第一話 1位になって告白する!
〜登場キャラ紹介〜
・ガッツリン:多部 峰大
主人公。高2。取柄はゲームの腕で負けず嫌い。
・ローカロリー:相須 萌奈香
峰大と同じクラス。ハイスペックな天然女子。
・多部 翔
峰大の双子の兄。学区1位で全国でも5本の指。
世界は変わった。
もはや料理をする人はいない。
三食すべてAIロボットが作る栄養ゼリーで済ませるのが当たり前になった時代。
そんな中、政府主導のVRMMOが社会の中心に君臨した。
食べることが成長に直結するゲーム。
この風変わりなVRMMOは、第一次産業の成り手が激減し、それを憂いた政府からの食育として始まった。
そして、その成績が学業評価の大部分を占めるようになり、さらには将来の進学・就職・結婚にまで影響する。
もはやイートインワールドでの成績が人生を決める時代。
そんな世界で俺──「多部 峰大」は、ごく普通の男子高校生だ。
……と言いたいところだけど。
イートインワールドの学区ランキング7位!
これだけは誇れる。
だが、これではまだ足りない。
今朝の通学路で偶然耳にした萌奈香の好きな人。
双子の兄、多部 翔。
学区1位に翔が居座っている。
翔を王座から引きずり下ろさなければ、スタートラインにだって立てやしない。
俺は萌奈香に告白をする。
二人がうまくいくまでが期限であり、それほど時間の余裕はない。今すぐにでも行動に移すべきだ。
そうしてやる気を漲らせ放課後まで過ごした俺は、帰宅するなり栄養ゼリーを摂って出発の準備をする。
無味無臭の割に、喉越しの気持ち悪さの主張だけは強いゼリーを飲み干す。
「よし、栄養補給完了!」
パソコンの電源を入れ、VRヘッドマウントディスプレイを装着する。
意識が吸い込まれていき、仮想世界への扉が開く。
視界が真っ暗になったかと思うと、一瞬のラグの後に光が差し込み、目の前には俺のキャラクター【ガッツリン】が立っていた。
◇◆◇◆◇イートインワールド。
所属ギルドのだだっ広いロビーフロア。
ログインを果たした俺は、その一角の交流スペースにあるカウンターチェアーへと腰を下ろした。
「さて、新しい狩り場のチェックを……」
1位を目指すために、まずは強化。
良い食材を探すべく、データ検索の操作にもリズムが乗る。料理の脳内イメージが踊るたび、ランキングが上昇していく錯覚すら感じる。
「焦んな。妄想だけじゃダメなんだ。もっと積極的に難易度あげなきゃな」
俺はギルドメンバーに連絡を取る。
『おーい、今日の狩り、行けるやついるか?』
暫く待つと、複数の反応が返ってきた。
『ローカロリー:私、行けるよ! レシピ試したいし』
『アイムマヨラー:拙者も参戦するでござる!』
『TKG:我も往こう』
『爆殺クチャラー:肉不足や。がっつり狩ろう』
チャットには見慣れたHNとアイコンが並ぶ。
「結局いつものメンバーか。ま、いいけど」
俺たちは、食材狩りのために《モグラビットの森》へ向かうことにした。
◇◆◇◆◇《モグラビットの森》エリア。
巨大なモグラ科の魔獣の群れが潜む森。
シダ科植物の緑で生い茂り、木々の高さはそれほどでも無いが、葉が多くて陽は通りにくく薄暗い。
生息するモグラビットは名前の印象と違ってゴルフカート並みの大きさがある。毛皮は高値で売れるし、肉も高級食材として扱われる魔獣だ。
「ガッツリン、左の二匹は任せたで!」
爆殺クチャラーが仕留め損ねた二匹はこちらへと殺到してくる。
俺はスタンスを開き僅かに腰を落とす。
ヨダレを撒き散らしたまま、不規則なリズムで駆け寄ってくるモグラビットを見据え、両手に装備した双剣の柄を強く握った。
双剣は腕の長さにはやや届かないも、モグラビットの爪よりはリーチが長い。心の中で「冷静に対処すれば大丈夫」と繰り返す。
一匹は地中へと潜り、一匹は凶悪な爪を構えて飛び上がる。
俺は半歩ひき、飛び上がった敵の軌道を冷静に予測し、足を踏み出しつつ左腕に力を籠める。
弧を描いた剣と、直線的な爪の一撃が交差し、金切り音と火花が舞う。
左手が痺れる感覚に一瞬目を細め、すかさずバックステップ。
「意外に早いお帰りで? もうちょいゆっくり土に浸かってろよ」
突如、地面が捲れ上がり、土の中からモグラビットが飛び出す。
爪攻撃は、さっきまで俺が居た空間を切り裂き不発に終わる。同時に間抜けな腹を無防備に晒していた。
