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百合エルフは科学と魔法で無双する  作者: 浦和マサツナ
第4章 王位を簒奪する者
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アネモネ暗殺指令

「勇者アイドル百合ハーレム ~アイドルな勇者が百合ハーレム率いて魔王討伐~」の連載を再開いたしました。こちらもよろしくお願いいたします。


https://book1.adouzi.eu.org/n2380en/

 首都から馬車で約6日間かかる距離にあるここはグランツ王国最北端のノルト市。


『機関』が提供しているドローンを使えば1日弱で飛んでいけるが、今回は馬車を使う事となったユーリカ一行。第一王妃がアネモネ……つまりユーリカを暗殺する為に派遣した集団を引きつけるのが目的である。


 集団はノルト市郊外でユーリカ達を襲撃するであろうと予測がされている。集団は現在数人単位で小隊を組み、あちらこちらに散らばって動いている。だが彼らの位置は人工衛星と多数のドローンによって、リアルタイムで把握されていた。


 こちらから打って出る事も可能だが、第一王妃が『ノルト市を出てから襲う事』と命令している以上、ノルト市で敢えて襲撃を受ける必要があったのだ。しかし、ユーリカ一行は全員が『機関』に所属している手練ばかり。例えどのような暗殺集団が来ようとも、その敵ではない。一行は一応の警戒はしつつも、気楽にノルト市へと北上していた。




 「ずっと待機状態とかしんどすぎる!!」

 「普通の馬車で6日間も揺られるよりはマシでしょ……あ、ユーリカの方へ行ったよ」

 「あいよっと」


 6日間という長い待機時間。街で宿に入る時以外、馬車から降りる事が許可されていなかったユーリカは文句を言いつつも、車内でフレデリカ達と携帯ゲームの連携プレイを楽しんでいた。『機関』やセーヴェル公国内で人気のある作品だ。


 護衛騎士役を務めているのはバルタザール、ダーグを始めとした計6人。しかしずっと馬上にいるのは疲れるという事で、交代で馬車に乗り込み休憩をしている。


 ユーリカ達が乗っているこの馬車は、実際のところは馬要らず。つまりは『車』なのであった。木材で外部を加工しているが、有事にはパージさせる事で、中身……戦闘指揮車が現れる仕組みになっている。


 現状、車輪は木材を装着したままなので地面の凹凸をダイレクトに拾ってしまうが、それでもサスペンション付きだ。普通の馬車とは比べ物にならないくらい快適なのである。



 「よっしゃ、レア素材げーっと!」


 ゲームの中で倒した魔物から目当ての素材を剥ぎ取り、長い耳をピコピコとさせてよろこぶユーリカ。そこにピコーンと、着信音が脳内に響いた。外で護衛をしているバルタザールからのナノマシン通信だ。ユーリカ一行全員が会話参加者となっている。


<みんな、そろそろノルト市だ。ユーリカはお嬢様モードの準備よろしく。あとのみんなはいつも通りの警備フォーメーションで。連中、仕掛けてくるのは予想通り明日ノルト市を出てからになるようだ>


 今回、ユーリカ一行の護衛リーダー役を務めるのはバルタザールだ。全てが予想通りに進んでいる。誰も特に疑問を呈せず、 <<<了解>>> とだけ応答した。



 ノルト市に到着し、『アネモネお嬢様』になったユーリカを、メイドになったフレデリカが宿へと案内した。周辺はバルタザールやダーグが警護をしているが、ユーリカも念の為、精霊魔法で周辺を探査し続けている。


<いるわいるわ、怪しいのが沢山だね>


 うんざりしそうになる表情筋を押さえつけ、ユーリカは一行全員に通信を飛ばした。


<今回は物量作戦だと分かっていたからな……特に強そうなのはいないな……>


 残念そうに呟くのはダーグ。


<質で言えば、落石作戦の時の連中の方がすごかったねぇ>


 あの時は広域攻撃魔法を使わざるを得なかった時点で、自分の負けだと、ユーリカは思っていた。ユーリカに負け戦の気分を味合わせたあの連中は、確かにツワモノ揃いであったと言えよう。


