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第80話『襲撃』

 七月八日日曜日、午後十二時二十三分。


 JR羽越本線。


 新発田方面へと向かう電車の中に、雅、レーゼ、愛理の三人がいた。座席に座り、外の景色に目を向けながら、何やら話をしている。


 一見すると、休日に友達と出かけている高校生のようにも見えるが、雅達は遊びに来ているわけでは無い。


 先日逃走した、あのキリギリスの顔をしたレイパーを探しに来ていた。


 三人とも肩から鞄を下げており、中には菓子箱くらいのサイズの探知機が入っている。


 科捜研で働く優の母、優香が作ったものだ。昨日の夜出来たものである。


 逃走したレイパーにはこおろぎの翅が生えており、そこに鱗粉が付着していることが分かった。この鱗粉には特殊な成分が含まれていて、探知機がそれに反応して音で知らせてくれる仕組みだ。


 本来なら十代の女の子に、レイパーを追跡するための道具を持たせることなど反対な優香なのだが、今回は特別に許可してもらえた。


 逃走したレイパーが、雅達が見つけた鏡を奪い、今もなお所持しているからだ。事情を知らない第三者が、レイパーと戦ってうっかり鏡を壊してしまうことを防ぐためである。


 そういうわけで、雅達三人は下越方面、優と志愛は中越方面を探そうと分担し、現在向かっていた。雅は、途中でレーゼ、愛理と別れることになっている。


 レイパーは朳差岳(えぶりさしだけ)――新潟県北東にある飯豊山地北部の山だ――に逃げた後、消息を絶ったということなので、内陸の方を重点的に調べるつもりだ。


「レイパー、上手く見つかるといいんだけど……」

「逃げて数日経ちましたから、簡単にはいかないでしょうね。まあそのために、三手に別れて探そうと計画したわけですが……。案外、相模原や権の方に現れるかもしれません」

「逃げた後、誰かを殺して回っているわけでは無いのが不気味ですねぇ……。今、何をしているのやら……っと、そろそろ着きそうです」


 もうすぐ『神山駅』に到着する旨を告げる車内アナウンスが流れ、雅は座席を立つ。ここからは、雅は徒歩で阿賀野方面に向かう予定である。


 そんな彼女を、レーゼも愛理も少し不安そうな目で見つめた。


「気を付けなさい。スキルで分身出来るとはいえ……一人なんだから」

「見つけたら、こっちに連絡をくれ。すぐに駆けつける」

「分かってますって。無茶はしませんよ」


 ゆっくりと電車が停車し、シューッという音と共に戸が開く。


 駅のホームに降りた雅は、大きく深呼吸をしてから空を仰ぐ。


 雲一つ無い、良い天気だ。レイパーの捜索に来ていなければ、外で昼寝でもしたくなるくらいである。


 そんな時。


「あれ? 雅ちゃんじゃん。久しぶりー!」

「おや? 真衣華ちゃん? 奇遇ですねー、久しぶりです!」


 声を掛けられ、そっちを見れば、エアリーボブという髪型をした、白ブラウスに黒いワイドデニム姿の女の子が雅に向かって手を振っている。


 橘真衣華だった。



 ***



 雅が降りた後、愛理が少し溜息を吐いた。


「全く束音の奴、分かっているのか? 相模原だって最初は反対していたというのに……」

「『大丈夫です』って言って聞かなかったのはあの子だけど……ミヤビ、向こうでも結構死にかけたところがあったみたいだから、心配よね。……あら?」


 窓の外を眺めていると、レーゼの目に、見知った顔が映る。


 丁度、真衣華が雅に声を掛けていたところだった。


 そして同時に、


「む? あれは……?」


 通路側に目を向けた愛理も、見知った人物を見つける。


 パーマっ気のあるゆるふわ茶髪ロングの髪型の、ネイビーのパンツとブラウス姿の女の子。


 桔梗院希羅々である。


 愛理が希羅々を見つけてから少し遅れて、希羅々も愛理を見つけて目を丸くしていた。


「奇遇ですわね、篠田さん。ごきげんよう。……あら、マーガロイスさんもご一緒で?」


「どうも。少し前まで束音も一緒だったんだがな」


「こんにちは、キキョウインさん。ここ、座る?」


 レーゼがに促され、希羅々はお礼を言ってから腰を下ろす。


「近くにいましたのに、全然気が付きませんでしたわ。こちらも先程まで、真衣華が一緒だったのですけど……」

「タチバナさんなら、さっき見たわ。電車を降りたところで、ミヤビに声を掛けていたのよ」

「あらまあ。凄い偶然ですのね」

「それにしても、庶民御用達の電車に、君みたいなお嬢様が珍しいな」

「出掛けるのに一々車を出させては手間でしょうに。(わたくし)、自分の用事で出掛ける際は、公共の交通機関を利用するようにしておりますの」

「……成程」


 言われてみれば、確かにその通りだと納得した愛理。聞けば、他にも庶民が利用するスーパーやコンビニなども普通に使っているらしい。


 口調はともかく、世間知らずでは無い希羅々。


 てっきり、真衣華が一般常識を教えたりしているのかとも思っていたが、希羅々のこういう意識があって、自然と身についたのだろうと愛理は思った。


「失礼なことを言って悪かった。ところで、桔梗院達はどうしてここまで? 遊びに来た、という様子では無いようだが……」

「少し調べることがありまして、新発田市まで。そういうあなた方こそ、どうしてここに?  途中で束音さんが下車されたということは、あなた達も遊びに来たという様子でもございませんが……」

「さて、どこから説明したものかしらね……」

「弥彦での出来事から、順に説明を――」


 色々あったので、レーゼと愛理が頭を悩ませつつも分かりやすく説明を始め、その七分後。


 神山駅を出発した電車が、月岡駅を過ぎ、中浦駅へと向かう途中。


「――っ!」

「きゃっ!」

「なんですのっ?」


 電車が急停止し、何事かと騒ぎが起きる。


 だが、次の瞬間。



 金属が無理矢理潰されるような重い音と、耳を劈くような悲鳴が聞こえてきた。

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