アーサーとケンタとエロいお姉さん
エロいお姉さんのお店は、お城のすぐ近くにあった。
アーサーとケンタは、お城とかどうでもよかったから、お姉さんのところへ急いだ。
ところが、大きな城門が目の端に入ったケンタは、ふとした違和感に声を上げた。
「パパ、トマッテ」
「ケンタ、どうした?」
ケンタを抱っこしていたアーサーは、息子の願い通り、逸る心を抑えて足を止めた。
ケンタはジッと城門を見つめている。
ケンタの視線の先には、開放された城門へと、人の群れが押し寄せている景色が見える。
人の群れを占めるのは、結婚をする王子様を一目見ようと集まっている国民たちや、外国からはるばるやって来た王子ファンたちだ。
鐘の音が軽やかに響く中、白いハトも飛び回っている。
物凄い祝福モードだ。
しかし、ケンタが気になったのは、城門に掲げられた国の紋章だった。
その紋章は、二首一翼の鳥がディフォルメされたデザインをしている。
鳥は二つの頭を空へ向けているのか、丸いくちばしをツンと上に向けている様だ。
ドクン、ドクン、とケンタの心臓が跳ねた。
「ナンダ……ナニカ……」
ケンタに謎の感情を訴えてくる紋章。
----ナニカタイセツナコトヲワスレテルキガスル……ナンダ……? ……ワカラナイ……!!
目を見開き、湧き出てきそうで湧き出ない謎の衝動と戦うケンタ。
その様子を見て、アーサーはケンタの視線を追った。
そして、アーサーも紋章に目を見開いた。
「あ、あれは……オッパイ!?」
「アッ!! 嗚呼ぁ~!!!」
なんか鳥の頭が二つ並んでチョンと上に赤いのがついてたから、オッパイに見えたらしい。
ケンタの鋭い嗅覚も赤子ながら見事であるが、一目見ただけで何もない処から直ぐにオッパイを生み出してしまうアーサーは、父親の威厳を十分に放っていた。
ケンタは、脳裏に鮮やかなオッパイを描いてくれた父を、益々尊敬のまなざしで見た。
「パパ、スゴイ! オッパイ、スグデル!!」
「ハハハ、ケンタもその内、なんでもオッパイやアワビに見える様になるぞ!」
「スゴーイ!」
そんなんなったら夢みたいである。
ケンタは瞳を輝かせ、パパみたいに早くなりたいと願った。
そんなこんなで、アーサーとケンタはエロいお姉さんのお店へとやって来た。
エロいお姉さんはお花屋さんの店先で、なんともエロく花に水をあげているところだ。
「おお……ケンタよ、お前エグいくらいオンナのセンスあるじゃないか」
「エヘヘ……アワビ」
「ナイスアワビ! よし、すぐに声を掛けよう……と、言いたいところだが悲しいかな俺は今下半身が切り株の化け物である。むやみにレディを驚かせてはいけないし、どうしたものか」
「ムムウ」
アーサーはこの世界で一番ルゥルゥと境遇が近かった。
しかし、ルゥルゥには彼女の下半身が好みだという王子が現れたのだから、アーサーにだってそういう人が現れたって何もおかしくはないハズだ。
「ああ……あのお姉さんが植物だったら良かったのになあ」
物陰から物欲しそうにエロいお姉さんを眺めて、アーサーは甘い吐息を吐いた。
この吐息にはフェロモンが含まれていて、フワフワと風に乗ってお姉さんのところへと運ばれていった。
*
エロいお姉さんは、お花の世話をセッセとしていた。
このお姉さんはエロいだけじゃなく、植物の世話がとても上手だ。
だから、お店の植物は良く育ち丈夫で長持ち、桃も栗も柿もここで買ったものは直ぐに実ると評判だった。
店員がエロい上に商品も良いとは、最高の店である。
しかし、そんな手品みたいな話には種がある。
何を隠そう、このエロいお姉さんは木の精霊ドリアードなのだ。
さて、このドリアードは自身のエロさに言い寄ってくる人間の男に全く興味が無かった。
根元が三本しかない男なんぞ、どうしようもない。彼女はそう思っていた。
――――ああ、今日もまた、物陰から私を覗いている男がいる。何か高いお花を売りつけてやろうかしら?
