表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合エルフは科学と魔法で無双する  作者: 浦和マサツナ
第2章 グランツ王国の転生王女
11/18

逆襲

 馬車が止まるのを待たずに、「よっと」と、まるで軽業師のように馬車の上に飛び乗るユーリカ。アーネ一行の中ではここが一番見晴らしが良いので、こちらに陣取る事にしたのである。


 その身軽な動きに感嘆する近衛騎士団。


「えへへっ、これくらいなんって事はないって!」


 褒められるとつい照れてしまうユーリカであった。



 さて。人工衛星とドローンからリアルタイムで送られてくる情報によれば、アーネ一行はあと少しで暗殺集団に接触する。


「あと数分で接敵するよ!みんな注意してね!」


 近衛騎士団に声をかけ、ユーリカはフードとマスクを被った。自分の面子が暗殺集団に割れるのは避けたい。全員生きたまま捉えるつもりだが、今後逃げられてしまう可能性もあるのだから。



 やがて、10人ほどの剣呑な雰囲気を纏わせた集団がアーネ一行の前に現れ、後ろからも10人からなる集団が追走してきた。前後を挟み撃ちにされた形である。


「何者か!」


 馬上から誰何するキール副団長。しかしそれを無視して、集団のリーダーは、一言だけ発した。


「やれ」


 一瞬にして、アーネ一行の前後左右に土壁がメキメキと生成されていく。



「「「土魔術かッ!」」」


 驚く近衛騎士団とユーリカ。


 近衛騎士団は純粋に土魔術に驚いているが、ユーリカは別の視点から舌打ちをせざるを得なかった。


(魔術使いはいないはずじゃなかったの!?)


 土魔術を発動させたのは暗殺集団内にいる元冒険者である。しかし事前に得ていた情報によれば、彼には魔術の能力は無かったはずだ。よほどうまく自分の能力を隠していたのか。あるいは冒険者を辞めた後で魔術能力が開花したのか。


(しかも魔術発動ストックが出来るとか! 結構良い腕してるじゃない!)


 このような規模の大きい魔術の発動には、ユーリカや転移生者などのごく一部の例外を除けば、どの魔術使いも長い詠唱を必要としている。


 事前に詠唱を済ませておき、必要なタイミングで発動させる『ストック』のスキルは便利だが、習得にはかなりの才能と努力を必要とする。ストックを使える魔術使いは一流と言えるのだ。


 そこまでの魔術的才能が、冒険者を辞めた後で発現したとは考え辛い。ずっと上手く隠し通していたか……あるいは、あまり考えたくはないが、冒険者を辞めた後に、前世の記憶を取り戻した転生者である可能性もある。捕まえた後で尋問せねば。


 事実はどうであれ、このような魔術人材に加え、獲物を前にして舌なめずりを一切せず、即座に行動に移せるリーダーを擁している暗殺集団。第一王妃一派が派遣するだけはある。



 しかし感心している場合ではない。


 土壁で前後左右を挟まれたこの状況、相手が取ってくる次の手は……!


「みんな! 頭上に注意して!」


 ユーリカは騎士団に注意を促すべく、声をあげた。


 敵集団を土魔術で生成させた土壁で囲い、弓矢の曲射攻撃で袋叩きにするのは常套手段といえる。だがユーリカは、相手は弓矢ではなく、別の攻撃をしかけて来ると睨んでいた。


 視線をあげると……案の定、大量の岩石が山の上から転がり落ちて来ているのが見える。



「「「うわあああああ!!! 落石だぁあああ!!」」」


 一瞬でパニックに陥る近衛騎士団。


(やっぱり落石を装った暗殺ときたか! 本当に徹底しているね!)


 ユーリカは土魔術が発動されたタイミングで、この可能性を読んでいたのだ。暗殺集団の仲間達が街道の前後で『この先で落石が発生した』と商人や旅人を足止めさせていたのは、この為の布石でもあったのである。


 あくまでも落石による事故死にみせかける事。それが今回暗殺集団が取った方法である。


 野盗の襲撃や毒殺なんかよりも、ずっと自然で、疑われにくい。ここまで徹底した行動が出来るとは……優秀なアーネをして、これまで第一王妃の尻尾を掴めなかったと言わせるのも頷ける。



 ユーリカは早速、落石への対抗策を講じた。


 人工衛星やドローンからの情報によれば、崖の上には人影は見当たらない。であれば、この落石を引き起こしたのは、さきほど土壁を発動させた魔術使いの仕業であると断定して良い。


