テストバトル
「なんだよなんだよ、なんだってんだよ! 今日も楽しく幼馴染とリア充しやがって! 罰金1000円な!」
今日も今日とて、僕はお騒がせ罰金ボーイにトイレへと拉致される。
僕と桜との仲は順調。今日だって、桜と柊と僕の3人で登校してきた。
そろそろ夏になりつつあるこの時期だ。
手汗が気になってくる頃だけれど、この前同様3人で手を繋いで登校だ。
「そんな事より中嶋。お前、テスト大丈夫だったのか?」
本日はテスト最終日。
先程の二教科を終え、無事テスト終了だ。
「それなりって感じだな。今日も俺は冴えてるぜ」
ほんとかよ。こいつ、すげぇ馬鹿なんだよなぁ。
「恒例のテスト勝負するか?」
「お? やるか? いいぞ? 俺は負けねぇから」
「じゃあ、僕のテストの合計点と、中嶋のテストの合計点の2倍でどうだ?」
「おいおい。誰にものを言ってるんだ? 俺は負ける戦いはしねぇ主義なんだ」
かっこつけてるとこ悪いけど、言ってることはめちゃくちゃだせぇからな?
「じゃあ、僕の一番高い点数の教科と、中嶋の一番高い教科二種の合計点数でどうだ?」
「おいおい。誰にものを──」
「お前、良くそんなんで勝負に応じたな!?」
今の勝負に乗らないということは、中嶋が50点以上獲れたといえるテストが二種類未満である事を示す。
「保健体育の分野が違けりゃワンチャン勝負になったんだろうけどなー。心肺蘇生とか、意味わかんねぇよ」
「ちゃんと勉強しとけっつーの。ある意味一番大事な科目だろ?」
微分ができなくて死んだ人は見たことがないけれど、心肺蘇生法で命は救えるのだ。
「どうせ湊は幼馴染とイチャイチャしながら勉強したんだろ? 心肺蘇生の実技練習〜とか言って盛り上がったりな」
「…………。」
「あ? おい、湊! 何とか言えよ!」
「…………。」
「おい……嘘だろ? まさか、したのか? 返事をしろ!」
「空って青いよなぁ」
「おい!!!」
いや、実際はそんな事していない。匂わせただけ。
ただ、さくらも柊も中嶋と同じセリフを吐いていたので思春期だなぁ、と思っただけだ。
「テスト勝負の内容は、いつも通りの現代文、古典、コミュ英Ⅱに英表Ⅱ、数Ⅲと世界史に化学、保健体育の8教科。これの合計点が僕の3分の1を上回れば中嶋の勝ちだ!」
本当は他にもテストは受けたのだけれど、他は選択科目なので、いつも戦うのはこの教科達だ。
「乗ったぜ! ボコボコにしてやんよ!」
──それから一週間後。
「あっぶねぇ……」
ギリ……ギリギリ勝った。
僕のテスト結果は8教科合計765点。1教科平均95.6点。
一方の中嶋竜也は8教科合計252点。1教科平均31.5点。
「くっそー、あと4点高けりゃ俺の勝ちだったのに!」
「どうにか連敗は防いだ感じかな」
この3倍ルールは僕達の点数差では結構ちょうどいい感じになっており、勝ったり負けたりとバランスが良かったりする。
「ナックのハンバーガー奢りな? あとアップルパイも」
「わーってるよ。……ったく! なんで、将来は権力者になりたい、とかいう馬鹿っぽい夢掲げてるくせに勉強できるんだよ」
「親の遺伝かな」
「俺の親をバカだと思ってんだろ! 否定出来ねぇけど!」
「そういうことじゃねぇよ。それに、お前見てると、優しい人なんだろうなって、何となく分かるしな」
僕の親だって、そんなに勉強ができるとかは聞いてない。
ただ、『こつこつ努力ができる』って才能は間違いなく授かったと思う。
「テストの結果、今回も湊が1位か?」
「そうだな。7回目の金メダルだ」
「ちっ。つまんねぇの。桃原さんもテストで一位だったらモノホンのおとぎ話ガールなのによ! 邪魔しやがって」
生徒会に入っていて、スポーツも万能。見た目も超美人。
そこに学年一頭が良いなんてものが追加されたら、本当の本当に怪物だ。
「桃原さんに湊がテスト一位ってバラしていいか?」
「やめろ。殺される」
我が校は自分以外のテスト順位が伏せられているので、言わなきゃバレない。
去年からずーっと、学年一テストの合計点が高い人間は謎のままなのだ。
「そんな学年有り得ねぇよな。普通だったら自慢しまくるだろ?」
まぁ、僕も嬉しくはあるけれど、別に誇らしくはない。
「強そうだろ? 力を秘めてる奴って」
強さとは──
僕が出した結論は無価値な人間である事だ。
優れも劣りもしない無難で無害。強さを必要としない人間が一番強い。そう思った。
だから、僕はこの事を他の誰にも話さない。
綺麗に枠に収まりさえすれば、杭は打たれない。
これが僕の処世術だ。
「まー、よくわかんねぇけど。とりあえず秘密にはしとくってばよ」
「ありがとう。助かるよ」
「おうっ! その代わり、ナックで桃原さんの事教えろよ? 靴のサイズとかも知ってんだろ? さっさと行こーぜ」
こいつやっぱ怖いなぁ。
しかし、友情虚しく僕は桜にテストの順位がバレることとなる。
まさか個室にうんちしながら話を聞いてる奴がいたなんて。




