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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第9章 新潟市中央区~西区
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第78話『蟋蟀』

「雅ッ! 大丈夫カッ?」

「え、ええ……まだ目はチカチカしますけど……」

「それもそうだガ、背中とカ……」

「そっちは大丈夫。体を丈夫にするスキルを使いましたので、全然平気です」


 そうは言っても、志愛の心配そうな目は雅に向けられたままだ。状況が状況だったので、思いっきり踏みつけた自覚があるため、無理もない。


「それより、鏡を……。あいつ、さっきその辺に投げ捨てましたよね?」

「そういえばそうだったナ。しかシ、ずっと持っていたのカ――ッ?」

「――っ?」


 二人が、人型種チョウチンアンコウ科レイパーに投げ捨てられた鏡が落ちているであろう方向を見た瞬間、息を呑む。



 辺りは暗いが、それでもそこに、真っ黒い人型の『何か』がいたのだ。



 すぐに目を凝らせば、その姿は認識出来た。こおろぎのような翅を持っているのに、顔は歪な形をしたキリギリスのようなフォルムの、全身焦げ茶色の生き物だ。レイパーである。


「こいつハ……!」


 その姿に見覚えのあった志愛は、驚愕の表情を浮かばせ、棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』を構えた。


 丁度、雅が元の世界に帰還した日に、志愛達に襲いかかった三体の異形のレイパーの内の一体だったのだ。


 一体何時の間に側に来ていたのかは分からない。少なくとも気配は全く無く、こんなところにまで近づかせてしまっていたことに悔しさを滲ませる志愛。


「っ! 鏡が……!」


 目を擦りながらも、雅は異形のレイパーの左手に二枚の鏡が握られていることに気が付く。


 このレイパーもまた、人型種チョウチンアンコウ科レイパーと同じく、この鏡を狙っていたようだ。


 雅が剣銃両用アーツ『百花繚乱』を構え、志愛と一緒に地面を蹴ってレイパーへと突っ込み、二人同時にアーツを振るう。


 しかし攻撃が当たる寸前、レイパーの姿が消えた。


 跳躍して二人の攻撃を避けたのだ、と知ったのは、背中に強い衝撃を受けて吹っ飛ばされた後。


「くっ……!」


 雅が百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにし、レイパー目掛けて桃色のエネルギー弾を放つが、未だ完全に回復しきっていない視力では当たるものも当たらない。


「雅! さっきの合体のやつヲ……!」


 言いかけて、志愛は「それは駄目だ」と思い直す。アーツを合体させれば、自身はともかく雅は丸腰になってしまう。万が一渾身の一撃を躱され、レイパーが雅に攻撃を仕掛けでもしたら、それを防ぐ手立てが彼女には無い。あまりにもリスクが高過ぎる。


 そして同じことを、雅も理解している。


「志愛ちゃん!」


 それでも、今の状況を打開するには、そのリスクを取るしか無いと判断した雅は、志愛に自分のアーツを差し出した。


 仕方無い……そう思った志愛は、差し出されたアーツに手を伸ばす。


 だが。


「――っ!」

「グゥ……!」


 彼女達の判断は、少しばかり遅かった。志愛が雅のアーツを受け取る前に、レイパーが二人に連続で蹴りを放ってきたのだ。


 躱すために横っ飛びしたが、動いたのは別々の方向。丁度、レイパーを左右から挟むような位置取りだ。


 アーツを構え、レイパーの周りをゆっくりと回る雅と志愛。


 しかし、雅がライフルモードの百花繚乱の柄を伸ばそうと、構えを一瞬解いた瞬間を狙い、レイパーが再び蹴りの攻撃を繰り出してくる。


 ギリギリのところで雅はアーツを盾にして攻撃を防ぐが、強烈な一撃を堪えきれず、アーツが手から離れて遠くへと吹っ飛ばされてしまうのと同時に転がされてしまう。


 さらにレイパーは、背後からアーツを叩き付けてくる志愛に振り向くと、一瞬で彼女との距離を詰め、首を掴んで投げ飛ばす。


「ツ、強イ……ッ!」

「このままじゃ……やられる……!」


 どうすればいい――そう思った、その時だ。


 突如、白い矢型のエネルギー弾が飛んで来て、レイパーの背中へと命中する。


 完全な不意打ちで、僅かに体勢を崩すレイパー。そこにさかさず、美しい虹と共に、斬撃の追撃が背中へと直撃した。


 二人の窮地に駆けつけたのは、


「さがみんっ?」

「レーゼさンッ!」


 相模原優とレーゼ・マーガロイス。手にはそれぞれ、弓型アーツ『霞』と剣型アーツ『希望に描く虹』が握られている。


 人型種チョウチンアンコウ科レイパーを追って、雅達とは反対方向を探していた二人。途中で遠くが騒がしくなった気配を感じ、もしやと思い雅と志愛に連絡を入れるも通じず。自分達が追っていたレイパーが、雅達の方に出現したのだと悟り、急いでこちらに来た、という訳である。


「遅くなった! ごめん!」

「二人とも、大丈夫っ?」


 二人が雅達へ声を掛け、そこで雅と志愛は気がついた。


 けたたましいサイレンが、近くまで来ていることに。


 レイパーもそれに気が付いたようで、辺りを見渡せば、何台ものパトカーがこちらに向かってきていた。


 流石に形勢不利と判断したのだろう。


 レイパーの背中の翅が広がり、飛び上がる。


「何ッ?」

「逃がさない!」


 優が霞で、逃げるレイパーに向けてエネルギー弾を放つ。


 その内の一発が右の翅に直撃し、破壊に成功。片方の翅を失い、飛べなくなったレイパーは地面に落下するが、上手く受身をとり、立ち上がると同時に一目散に走り去って行く。


「ま、待て!」

「ミヤビっ!」


 追いかけようとする雅だが、レーゼがそれを手で制する。


 自分達とレイパーとの距離は、既に七百メートルは離れていた。今追いかけても、追い付けない。


「でも、鏡が……っ!」

「私だって悔しいけど……逃げたレイパーをがむしゃらに追っても見つけられないわ。それよりも――」


 レーゼはそう言いながら、道の方に出た。


 そして、向かった先に落ちていたレイパーの翅の欠片を拾い上げ、優の方に振り向く。


「これ、ユウカさんに調べてもらえないかしら? 奴を見つけ出す手掛かりにならない?」

「そっか。闇雲に探すよりはずっといいかも……。聞いてみるね」


 優は頷きながら、レーゼから翅の欠片を受け取る。


「それにしてモ、なんであんな鏡ヲ……」


 志愛の疑問に、誰も答えることは出来ない。


 警察が到着し、段々騒がしくなってきた。遠くから、優香が心配そうな顔でこちらに向かってくるのが見え、優が顔を強張らせる。制止を聞かずにレイパーと戦おうとしたので、この後説教されるのは容易に想像がついた。


「……今日はもう遅いですし、また今度、話をしましょう」


 雅の提案に三人が頷き、ここで解散することとなるのであった。

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