みんな違ってみんないい
魔女は湖のほとりにある塔へ帰ると、アーサーを植木鉢へ植え、コンクリートを流し込んだ。
これで許しもなくチョロチョロしないだろう。
「独占欲がすごい」
「独占欲っていうか、世界に対する責任になってきてる」
「なーる~、俺は罪な男だな、ハハッ」
「除草剤の作り方を調べなきゃね……」
ため息を吐きながら、魔女は細い指先で水晶玉をひと撫でした。
すると、水晶玉が青く光って彼女の見たいものを映し出した。
水晶玉が映し出したのは、セルジュの姿だ。ルゥルゥの手を引いて、険しい山道を登っている。
「ふん」
魔女は鼻を鳴らして、水晶玉へ顎を反らせた。
「こうして見ればやっぱり子供じゃない」
魔女は聖剣の洗脳が解けたのか、そう言って唇の片端を吊り上げる。しかし、吊り上げられた唇の端は、仲睦まじいルゥルゥとセルジュの様子を眺める内に、プルプル震えて下がっていった。
「アア、馬鹿らしい。憎らしい。何とか酷い目に遭わせてやりたいケド、タートルネック仙人とは関わりたくないのよね……」
「そんなにヤバい仙人なのかい?」
「そうね、女に優しいだけアンタの方がマシって感じの仙人よ」
「レディファーストじゃないからイケてないってことか」
「こういう場合、対象と欠点を重ねて皮肉ってるんだけど、プラス方面に着目して自分アゲしてくるのとても不思議。こわい」
「うふふ、俺のミステリーを解いてみる? なぁ、もうカリカリしてないで楽しく暮らさないか?」
「はぁ!?」と、魔女が声を上げた。
開いた口が塞がらないとはこのことだ。
「テメ、何言ってんの、誰のせいでカリカリしてると思ってるの!」
「俺だろ? ヤキモチ焼かせて悪かったよハニー」
「ヤキモチってレベルの話じゃないでしょ、子供までつくって……(第一話参照)」
「ゴメンゴメン! じゃあハニーと俺の子供つくろ! 結婚しよ! だから俺の下半身戻そ!」
「どうして地雷を踏み抜きながら、魂胆丸出しで一応言ってみるの……?」
「イヤ、マジで幸せにするしマジで!」
「もう黙って」
世界一信用できない「マジ」を繰り返すアーサーを放っておいて、再び水晶玉へ集中する。
水晶玉の中では、相変わらず険しい山道を行くルゥルゥとセルジュが、手に手を取り合って微笑み合っている。それがなんだかとても幸せそうに見えて、魔女は奥歯をギリッと鳴らした。
「ふん、タートルネック仙人は魂を抜く仙術を使うんだから……そうよ、馬鹿人魚も魂を抜かれて人形に入れられてしまえばいいわ!」
「あれ? それが実現したら一番ハッピーじゃないか? マーメイドは普通の女の子になれるじゃないか」
「馬鹿ね、魂だけになったら自分の事やらなにやら全部忘れちゃうのよ。そして右も左も分からない魂入りの人形は、仙人の度重なるDVとモラハラに洗脳されてハーレムの一員となるのよ」
「悪じゃん」
「悪よ」
「君はよくもそんな仙人と俺を比較したものだな……鮮度抜群に驚いたぞ」
「私の方が毎回アンタに驚かされてるからおあいこね」
「俺たちナイスカップルだね」
早速驚かされながら、魔女は水晶玉へ目を移す。すると、セルジュが崖の端にぶら下がって今にも落ちそうになっていた。崖下はかなり下の方だ。ルゥルゥはオロオロして、嘆きの歌を歌っている。シンプルにピンチ。
「ちょ、なにやってるのよ……」
「ああ、俺の弟が!」
「弟!? 冗談でしょ!? あんな天……っていうか、……ええと、道理で目鼻立ちが好……イヤ、なんていうか、へ、へぇ、弟なの!?」
色んな感情で動転していると、セルジュの片手が崖の端から外れてしまった。大ピンチだ。
魔女は思わず杖を取り出して、ハッとする。
「なんで私が……」
ソワソワと杖先を惑わす魔女。
そんな彼女の心の中に、声が響いた。
――――ピンチの時の必死なショタって最高。
「……クッ、水晶玉を通してまで語りかけてくるこの声は……聖剣ボーイスカウト!?」
――――ホホホ、そう思うでしょう? でも、残念だけど、私は聖剣ボーイスカウトの影響を受けてあなたの中から生まれたあなたオリジナルのショタ狂よ!!
