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夏が来ます。



 その後、2階でイチャイチャしていた姉妹も合わせて4人でスケブラをして僕は帰宅した。

 その間、ほとんど桜や柊との会話はなく、しっかり者の椛に関しては、そんな僕達の様子を怪しんでいるようだった。

 

 僕は自室にあるエアコンを稼働させると、ベッドの上に腰かける。


「正直、姉貴と一緒はきついよなぁ」


 シングルベッドに人間二人はきつい季節だ。

 久しぶりの日本での生活を楽しんでいる姉が、毎日家に帰ってくる訳ではないというのが、唯一の救いだ。


『さくらはひんやりしてるでしょ?』


「してるしてる」


 夏には1家に1台さくらだなぁ。


『ねぇ、今日の柊かわいくなかった?』


「その話、蒸し返す……?」


 体温が一気に上がるのがわかった。顔が熱い。


 なんてことのないように振る舞いはしたし、余裕ぶっては見せたけれど、あれは……もう、なんだ。


 姉と一緒にするわけではないれど、少し前までは僕と柊の距離はとても近しいものだった。

 小さい頃からずっと僕と桜の後ろをついてきた彼女は、僕にとっても実の妹のような存在だったし、再開した後もそれは変わらなかった。


 彼氏ができたと聞いた時に、その認識を改めたはずではあったが、それでも頭で思うのとは違う。

 本当の意味で、柊がひとりの女性であると気付いたのは紛れもなく先程の口付けだろう。


 紛れもなく、僕の感情がそう認識した。


 少し前までなら、唇とは言わずとも、頬に口付けをするくらいならば、容易にできただろう。

 しかし、今となってはそれすらにも僕は恥じらいを感じるはずだ。


「……もしかして、らぎちゃんは宇宙一可愛いのでは?」


『湊くん、異世界ハーレムものの奴隷ヒロイン並のチョロさじゃない?』


「う、うるさいわい」


 でも、明日の朝がちょっと気まずい。

 登校時、桜はいるだろうか。

 

 ……いや、生徒会はもうすぐに引き継ぎの時期らしいし、新生徒会長へ向けて、色々と忙しいって言ってた気がする。


『さくらが塗り替えてあげようか?』


「やめて。僕を異世界ハーレムものの主人公みたいにしないで」


 自慢じゃないけれど、僕が異世界へと旅立ったら、まず一番最初にエンカウントする盗賊に襲われて死ぬ。

 ヒロイン登場前に死ぬ。


「僕は……そうだな、できればあれになりたい。バトルロワイヤルものの、序盤に死んだと見せかけて、実は黒幕で、ラスボスとして出て来る奴」


『再登場なんて欲張りしなければ、主人公に殺されることもなく生き長らえただろうに……ってみんなに蔑まれるアレ?』


 え、みんなあの手のキャラのこと蔑んでるの?

 僕は結構好きなんだけどな。


「僕は悪役になりたいなぁ」


『もう1回柊にちゅーする大義名分が欲しいの?』


「違うよ!」


 悪い事をしたいんじゃない。

 それに、悪役だから何をしても許されるというのも、また別だろう。


『でも、湊くんは自由を与えられたら、与えられたで、何もしなくなりそう』


「自由からの逃走ってやつだっけ? あながち間違っちゃあ、いないのかも」


 人は生まれながらに、何かに縛られる事を望むだなんて事を否定したがる人はたくさんいるけれど、でも自由に生きて、自分で何もかもを考えなきゃいけないってのは存外大変だと思う。

 何かに縛られて、何かに従って生きることの方が楽だ。


「自由に生きるというよりは、楽に生きたいのかもね」


『そっかぁ。じゃあ、やっぱり悪役は無理そうだね。主人公の前に現れる時こそ、偉大な存在であるかに思えるけど、陰での苦労は正義以上だよ』


 それは考えたことなかったなぁ。

 人が見てないときの努力……か。


 そんなことを思い、今日の柊の化粧を想う。


「……くそっ」


『桜も大変だなぁ。こんな手強いライバルが現れちゃって』


 あの不思議ちゃんが僕の事をどう思っているのかなんて、実のところ、さっぱり分からないけれど、それでも今日一日で、僕から彼女に対する印象は大きく変わった。


「うわぁ、明日どんな顔して会えばいいんだ!」


『乙女なの!?』


 謝るべきだろうか。

 それとも、何事もなかったかのように振る舞うべきだうか。


「いや、ここは向こうの出方を伺おう!」


 そうだ!それがいい!

 我ながら骨なしチキンの思考だから仕方がない。

 一晩経てば少しは気持ちも落ち着くはずた。


 でも、それでも──

 今日は1日、柊のことが頭から離れそうにない。

物語的には今真夏なんです。

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