しすたーは強気
「おはよぉ、湊」
ボサボサの髪の毛をかき混ぜるように掻き、フラフラと階段を降りてきた姉。
上半身に薄いシャツ、下半身は下着姿。
今朝僕が服を脱がせたまんまの格好だ。
「姉貴! お客さん来てるんだから、ちゃんとしてよ」
「あ? あー。椛ちゃんか。椛ちゃんは妹みたいなもんだもんね〜」
まだ酔いが覚めていないのか、フラフラと歩く姉はそのまま台所で冷たい麦茶を淹れる。
「なんか、ごめんね」
「いえ、お姉さんは私の憧れです」
まあ、だらしないところを除けば確かにこの人はすごいのだ。
僕と違って何でも持ってる天才なのだ。
しかも、努力も怠らない。
ストレスが溜まると僕が一番被害を受ける点を除けば、確かに尊敬に価する人だ。
「あー、うー」
唸る姉は何を言うでもなく台所に両手をついて俯いている。
小学生の前で大人の悪い部分を隠そうともしない勇者た。いつものイケメンムーブはどうした!
「椛ちゃん、一緒にお風呂入らない?」
「私は構いませんが、お着替えが──」
「うん。いいよいいよ、湊の貸すから」
いや、僕のはサイズが合わないから!
シャツ1枚でワンピースになっちゃうよ!
僕と椛では身長差が30cm近くあるのだ。
というか、家隣なんだし、自分の取ってきなよ。
「姉貴珍しいね。風呂嫌いなのに」
「あー、ほら、椛の成長も見てみたいしさ。それに……」
「それに?」
「さっきゲーしちゃったから」
ゲーって……寝ゲロったの!?
「僕の布団は無事なの!?」
「あー、人形とシーツに付いたけど枕は無事だと……思う」
「先に言え!!!」
僕は自分でもビックリするくらい声を荒らげると、濡れた雑巾を片手にダッシュで階段を駆け上っていく。
「くさっ」
扉を開けると酒の臭いが漂う。
窓くらい開けてくれよ……。
『 アアア、じぬぅ……』
ベッドの上で、さくらが低く呻き声をあげている。
酒で清められたのだろうか。
苦しそうだ。
「大丈夫? さーちゃん」
『聖水が……聖水がぁ』
あー。
よく見るとさくらの服も汚れている。
姉貴……勘弁してくれ。
僕はさくらの服を雑巾で擦り、シーツをひっぺがす。階段を駆け下りて洗面所に向かう。
「……いやん」
「イヤンじゃないっ!」
風呂に入るため素っ裸になった姉と遭遇するが、背を向けてシーツを手洗いする。
姉も、いやん、なんて言ってはいるけれど、その顔は青いし、色気も何もない。
とは、言いつつ、椛はもう浴室に入っていたという事実に安堵のため息を漏らした。
「さーちゃんって、その服脱げるの?」
『うーん。無理かなあ。服も合わせて体の一部って感じだし』
そっか。
「じゃあシーツと一緒に洗濯機で回そうか?」
『そんな拷問ある!?』
さくらは目を釣りあげてぷりぷりと怒る。
「ごめん、半分冗談だよ」
『残った半分は本気だったってことだよね!?』
何故わかった!?
もしかしてサイコパスなのか?
『それを言うならエスパーでしょ? さくらの精神は普通だよ』
「そうとも言うね」
なんて受け答えをして、僕はベッドのシーツを洗濯機に放り込む。
浴室からは楽しそうな椛の声が聞こえてくるけれど、さすがは僕の姉と言うべきか。
バスタオルも着替えも用意していない。
思わずため息を零す。
『ギューしてあげようか?』
「さーちゃんは優しいなあ」
ただ、甘えてばかりいるわけにもいかない。
僕はどうにか誘惑に耐えて、二人が風呂から出たときのための準備を始めた。
そして、30分後。
姉と椛が風呂から上がる。
時計は午後3時を指しており、換気のために開けた窓からは熱風とも言える風が入り込んでくる。
「いやあ、クーラーガンガンで最高だわ」
アルコールが抜けたのか、さっぱりした様子の姉と、僕のシャツを着た椛が麦茶を飲みながら笑っている。
楽しそうでいいですね。羨ましいです。
というか、今更だけど、僕のシャツより姉のシャツの方がサイズは合っているのではなかろうか。
多分──いや、絶対そうだ。
僕には姉貴が考えてることがちっとも分からない。
「湊〜、お前らぎちゃんとキスしたんだって?」
「んめゅええの」
待って!
なんで知ってんの!
「桜ちゃんは私に任せておくれよ。私的にはらぎちゃんの方がお似合いだと思うけど」
姉貴は本当に桜が好きなんだなあ。
「……実際はもっと混み入ってるんだと思いますけど」
混み入ってる……?
どういうことだろう。
椛はそんな僕の疑問を興味無さそうに切り捨てて、ソファに座る。
「さあ、ゲームの続きをしましょう。次こそ負けませんよ!」
負けず嫌いな性格は三姉妹みんな同じらしい。
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