「な、なにぃ!? 私ともあろうものが、魔法道具に影響を受けるなどあり得ないわ!」
「誰と話してるの? その人女? 美人?」
――――まぁ、認めたくないなら別に良いケド。それよりどうするの? ガキンチョが大変よ。私としては、絶望を与えて、ショックを受けたまま崖から落ちるショタも美味しいと思うわ。
それは、明らかに聖剣ボーイスカウトと趣旨の違う発言だった。
それでは、この声は、本当に魔女の中で生まれたショタ狂なのだろうか?
魔女は疑問に思いつつも、オリジナル狂気に今までの自分と近いものを感じた。
「確かに……そうなればあの馬鹿人魚も絶望ね。死別ほど徹底的な別れもないでしょう」
――――そうよ。きっと人魚も絶望して自ら仙人へ魂を差し出してしまうかもね、あなたはあなたで、ガキンチョの魂を拾って、永遠にドールにして側に置いておけばいいのよぉおーホッホッホ!
「……なるほどね……」
魔女はニヤリと笑うと、杖を振りかざした。
「風よ吹け、パンツよ消えろ、ろんもんりりまー!!」
すると、セルジュのぶら下がっている崖下から強い風が吹いて、ルゥルゥの短いスカートを思い切り煽った。あと、ルゥルゥが隣の国で貰ったパンツが消えた。
「あー! 俺の息子(ケンタじゃない方)が弟に丸見えてしまう!? あんなアングルから弟に見せつけるのは恥ずかしい!!」
しかし、セルジュのポケットからホタテが飛び出て来て、ちょうどルゥルゥの股間にパシンとハマった。セルジュはちゃんと隣の国の植物園で、落ちてたホタテを拾っていたのだ。本当に気の利くグッドボーイである。
元サヤに収まったホタテ隠しは角度的に若干危ういけれど、セルジュは風に煽られてそれどころじゃないみたいだった。
「ホホホ! 風よ! もっと嵐の様に吹け!」
魔女が更に水晶玉へ杖を突きつける。
セルジュが強い風に吹き上げられて崖の上に転がる姿が、水晶玉の中に映った。
魔女の中で聞こえる声が、狼狽えている。
――――助けてどうするのよ!?
魔女はフンと笑った。
「ショタの必死な顏は、おねぇさんにちょっとドキッとさせられておませな感情を隠している時や、おねぇさんの周りに年上の男がチョロチョロした時に焦っちゃう時とかがホッコリキュンキュンなわけよ!!」
「ハニーどうした」
「あと、アンタはあのボウヤをガキンチョと呼んだけど、ガキンチョとショタはちょっとニュアンスが違う。ガキンチョにも良いところがいっぱいだけど、ちょっとなんか違うのよ!! そして紛れもなくあのボウヤはショタなの!! ねえ、アンタは私から生まれたという割に、全く私のツボをわかっていない。そして、聖剣ボーイスカウトとも噛み合わないに違いないわ。つまり、アンタは私でもない、聖剣でもない、第三者なのよ……!」
――――くっ!!
魔女の瞳が冷たくギラリと光った。
「アンタ、タートルネック仙人ね?」
魔女の名前はハニーです。