 その後、連中は国王直々の命で王宮の牢に閉じ込められている。明らかに暗殺目的で第二王女に近づいたのだ。野盗行為で捕まるよりも、遥かに苛烈な尋問を受けている。例の土魔術使いには『機関』の者が接触したが、転生者では無かったとの報告が上がってきていたので、放置してある。


 どうせ連中は口を割らない。強引に割らせる事も出来たが、それよりも今回の質の悪い、量だけの集団をひっ捕らえて利用した方がスムーズに行く……という判断の元、落石暗殺集団に関する処置は、全て国王に任せる事にする『機関』であった。



 翌日、予定通りノルト市から離れるユーリカ一行。それに付いて動こうとする多くの小集団。


(あからさますぎるよ!!)


 何故か憤慨するユーリカ。分かっていた事だが、暗殺集団と言うには質が悪すぎる。人工衛星やドローンが無くても動きがバレバレなのだ。事前報告にあった通り、本当に質より量を取ったのだなと実感するユーリカ。


(やっぱり所詮田舎者だって思っているんだろうな)


 なんの為に多方面からセーヴェル公国の実力を見せつけたのか。それが分からない第一王妃とその手下の貴族達は、グランツ王国にとっても、やはり害悪であった。第一王子はまっとうな人間だったが、彼が王太子になった暁には、第一王妃一派がでしゃばってくる事は目に見えている。早く作戦を成功させて、第一王妃一派を政治から遠ざけるのが一番の解決方法だとユーリカは感じていた。


 馬車に乗り込むなり、早速戦闘服に着替るユーリカ。フードを被り、マスクを着けた。戦闘する気まんまんである。


 「別にユーリカが出なくても、バルタザール達だけでOKでしょ?」


 そんなユーリカを呆れたように諭すフレデリカ。


 「最近全力で魔法ブッパしていないからね。フラストレーションが溜まっているの!」


 不本意ながら広域攻撃魔法を使わざるを得なかった前回とは違い、今回周りにいるのは全員『機関』の仲間だ。そして敵は、どうせ攻撃されても何が起こったのか分からないまま倒れるだけである。攻撃したのがユーリカ個人であるとさえ分からなければ良い。その為のマスクとフードなのだから。時々全力で魔法をぶっ放ししないとむず痒くなるユーリカにとっては、これまたとないストレス発散のチャンスなのであった。


