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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第9章 新潟市中央区~西区
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第73話『鮟鱇』

 優が放った白いエネルギー弾は、レイパーへと真っ直ぐに飛んでいく。


 鏡にばかり目がいっている人型種チョウチンアンコウ科レイパーは、その攻撃に気がつかない。


 優のスキル『死角強打』によって威力の上がった攻撃がレイパーに命中し、爆音と共にその体を大きく吹っ飛ばした。


 だが、優は軽く舌打ちをする。


 吹っ飛ばされたレイパーの手には、しっかりと二枚の鏡が握られていたのだ。


 レイパーは魚眼を一瞬だけ優に向け、威嚇するように唸りつつも、すぐに彼女達に背を向け、侵入してきた窓から逃走してしまう。


「皆! 大丈夫っ?」

「な、なんとか……!」

「こっちも平気! それより、二人が……!」

「まだ目が……ごめんなさい……」


 雅とレーゼの視力は復活していたものの、優香と久世は未だに手で目を押さえている。レイパーに近い位置にいた二人は、優達よりも光の影響が強かったのだろう。


「こっちはいいから、早くあいつを追って! 鏡が……!」

「う、うん! 二人とも!」


 優が二人に声を掛けると、レイパーを追って窓から外に出る。雅とレーゼが後に続いた。


 だが、レイパーの姿はもう見えない。


「どこに行った?」

「二手に分かれて探しましょう! 私は街の方を探すので、さがみんとレーゼさんは信濃川の方をお願いします!」

「みーちゃん一人でっ? 危険じゃ――」

「いざとなれば、私は分身出来るスキルがあるので大丈夫!」

「なら、お願いするわ! サガミハラさん、行きましょう!」

「くっ……! 危なかったら逃げてね、みーちゃん!」


 雅を一人で行かせることに抵抗があったものの、問答している時間も無い。街中なら他に人もいるから大丈夫と無理矢理自分を納得させ、レーゼと一緒に信濃川方面へと走っていくのだった。



 ***



「っ! いた!」


 探し始めること二分。優が走っているレイパーの姿を目撃する。レイパーは今まさに、信濃川に飛び込もうとするところであった。


 川に逃げ込まれてしまえば終わりだ。だがそうはさせまいと、優が弓型アーツ『霞』の弦を引き、白い矢型のエネルギー弾を乱射する。


 攻撃の気配に気がついたレイパーが振り向き、その場を飛び退き攻撃を躱すが、優の攻撃の手は緩まない。


「サガミハラさん! 一応、鏡に当てないように気をつけて!」

「出来ればね!」


 優が敵の動きを封じている間に、レーゼがアームバンドを緩めて袖を下ろし、剣型アーツ『希望に描く虹』を手にレイパーに近づいていく。


 優の乱射に気をとられている内に、エネルギー弾の嵐の間を縫うようにして一気にレイパーへと接近したレーゼは、レイパーの胸元目掛けて斬りかかる。


 斬撃の軌跡に残るは、虹。


 レイパーが咄嗟に一歩退いたことで入りは浅かったものの、レイパーの肩口から腰にかけて、斜めに切り傷が出来た。


 だが、二撃目を放とうと剣を振り上げた瞬間、レイパーが驚くほど大きく口を開け、レーゼの腹部目掛けて頭を傾け近づける。円弧状に並んだ、鋭く発達した歯で、彼女の胴体を噛み千切るつもりなのだろう。


 ギリギリのところでレーゼのスキル『衣服強化』が間に合い、攻撃を防ぐものの、両脇腹からギリギリと強烈な力が掛かる。スキルを使ったレーゼが顔を顰める程だった。


 しかし、胴体に噛みついてきたレイパーの首筋はがら空きだ。レーゼが痛みを堪えながらも、振り上げた希望に描く虹を首元目掛けて振り下ろす――が、刹那のところでレイパーが彼女の体から口を外し、飛び退くことで攻撃を躱してしまう。


 そこでレーゼは気がつく。胸元に付けた傷が無くなっている事に。驚異的な再生能力だ。


 再びレーゼに襲いかかろうと腰を落とすレイパーだが、そこに優の放ったエネルギー弾が飛んできた。


 足元に着弾したエネルギー弾。巻きあがった土の塊が、僅かではあるがレイパーの視界の邪魔をする。


 一瞬出来た隙に、レーゼが大きく踏み込みながら再びアーツを振り上げた。


 今度こそ仕留める……その思いで力一杯に放った斬撃。綺麗なフォームで放った一撃で、それを証明するかのように虹が架かる。


 だが――その虹が突如、途中で消えてしまう。


 レイパーが今までずっと手に持っていた鏡を体の前に出していた。まるで鏡を盾のように使われ、思わず剣を振り下ろす腕にブレーキを掛けてしまったレーゼ。


 そして、それが彼女に致命的な隙を作り出す。


 腕を途中で止めたことで、がら空きになった胴体にレイパーの蹴りが入り、彼女の体が吹っ飛ばされてしまった。


 スキルを使っていたことで大きなダメージは無いものの、背中から地面に叩き付けられ呻くレーゼ。


「レーゼさんっ? このぉ……!」


 レーゼに近づいていくレイパー。それを阻止せんと優がエネルギー弾を放とうと弦を引くも――何故かエネルギーの充填が遅い。


「なっ? こんな時に……!」


 十日程前、学校での訓練の際にアーツの調子が少しおかしくなった。その時に真衣華に診て貰い、『StylishArts』でのちゃんとしたメンテナンスを勧められたのだが、そのすぐ後に雅が帰還し、バタバタしていてすっかり忘れてしまっていたのだ。


 おかしくなったのは訓練の時だけで、それからは特に調子を悪くするようなこともなかったのだが……今になって再発したらしい。


 ヤバい――と焦る優だが、レイパーの足は止まらない。


 しかしレイパーがレーゼのすぐ側まで来た瞬間。


 倒れたまま動かなかったレーゼが、突然上体を起こして希望に描く虹でレイパーに斬りつける。


 ずっと倒れた振りをして、攻撃を当てる機会を伺っていたのだ。


 奇襲が成功し、再びレイパーの体に大きな傷が出来る。


 そしてその刹那、ようやくエネルギーが充填され、優がレイパーに向けてエネルギー弾を放つ。エネルギー弾は傷口に着弾し、くぐもったような声を上げるレイパー。傷口がより深く抉られ、緑色の血がドクドクを流れ落ちていた。


 だが――


「――っ!」

「しまった!」


 傷口を庇うように手で押さえながらも、レイパーの触覚についた球体が強い光を放つ。


 思わず腕で顔を覆って光を防ぐ二人。


 そのすぐ後に聞こえた、大きな水飛沫の音。


 光が消え、腕を下ろした時にはもう、レイパーの姿はどこにも無く、レーゼと優が悔しそうに歯噛みするのだった。

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