アーサー(とケンタ)の視線に気づいていたドリアードは、そう企んで彼らの方を見た。
それから花束を抱え、艶やかに微笑んで言った。
「そこのお兄さん、お花は如何ですか?」
しかし、男は切なげに微笑んで物陰から出て来ない。
普通の男なら、この妖艶な微笑みに釣られてフラフラやってくるというのに、と、ドリアードは不思議がった。
「そんなところから見ていないで、もっと近くで見ると綺麗ですよ?」
「いやー、そんなに近くで君を見たら俺はおかしくなってしまうよ」
元々おかしいが、もっとおかしくなるのだろう。そいつは大変であるから、アーサーはそう言ってドリアードの誘いを断った。
ドリアードは男を店先に誘い込めなかった事が無かったから、驚いてしまった。
――――ふぅん。ウブなのかしら?
興味を引かれて、男をしげしげと見る。男は、稀に見る美青年だ。
――――でも、人間は根っこが少ないのよねぇ……。でも、でも……何故かしら……なんだかとても惹かれる……。
ドリアードが胸をざわつかせていると、ふわりと風吹いた。
その風は、「お姉さんの短いスカートがめくれないかなぁ」と、いうアーサーとケンタの願望をどっかのなんかの神様が「俺もそう思ってた! でも俺、腐っても神だしそういう事に基本力使えんからさぁ……ま、でもお前らの願いなら仕方ないよな!?」と、聞き届けて吹いた風だった。
風はドリアードの抱えていた花束の花弁を、ヒラヒラとアーサーたちの方へ運んだ。もちろんちゃんとパンチラもした。
そして、アーサーのフェロモンをいち早く察知していた花の数本が、「今だ!」と、自ら彼の方へどさくさに飛んで行った。
「あ、こら待ちなさい商品……!」
ドリアードは(風に)飛んで行く花を追いかけて、アーサーの隠れていた所までやって来た。
そして、アーサーの姿を見て立ちすくんだ。
「!」
「あー、ごめんね……怖がらなくても大丈夫だよ、下半身が切り株なだけだからね!」
「あ、あなた……」
「あ、コッチは下半身が馬なだけ!」
「アワビ!」
ドリアードはふるふると首を振った。
アーサーはヘラヘラ笑って後退る。
「フフフ……こんなん怖いよね☆ 生まれ変わったらケッコンしよ☆ チャオ!」
コイツはクズだが、女性に許容される為に、強引な強要をする事は無かった。そして、彼にはいつもその必要が無かった。だから引き際をちゃんと分かっているし、引いた所で大して惜しくも無かった。オンナは星の数ほどいるのだ。
「待って!」
ドリアードが去って行こうとするアーサーを止めた。
彼女は急いで駆けて来て、アーサーの腕を掴むと、彼を見つめて言った。
「あ、あなた……7本も根っこがある…………ジュキ……♡」
アーサーは少し驚いた顔をした後、フッと笑った。
「……俺も、ジュキだよ……」
パンパカパーン!
二人を祝福するかの様に、お城からファンファーレが鳴り響いた。
実際は、ルゥルゥと王子の結婚お披露目パレードの為に鳴らされたやつだが、知ったことかとばかりに、手に手を取り合うドリアードとアーサー。
「ハッピー」
ケンタは新しいママ誕生の予感に大いにホクホクした。
エロい義母さんなんて最高じゃないか。良かったな、ケンタ。
さて、UMAファミリーが誕生しそうな背後で、王子とルゥルゥが華やかなオープン馬車に乗って城門から登場していた。
ルゥルゥはお花で飾られた馬車に大喜びで、立ち上がってはしゃいでいる。
ミニ丈のウェディングドレスから、悪夢のようにムッキムキの脚が伸びているのが丸見えだった。
それを首を伸ばして迎えた国民達は、目を丸くした。
「え」
皆、自分の目を疑って一言しか発せられない。
――――なんぞアレ?