「大丈夫! 防ぐから落ち着いて!」


 ユーリカは騎士団を安心させるように再び声を張り上げ……魔法を発動させた。


<魔力構成分解>


 落ちてくる岩石は魔力で構成されている。それを分解させる魔法をぶち当てた。魔力により塊となっていた岩石は、あっけなく元の砂や土へと戻っていく。それらをユーリカは同時に発動させた風魔法で遠くへと吹き飛ばした。



「「「なんだと!?」」」


 落石が一瞬で消し去られていくのを見て、土壁の外側から暗殺集団が驚愕の声を挙げた。


「チッ!しかたない! 弓矢!構え!」


 しかしリーダーは即座に別の攻撃へと移る。


 落石による事故死を装った暗殺が失敗した以上、野盗による襲撃に見せかけた予備案へと切り替えたのだ。その判断の早さに、ユーリカは舌を巻く。


(しょうがない、ここは広範囲魔法で一撃でかたをつける!)


 幸いにして、アーネ一行は全員、馬車を中心として固まっている。広範囲魔法を発動させても、彼らに被害が及ぶ事は無い。


 ユーリカはあまり人前で広範囲魔法を使いたくないのだが……躊躇っていられるような状況ではなくなってきた。暗殺集団が弓矢を放つのを待たずに、一息で魔法を構築させる。


<雷雲>


 帯電した黒い雲が一瞬で前後に展開していた暗殺集団の間に満ち、放電を開始した。


「「「な、なんだこれは………っっぎゃああああああ!!!」」」


 青白い閃光が轟音上げ、暗殺集団を飲み込んでいく。


 雷撃が収まったのを確認し、土壁をユーリカを<分解>すると……一行の前後には、焦げて気絶している20人の暗殺集団が転がっていた。


 弓矢が飛んで来るであろうと盾を構えていた近衛騎士団達は、あっけなく戦闘を終了させてしまったユーリカを、ただただ呆けて見上げるだけであった。



 ユーリカは念の為、再び人工衛星とドローンに周辺をスキャンさせ、同時に精霊魔法でも近辺を走査した。周りに他に人はいない。商人や旅人達を足止めしている暗殺集団の残りの10人を引っ捕らえれば、今回の襲撃は一段落したと観ていいと判断した。首都から派遣されてきた支援機に、その10人の追跡を要請した後、努めて明るい声を出すユーリカ。


「これで大丈夫です! はやくこいつらを縛り上げちゃいましょう!」


 しかし恐ろしい怪物でも観てしまったかのように、騎士団のメンバーは青ざめた表情を浮かべていた。 全員無傷で勝利したというのに、喜びもせず無言で暗殺集団を縛っていく。


(……これだから、あまり高度な魔法は人前で使いたくないんだよなぁ……)


 仕方が無かったとは言え、心の中で愚痴を零さずにはいられないユーリカ。しかしそんな沈んだ気持ちも、馬車から飛び出してきたアーネの笑顔を見て霧散した。


「ユーリカ! 本当にありがとう!」


 ひしっとユーリカを抱きしめるアーネ。おおおお!! たわわなお胸が顔に当たる!!苦しいけれど気持ちいいいよほおおお!!


 プルプルと胸の中で赤くなり震えるユーリカを見たアーネは、慌ててユーリカを開放した。


「ご、ごめんね! 思わず抱きしめちゃった……」


「いえいえ! こちらこそありがとう、アーネ!」


 色々な意味を込めて、感謝の印にサムズアップする百合エルフ。


「ん?」


 首を傾げながらも、笑顔でサムズアップを返すアーネ。可愛いなぁ、守ってあげなきゃ……と思うユーリカであった。




「さ、こいつがリーダーだ。尋問するとしましょうか」


 電撃で気絶している暗殺集団のリーダーと、この集団とケルナー男爵を繋げていた男『目標A』に、水魔法をぶつけて叩き起こすユーリカ。


「げほっ!げほっ!」


 咳き込みながらも意識を取り戻したリーダーと目標Aは、無言で騎士団を睨みつける。これは手強そうだな、と感じるユーリカ。


 尋問自体は騎士団に任せ、ユーリカは傍でリーダーと目標Aの心拍数や脳波をモニタリングする事にした。


 しかし……いやはや、敵ながらあっぱれである。殴打されながらも、彼らの心拍数や脳波には僅かな変化しか現れない。よほど訓練されているようだ。ここまでの人材を揃えられるとは……第一王妃一派、一筋縄ではいかないと改めて感じる。


 これは長期戦になりそうだなぁ……と、思わずため息が溢れつつも、同時に、アーネともまた暫くは一緒にいられる!という喜びも感じてしまうユーリカであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