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どこが



「宿デース! 広いデース! 縁側デース!」


 大はしゃぎで部屋を行ったり来たりするエマを後目に、湊達は荷物の整理と就寝の準備を始める。


「なあ、エマ。何してんだ?」


 掛け軸の裏まで隈無く探索するエマに、中嶋は若干呆れたような顔つきで問う。


「こういう宿の掛け軸の裏には、御札か隠し扉があるハズデス!」


 偏った日本知識を持ったエマは押し入れの天井を無理やりこじ開けようとしたりと、なかなかの無茶を繰り返している。


 他の5人は、互いの枕を向け合うように、エマの分も含め布団を敷くと、早めに布団へと入った。


「にしても、お前ら男共は気が利かねぇな。美少女4人が着た浴衣に一言あってもいいんじゃあねぇの?」


 まさきはため息をついて、布団の上に正座で座る。

 浴衣を着ているが故の座り方なのだろうが、彼女がその姿勢を取っていることに誰もが違和感を感じる。


「そんな事よりUNOだUNO! 旅館に来たら先ず、UNOをしなきゃなんねぇだろうが! UNO!」


 中嶋は彼女の言葉を適当に受け流すと、高速シャッフルを見せる。良くも悪くもブレない男だ。


「うっし! 負けたヤツは罰ゲームな!」







「……ダメね。こいつもう寝てるわ。1度寝たらちょっとやそっとの事じゃあ、起きないわよ」


 午前1時を回った頃、一番最初に寝落ちしたのは湊だった。


「つーか、こいつUNOもトランプも強すぎだろ」


 ほとんど全てのゲームで1位を取り続けた湊は、必然的に待ち時間も長くなり、結果として、寝るのも1番になってしまったというわけだ。


 桜は少し呆れたようにため息を吐いて、湊の髪を梳く。その姿はどこか妖艶にも見えて、同時に儚げでもあった。


「さて、今回は桜がビリだったわけだし。罰ゲームといくか!」


 罰ゲームの内容を決める権利は一位が持つ。

 そして、今回の一位は朱里だ。


「そうですね……では、隅田くんのどこが好きなのかを教えてください」


「んなっ!?」


「プフッ」

「ほほう」

「デース」


 さすがに桜も想定外だったのか、朱里の言葉に狼狽える。執拗に湊が寝てるかを確認。もし起きていたら、公開処刑もいい所だ。


「……朱里、お前って意外と鬼だな。けど、ルールはルールだぞ、桜」


「うっ……」


「桃原さんって、同性の友達には弱いんだな。俺なんていつも泣かされてるのに」


 中嶋はひとり、別の意味でしょげていた。


「では、桃原さん、どうぞ!」


「……全部よ全部。全部好きよ」


「月並みデス」


「そうだよ、具体的にここがいいとかねえのかよ」


 エマとまさきからヤジが飛ぶ。

 全部好きだなんて、逃げでしかない、と。

 2人は桜を追い詰める。しかし──


「好きよ、全部。好きだから、全部、好きなの」


「好きだから全部好き?」


 好きだから、全部、好き。

 その言葉の意味が、彼女達にはよく分からない。

 否。意味は分かる。しかし、その言葉は一種の矛盾だ。


 好きだから、全部好きになったのか。

 全部好きだから、好きになったのか。


「卵が先かニワトリが先かなんて、そんなものないわ。そうね。湊は親子丼よ」


「……いや、全然上手いこと言えてねぇぞ? 親子丼はまあ、美味いけど」


「まさきも上手くないデスよ」


「ま、まあ、いいわ。それより早く次の勝負に行くわよ! まさきと中嶋の馴れ初めを聞くまでは私は眠れないわ!」


 こうして、夜は更けていく。




☆☆☆


 パシャパシャッ。


「ふーん。へぇー。随分と仲が良さそうね」


 僕が目を覚ましたとき、真っ先に聞こえてきたのはカメラのシャッター音と、桜の声だった。


「……おはよう」


 僕は右腕に痺れを感じながら起きようとするが、身体が異様に重い。なんだろう。


「……エマ?」


 よく見ると、僕の布団に侵入してきたエマが覆い被さるように僕の胸の上で眠っていた。

 更にさらに、腰には中嶋がしがみついている。

 なんて寝相の二人だ。


「ははっ。二人とも可愛いなあ」


 なんて言っているのも束の間。

 桜が機嫌悪そうな声を出している理由にようやく気付く。


 なんでこの子下着姿で寝てんの!?


 しかも、パンツ一丁。エマは豊かな胸を覆うことなく大胆に晒している。

 慌てて布団を被った僕は、せっかく起こした上体を再び寝かせる。


「……コレ、ドウスレバイイノ?」



「いいから出て行きなさいっ!」


 怒鳴る桜に追い出された僕と中嶋。

 中嶋は何がなんだかよく分からない様子で目を擦っていて、僕は本日をもって巨乳派になった。

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