エピローグ
「ジゼル様、今月の売り上げです」
「うーん、どれどれ?」
商会とブランドが立ち上がって三ヶ月。下着に特化したブランドはラベル商会の傘下に加わり、大きな注目を浴びるようになった。中でも、ブラショーツは大人気で現在入荷待ち状態だ。
下級貴族の中には平民用で作ったものをとりあえず購入し、オリジナルデザインを作るために順番待ちしているご婦人もいるらしい。
「わ、すごいね! 先月の三倍って」
「先月は、男性用下着もお披露目しましたので」
「エリオット様様だわ〜」
エリオットに商会で作ったオリジナルのパジャマをプレゼントしたらいたく気に入られた。
洗い替えようにいくつか欲しいとのことで、色違いを揃えたところ、どこから聞きつけたのかご婦人や紳士たちから注文が殺到した。
ご婦人たちは旦那や恋人に、紳士たちは自分用に購入するらしい。エリオット曰くパジャマを着ると「よく眠れる」「疲れが取れる」らしいので、そのおかげだと思う。
「ジゼル、少しいいか?」
「あ、はい」
噂をすればなんとやらで、エリオットがジゼルの執務室に顔を出した。彼はジゼルの傍まで来ると、申し訳なさそうに眉を下げる。
「実は王太子殿下から、パジャマを融通して欲しいと言われた」
「え?!」
「お、王太子殿下から?!」
「今、在庫がないのだろう?」
報告にきた使用人の顔が青ざめる。ジゼルもあわあわしながら何かいい方法はないかと考えた。
「そ、それでしたら、いくつか商品を献上いたします。実は来月、新商品が出るので」
「ほう」
「パジャマと揃えて準備するので、できましたらエリオット様にお知らせいたしますわ。えっと、一週間ほどお待ちいただければと」
また、いつかのように屋敷に「やあ」と現れると困る。
ジゼルは「そうだ、それがいい。そうしよう」とうんうん頷いた。
「わたしにはくれないのか?」
「え?」
「新商品」
「も、もちろんプレゼントいたします」
エリオットが顔を近づけてくる。「近い近い」と内心叫びながらなんとか笑顔を作った。
「そうか。ならいい」
エリオットは納得したように頷いて顔を遠ざけた。そのことにホッとしてジゼルは「あ」と思い出す。
「どうかしたか?」
「大奥様にはお送りしなくてよいのかと…」
いまだ挨拶も叶っていない、エリオットの母親だ。もちろん兄家族にも会えていない。
だからといって、なにもしないのもどうかと思うがどうだろうか。
エリオットを窺いつつ、頭の中で納期の計算をしていた。
「かまわない」
「そう、ですか」
「あの人は気に入ったものしか着ないし、たぶん私たちからの贈り物など捨ててしまうだろう。それなら、他の誰かに、気に入ってくれる人に着てもらう方がいい」
ジゼルもエリオットの言う通りだと思う。だけど、建前上やはり形だけでも送るべきではないだろうか。
「だいいち結婚式にも出ない、姑を気遣う必要はない。いくら元王女で前アクスバン侯爵夫人でも、それは過去の話だ」
そもそも結婚式を先延ばしにさせるために、元婚約者を唆して問題を起こした人だ。
エリオットは眉根を寄せながら深々と溜息を吐いた。
一連の騒動について、手紙で非難すると本人からはまったく悪びれもない返事がきた。
曰く、相談されたので乗っただけ。その助言を真に受けて本当に家出するとは思わなかったと。
つまりは「自分はなにも悪くない」とのことだ。
返事があるだけマシだとエリオットは頭を抱えていたが、それでも母親のそれがなければ彼はここまで悩むことはなかっただろう。
そうなればきっとジゼルとも出会っていないが。
「今はジゼルがこの屋敷の女主人、だろう?」
「……はい」
「母にはもっと色々と言いたいことはあるが、あなたと出会えたことは間違いなく幸運だった」
「……わたしも、そう思います」
きっとまだまだ「侯爵夫人」には足りないことばかりだ。マナーも心構えも何ひとつ夫に追いついていない。それでも、別の形で違うやり方でこの家に貢献できることはあるはずだ。自分を選んでくれた夫に恩返しする方法も。
ーーたとえ消去法だとしても。
「今夜は早く帰る」
「はい。あ、ホットケーキでも作りますか?」
ここ最近忙しい日々を過ごしていた彼と甘い時間を過ごしたい。
エリオットはジゼルの提案を聞いて嬉しそうに頷いた。
一旦完結です。機会があれば2章を更新します。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
10/12
追記:皆さんのおかげでランキングに載ることができました。
2 位:[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 - 完結済
3 位:[日間]総合 - 完結済
3 位:[日間]異世界〔恋愛〕 - 完結済
6 位:[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 - すべて
たくさんの方々にジゼルとエリオットのお話を読んでいただいてとても嬉しいです。
リアクションもとても励みになります。
本当にありがとうございます……!。°(°´ᯅ`°)°。




