エンディング2
湊にぃが出ていった部屋にひとり取り残された私は、ぽぷりとベッドにダイブした。
今回の旅行で、お姉ちゃんと湊にぃには、大きな進展があったらしい。
お姉ちゃんは自分の好意を伝えたこと。
湊にぃはお姉ちゃんとの関係に対して、真摯に向き合うと決めたこと。
そして、お姉ちゃんの生霊であるさくらが見えなくなったこと。
「……湊にぃが回復したってこと?」
私はさくらに──否、湊にぃがさくらとして扱っていたものに声をかけた。
ベッドに置かれた小さな愛人形。湊にぃが家で桜と話すときは、必ずこれが傍にあった。湊にぃが家の外ではさくらを目視できないと言っていたのも、単純にこの人形を屋外へと持ち出していなかっただけ。
私はさくらが見える演技をしていただけで、実際は湊にぃの言うさくらは見えてもいなかったし、声も聞こえたことなどなかった。
結論として、さくらなんて存在は元よりいなかったのだと思う。
さくらの正体はお姉ちゃんの秘めた好意が生霊化したもので、本当に湊にぃにだけ見えていた可能性も、もちろんある。
けれど、実の所。私はお姉ちゃんの変化によるショックで、精神的負担を抱えた湊にぃが幻覚を見ていただけだと思っている。
事実、さくらは湊にぃが知っている以上のことは知らなかった。
秘めた好意なんて、体のいい言葉を使ってはいたけれど、湊にぃだって、お姉ちゃんが湊にぃを好きだってことくらい心の奥底ではわかっていたはずだ。
生霊だなんて非科学的なものより、よっぽど現実的な見解だと思う。
「湊にぃとお姉ちゃんは付き合うのかな」
それでもいい。
というよりは、そうでないと困る。
お姉ちゃんが改めて湊にぃに対して好意を伝えることは、私と湊にぃの将来のために必要不可欠なイベントだ。
湊にぃの心を癒せるのは、不本意ながら傷つけた本人のお姉ちゃんだけ。
私は湊にぃが健康になるのを待てばいい。
数年の間、湊にぃをお姉ちゃんに譲らなきゃいけないのは不本意ではあるけれど、湊にぃはもうそろそろ海外に行く。
学生の長距離恋愛ならば、漬け入る隙も多いだろう。
湊にぃが誰と恋をして、誰と愛を育もうが、関係ない。だってその経験のすべてが、私と湊にぃの将来の糧となるのだから。
お姉ちゃんなんて、湊にぃにとっての経験値に過ぎない。
「今のうちに楽しめばいい」
最後に勝つのは私だ。
最後に笑うのは私だ。
私はお姉ちゃんを通して湊にぃの理想を模索してきたのだ。抜かりはない。
「6年後にはきっと夫婦」
だからごめんねお姉ちゃん。
そして私の踏み台になってくれてありがとう。
「湊にぃ、大好き。待っててね」
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。無事完結致しました。
当初の予定では小説1冊分に収めるはずだったのですが、色々と長引いてしまいました。
個人的には柊が好きなキャラで、この子を負けヒロインにしたくないな、という想いから、桜の方に弱点を付与しました。付け入る隙が欲しかったんです。
結果、ツンドラ幼馴染が完成したのですが、ちょっと弱点過多というか、難点が多かったかなとも思います。
とはいえ、最後まで書き切ることができてよかったです。
本作品ではここでお別れになりますが、他にも色々なジャンルの作品を書いています(下にリンクがあります)ので、どこかで会えたら嬉しいです。
ここまで本当に、ありがとうございました。