――――わからん。
シン……と、賑やかだった城門付近が静まりかえった。
そこへ、あらかじめバイトで雇われていたサクラ要員達が盛大に拍手をし出す。
「わー、王子おめでとうございますぅ~」
「ひゅーひゅー」
「おにあいですーー」
「ドレスすてきぃ~」
国民達は顔を見合わせたが、サクラ要員達は頑張った。
「なんてかわいらしーお姫様だー」
「すばらしいおみあしー」
「外国では、ああいう鍛えられた脚の女性が今トレンドー」
「そういうのわかんない人は死刑ー」
トレンド分からないと死刑らしいと聞いて、国民達も戸惑いつつパラパラと手を叩き始める。
けれど、なんか納得がいかない。
――――なんだアノ奇妙なアレは?
「なんでウェディングドレス、ミニスカ……?」
ざわつく国民達へ、サクラ要員達は声を張り上げる。
「ミニスカは正義ー」
「お姫様のミニスカまぶしぃ~ひゅ~」
「ミーニスカ! ミーニスカ!!」
ドリアードと見つめ合っていたアーサーは、このミニスカ連呼にすぐさま反応した。
「ミニスカ!? どこだ!?」
「アワビ!! アワビ!!」
まだルゥルゥの姿を見ていない人達も、アーサーに漏れず興味を引かれた様子で、城門へ走って行く。その途中で、アーサーに親切に教えてくれた。
アーサーの奇妙な下半身は、ケンタで見えなかったみたいだ。
「なんか、王子の結婚相手のお姫様がめっちゃミニスカのウェディングドレスを着ていてスゲーらしいぞ!!」
「マジか、大変だ!!」
「ミニスカ!!」
アーサーは一瞬で目の前のドリアードからミニスカお姫様に心奪われ、駆け出した。
ケンタも心得たように父の後を追う。
ドリアードはポカンとした。今まで、こんな蔑ろにされた事はなかった。
「私だって……ミニスカを履いているのに……」
確かにそうだが、新しいミニスカがいいのだろう。落としたミニスカより落ちてないミニスカである。
アーサーには、ドリアードの低い声が全く聞こえなかった。
「ジュキって言ったじゃない!!」
ドリアードは顔をみるみる般若の形相へ変えると、アーサーの後を追う。
どうやら、一度落ちると面倒なタイプだったようだ。
アーサーはそれに気づかず、パレードの後を追いかけている。
「うおおおおおっ! ミニスカあああああ!!」
アーサーは風の様に駆けた。
パレードに群がっていた人々が、突然の怪物来襲に悲鳴を上げて散り散りになっていく。
そのお陰で、アーサーはオープン馬車に乗ったミニスカお姫様を見る事が出来た。
そして、アーサーはめちゃくちゃガッカリした。
「俺の脚ぃぃぃぃ!?」
「ア、(もう一人の)パパ~!」
「え、ちょ、なんで? 俺の脚が結婚しようとしてる……!!」
しかし、それよりもピンチなのは、パレードに来襲したUMA二体を捕獲しようと衛兵隊が突撃して来た事だ。
「え、え、ヤダ困ったよぉ!」
逃げ場を探して背後を見れば、なんか巨大な緑色の大木女がこちらへ進撃して来るのが見えた。
怒ったドリアードだ。我を忘れて、人の姿をしていない。
そんなにか? と、思わないでも無いけれど、重いオンナだったから仕方が無い。ご愁傷様だ。
アーサーは絶対絶命のピンチに陥ってしまった。