無数の木の根が張る不安定な足場。
バックステップの着地で傾く加重にバランスを取りながら、力強く膝をバネにして反転突進を開始。
「がら空き! 一つ!」
即座に右の双剣を突き出す。
トドメが中途半端になっては逆に隙を晒すことになりかねないので、広背筋から右腕の筋肉全てを駆使して繰り出した。
刺突は直撃し、鮮血が舞う。続けざまに左腕で切り払いを行う。
硬質な甲高い音と共に、最初にやり過ごしたモグラビットの攻撃を再び弾くことに成功した。
「懺悔を! 我が盟友よ、今息吹を与えん!」
TKGから支援魔法が複数かかり、パラメータ的にはモグラビットと大きく差を付けた状態になる。余程油断しない限り、圧倒できるだろう。
支援効果が体に馴染み、全てが研ぎ澄まされていくのと併せ、違和感が無いように感覚を微調整する。
俺は調整ついでにもう一匹を仕留め、爆殺クチャラーとアイムマヨラーのところへ援護しに向かった。
「爆殺クチャラー、アイムマヨラー! 状況は?」
エンカウント時に十匹いたモグラビットも、残り三匹までその数を減らしている。
ローカロリーの詠唱も始まっていて、魔法詠唱は節ごとに詠唱ウインドウに表示され、長尺の大魔法はそれが無数に浮かんでいく。
爆殺クチャラーの爆炎が複数炸裂したのか、辺りは焼き焦げた香りと、黒く変色した木々が目立つ。
「えっらい遅かったな。もう終わるで。ローカロリー!」
ここまでの爆炎に怯えているのかモグラビットたちは一か所に集まっていて、アイムマヨラーのスキル《潜伏不可》のために地中に逃げることも叶わないようだ。
後方で詠唱を終わらせたローカロリーが爆殺クチャラーの呼びかけに静かに頷く。
その杖からは無数の魔法陣が空中に描かれ、魔力の帯がローカロリーを中心に収束していく様子が見て取れた。
彼女の眼光がモグラビットたちを捉える。
「いくよ! 《エクスプロージョン》!!」
急速に魔力が膨れ上がり赤い光を放つ。
前方へ突き出された杖が一際強い光を放った時には、熱波が森を駆け抜け、衝撃波が肌を叩く。
黒い魔導士ローブとマントが激しくはためき、他の皆も散り散りに距離を取り、木の陰に隠れて爆風をやり過ごす。爆心地から逃げるように体をしならせ続ける木々は嫌な音を叫び続けていた。
急速に上昇した気温で喉の中はカラカラだ。
魔法を目の当たりにして心臓が駆け足になる中、ようやく魔力の波動が終わりを迎え、皆と頷き合った後にそっと様子を伺う。
モグラビットたちが居た爆心地には黒煙が立ち上り、生き物は何も残っていなかった。
◇◆◇◆◇
「お疲れ!」
「今日はぎょうさん狩れたな!」
俺たちはハイタッチを交わし、戦利品を回収。ズシリとした重みに思わず頬が緩む。
それから野営地を見つけ、料理の下準備を始めた。
側に来て、少し屈み髪をかき上げるローカロリー。
「ねぇ、これでどんな料理作るの?」
俺は作業の手を止めず、毛皮を剝ぎながら答えた。
「そうだな……肉は一度下茹でしてから、バターと香草でローストしよう。ジビエ系の料理は、調理の仕方でステータスの伸びが変わるからな」
今日はモグラビットから逃げ回ったので、敏捷が大きくあがるだろう。
VRMMOでは、食事の前にどういった行動をしたかで伸びるステータスが変わる。
「私、思ったんだけど、ガッツリンってさぁ……」
───用語説明:
【モグラビットの森】
上級者への玄関口の位置づけ。一匹であれば中級パーティーでも充分に狩れるが、モグラビットの森では集団で襲ってくるため中級でもヘタをすれば全滅する。
【モグラビットの素材】
肉は現代でいうところのブランド和牛並み。毛皮はミンク相当のランク。一匹でも狩れれば充分な収入を得られる。
【ステータス】
LV、HP、MP、体重、筋力、耐久、俊敏、技量、魔力、幸運……と、なっている。
・HP:スタミナを兼ね、低いと行動できない。
・MP:スキルや魔法を使える回数に影響。
・体重:適性を逸脱すると他パラメータが減少。
・筋力:重い装備品を装備可能かに影響。
・耐久:スタン率や連続行動、スキルに影響。
・俊敏:回避率や行動回数に影響。
・技量:スキルの充填に必要な時間や威力に影響。
・魔力:魔法の威力や範囲、MP回復力に影響。
・幸運:威力や命中率、クリティカル率に影響。
※各パラメータは次以降で順次紹介。




