではあるが、唯一褒めれるのは見栄を張らないところ
一見普通の質素な主婦である
とはいえ面子には大変こだわっていた
なるほど
なるほど
こんな店だから地元では有名だったらしく
そりゃバイト募集しても誰も来なかったわけで
さて、何も知らない私が働き出し
まあ速攻で辞めたくなったわけだが
私しかいないので言い出しにくい
ていうか、ぶっちゃけ怖い
さらに、この夫婦、「変」なのだ
いやまあ変な人だけど、そういう「変」じゃない
まず、時間にルーズ
開店 (朝) から夕方まで私が店にいて
夕方から店長か奥さんが交代する約束だったのだが
まあ、時間通りに来ない
とにかく何時間も遅れて交代に来る
そして、執拗に人を疑う
特に店長はその傾向が強く、独特の関東弁で日夜問わず電話をかけてきて
「おい、おめぇ、俺の悪口言ってるらしいじゃねえか、ああ?」
と、聞いてくる
最初はビビっていた私だが、次第に慣れていく
そもそも、「悪口言ってる」というしょーもないことで電話をかけて来ることに
私はとある疑念を持ち始めていた
ピンときた読者の方も、いるかな?
そう、典型的なアレの中毒症状である
時間にルーズなのも、つまりはそういうことなのだ
この件に関して証拠はないのだが
今は確信している
明らかに、アレだ
そして、私が「そういうの」を心底嫌う一因である
ダメ、絶対。
◇◇◇
さて、なぜ私がこのゲーセンを退職しなかったか
まあ単純に怖かったというのも否定しないが
それ以上に、仕事としてめちゃくちゃ面白かったのである
まず、オーナー夫婦がこんな人なので
意外にも店に不良が来ない
たまに何も知らないアホがシンナー片手に店に来ることもあったが
私は即店長に連絡していた
交代時間には常に遅れる店長も、なぜかこういう時は速攻で来る
歩いて10分の自宅から、わざわざフルスモークの高級車で来る
そして店内を闊歩し、周りへ見せつけるように私を恫喝する
「おう、サボってんじゃねえぞこらあ!」
「は、はい!すいません!」
私は頭を下げる
ちなみに、これは阿吽の呼吸で行なわれる演技である
どんな不良も、チンピラも、何も言わず速攻で退散する
それを横目で確認し店長は
「……じゃ、また何かあったら呼べよ」
と言って帰っていくのだ
何度も繰り返された、今もって懐かしいお約束である
実は私は店長が嫌いではなかった
まあ関わりたくはないが、店に関しては全て好きにやらせてくれた
入れるゲームの種類も、クレーンゲームの景品も
ほとんど全て私が選択することが出来た
私はゲーマーではない
バーチャファイター2が少しできる程度で、しかもアーケードではエンディングまで進めない
対戦格闘も待ちガイルよりマシ程度の腕しかなく
連続技とかキャンセルとか今だに出来ない
そんな浅いペラペラな知識だからこそ広く視野が持てたというか
……まあ自分の武勇伝語るのも寒いんで詳細は置いといて
とにかく店の売り上げはめちゃめちゃ伸びた
店長はそれを認めてくれたし
奥さんも少々アレだけど、まあ良くしてくれたと思う、思いたい
そんなこんなで、ゲーセンで働いてるときは楽しかった
あの日までは