 「しょうがないなぁユーリカは。じゃあ車の上に乗る?」

 「乗る!」


 よっこらしょっと、馬車の上に飛び乗るユーリカを見て、バルタザールやダーグ達は彼女の意図を悟り、仕方ないと首を振った。


<姫、ほどほどにな>

<ユーリカ、ほどほどにな>

<ほどほどでお願いね、ユーリカ>


<うわ、信用ないね私>



 ピン、と、警告音が鳴った。


<<<接敵用意。矢が飛んできます>>>


 ヒュンヒュンヒュンと多数の矢が空気を切り裂きながら飛来してきた。


 通常の護衛集団であれば、ここで「て、敵襲だあー!」と慌てて声をあげる所だが、敵の来襲をとっくに分かっていた『機関』の護衛達は、無言で対処を始めた。


 風魔術で矢を横薙ぎに払い、多数のドローンを散開させる。散らばった射手達をステルスモードのドローンが見つけては電撃で攻撃していく。


 暗殺集団は急に吹き飛ばされた矢や、何故か後続の矢が来ない事に疑問を持ちつつも、ユーリカ一行を囲むように動いていた。


 一応の礼儀として、バルタザールが誰何する。


 「何者か!」


 「セーヴェル公国のお嬢様を誘拐しに来たんだよぉ!」


 集団のリーダー格らしき男が下卑た笑みを浮かべている。獲物を前にして目的をペラペラ喋って舌なめずり。


<誘拐? 暗殺ではなく?>

<大方、美人だと噂のアネモネお嬢様やフレデリカは、殺す前に誘拐して楽しんでからでも遅くない……とか考えているんじゃないかな>

<なるほど>

<え、私、美人?>

<え、ユーリカだけじゃなくて私も噂になっちゃってたの?でっへへー>


 仲間たちと通信しつつ、ああ、やっぱり落石集団は第一王妃一派の虎の子だったんだなぁと改めて理解するユーリカ。


<しっかしまぁ見事に小物ばっかりだね。面倒だし、広域攻撃魔法使うよ?>


 念の為、全員に確認を取るユーリカ。


 頭痛でもあるのか、頭を抑えながらバルタザールが応答した。


<……許可する>


<いやっほおおお!攻撃魔法解禁だぁああ!>


 思わずぺろりと唇を舐めるユーリカ。


(おっと、舌なめずりしてしまった。私もまだまだだね……)


 自省しながら、馬車の上で立ち上がるユーリカ。


 火や風、水や土など、全ての属性魔法を得意とするユーリカだが、対人では雷撃系を愛用していた。大した傷を負わせずに敵を生き捕らえる事が出来るからだ。


<精霊魔法・雷っっ!!!>


 これまでの鬱憤を晴らすかのように、タップリの魔力を込め、心の中で魔法名を叫ぶユーリカ。何もなかった空中から、無数のカミナリが四方八方へと降り注いだ。


 目くらまし効果もある<雷雲>とは違い、カミナリを直撃させる魔法だ。鎮圧速度は速いが、直撃させる分、威力過多になりやすい。鎮圧用途として使いこなせるのは微細な魔力制御を得意とするユーリカくらいのものであった。


 「「「「「ぎゃあああああああ!!!」」」」


 前後左右から一行へ突進して来ようとしていた暗殺集団を、一瞬で壊滅させるのであった。



 捕まえた者、合計53人。


 リーダー格に水をひっかけ叩き起こし、ちょっと脅しをかけると、あっという間に口を割った。今回はケルナー男爵のみならず、数人の貴族達によって派遣された集団である事が分かった。


 否、ユーリカ達は事前に分かっていたのだが、再確認を兼ねて尋問したに過ぎない。


 あとは『機関』の工作員が偽造した『第一王妃が手下の貴族達にアネモネを暗殺するように仕掛けた命令文書』を持って、グランツ王国へ抗議しにいくだけだ。


 この集団のリーダーが、第一王妃の命令文書を持って居た事にし、責任を全て第一王妃へと押し付ける寸法だ。同時に、手下の貴族共も一網打尽に出来る……それは情け容赦のない作戦であった。



 「これで作戦も一段落かー!」


 ふいーと、伸びをするユーリカ。



 ピコーンと、着信音が脳内で鳴った。本部からユーリカ一行全員への通信である。


<こちら本部。 第一王妃に新たな動きがあった。クリスティアーネ第二王女を誘拐するつもりだ。わざと誘拐させてから助けた方が作戦的に効率が良いが……>


 本部が言い終わるのを待たずに、ユーリカは叫んだ。


 「そんな怖い思い、アーネにさせられる訳ないでしょ!守ってあげるって誓ったんだから! 私は戻るよ! おいで!マーシュ!」


 ユーリカは自分のドローンであるマーシュに飛び乗り、グランツ王国首都へと向かっていってしまう。


 「……まぁ、あの娘らしいっちゃあらしいわね」


 フレデリカを筆頭に、微笑むダーグ達。バルタザールは苦笑している。


 「しょうがない。 僕たちもここで二手に別れよう。 ダーグさん、フレデリカと僕はユーリカと共に首都へ。他のみんなは捕まえた連中を引き連れて来て欲しい。……ああ、リーダーだけは先に僕たちが連れて行こう」

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