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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第9章 新潟市中央区~西区
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第72話『顔合』

 雅の誕生会から三日後の、七月二日火曜日。午後六時七分。


 新潟市中央区、新潟県警察本部の科捜研に、雅、レーゼ、優の三人はやって来ていた。


 異世界とこちらの世界で見つけた、折りたたみ式の鏡の調査について、先日優香から話があった通り『StylishArts』と協力することになった。今日は、その担当者と顔合わせをするのである。


 直接依頼したのは雅とレーゼのため、この二人だけいれば問題は無いが、優も『StylishArts』の担当者がどんな人か気になるということで、着いてきた。


 なお、愛理も来たがっていたのだが、用事があるとのことで今日は欠席だ。


 三人が応接室で、優香と『StylishArts』の担当者を待っていると、


「遅くなってごめんねー!」


 という声と共に優香が入ってきた。手には箱が二つ。例の鏡が入っているのだろう。


 そしてその後ろから入ってきた男性を見て、優が目を丸くする。


「さがみん? どうしました?」

「あ、ちょっと……。前に見たことある人でさ」


 スーツ姿の、五十代くらいの男性。身なりはよく手入れがされており、ビシっとした印象を受ける。スーツの襟元には、課長以上の役職が着けるバッヂが着いていた。


 志愛と一緒に人型種飛蝗(ばった)科レイパーを撃破したあの日。優はこの男性と電車の中で隣になり、僅かではあるが言葉も交わしていた。妙な偶然もあったものである。


「紹介するわ。『StylishArts』の久世浩一郎さんよ」

「初めまして。『StylishArts』本部長の、久世です」


 久世がゆっくりとお辞儀をすると、雅と優の前に、ウィンドウが出現する。名前や役職、連絡先が書かれており、電子媒体の名刺だ。


 それにしても、まさか本部長の方が来られるとは思ってもいなかった雅達。随分なお偉いさんが来たものである。優香が、一体どんな理由で協力を要請したのか非常に気になった。


「……おや?」


 レーゼの前にウィンドウが出ないことに、久世がやや困惑した声を漏らす。


「あ、すみません久世さん。彼女、ULフォンを持ってないので……」

「あぁ、成程。これは失礼しました」


 電子媒体の名刺は、ULフォンを持っている人にしか渡せない。


 久世は懐から、昔ながらの紙媒体の名刺を出すと、それをレーゼに渡す。


「ご不便お掛けして申し訳ありません。お返しできる名刺も無いのですが……レーゼ・マーガロイスと申します。よろしくお願いします」


 こういった紙媒体の名刺をやり取りする文化は、異世界にもある。作法も雅達の世界と大差は無い。自然な動作で受け取り、自己紹介を済ませる姿を見て、雅はレーゼが自分よりも大人の世界の人間なのだと改めて思わされた。


「新潟県立大和撫子専門学校付属高校一年、束音雅です」

「同じく、相模原優です」


 レーゼに続き、雅と優も名乗る。休学中とは言え、雅の職業はまだ学生だ。


「あら? 雅ちゃん、香水付けるようになった?」

「あ、分かりました? ふふふ、この間、さがみんから貰ったんですよ。誕生日プレゼントで」


 ふわりと漂うスズランの香りに優香が気がつくと、優が雅の隣で少し得意そうな顔をする。


「そう言えば、レーゼちゃんもお洒落な物を着けているわねぇ」

「あ、ありがとうございます。これ、ミヤビから貰ったもので……」


 優香の視線が、先日雅から貰った、アイリスの絵柄が刻まれた青いアームバンドに移ると、今度は雅が口角を上げてピースした。


 レーゼは照れるのを誤魔化すように咳払いをしてから、「そろそろ本題に……」と続ける。彼女の目線は、蚊帳の外になっている久世へと向けられていた。


「おっと、そうね。今日は久世さんの顔見せと……軽い進捗の報告をさせてもらおうと思っているの」

「あれから、また何か新しいことが分かったんですか?」

「ええ。民間企業に協力を要請について、あなた達から許可が頂けたから……顔見せの前に、少し調べて頂いたの」


 今日の朝から、久世やその他数名の『StylishArts』の社員と一緒に、優香が鏡の調査をしていたのだ。


「ここからの話は、久世さんからして頂きましょう。お願いします」

「ええ。では、早速。ご依頼頂きました二枚の鏡についてですが……」


 久世が説明を始めると、優香が箱の蓋を開く。予想通り、そこには異世界から持って帰ってきた鏡と、先日弥彦で見つけた鏡が入っていた。


「科学捜査研究所様が結論付けられた通り、アーツで間違いありません。どちらの鏡にも、内部にコアの存在が確認出来ました。私どもも、同意見でございます」

「ふーん……科捜研と『StylishArts』の意見が同じなら、もう間違いないね」

「ただ――」


 優の感嘆したような言葉に、久世が少しばかり険しい表情をする。


「この二つのアーツ、どうやら少々特殊なアーツのようです。皆様が一般的に使用されている武器形状のアーツとは、恐らく違う用途を目的として作られたものではないかと」

「まぁ、明らかに戦闘に使う感じじゃないし……そりゃそうか」


 優が、鏡をマジマジと見ながら納得する。


「あー……じゃあ、これでレイパーを殴っても、ダメージは与えられないってことですかね?」

「形状が形状ですので、ノーダメージでは無いでしょうが、効果は薄いと思います。最も、何を目的として作られたのかは不明ですが……この二つの鏡は、近づけると互いのコアに変化が生じるようで、今日持参した検査器具を狂わせてしまいました」

「見た目には、特に変化は無いんだけどねぇ」


 久世の言葉に、優香がそう続ける。


 雅もレーゼも、話を聞いて改めて鏡を見つめる。


 相変わらず、鏡面は彼女達の顔を映すばかり。


「……この間は、こっちの鏡が、もう片方の鏡の在処を教えてくれた。でも、今は何も反応が無い。何でかしら?」


 レーゼの独り言のような呟きに、この場の全員が首を傾ける。


 そのまま唸り、頭を悩ませていた――その時だ。



 殺気がレーゼ達を襲ったと思った次の瞬間、応接室の鏡を破って何者かが侵入してくる。



 突如現れたのは……人型のレイパー。


 魚顔で、全体的に暗褐色だ。特徴的なのは頭上から伸びた触角で、先端は球状となっている。頭だけ見れば、まるでチョウチンアンコウのようであった。


 故に分類は『人型種チョウチンアンコウ科』。


 咄嗟に剣型アーツ『希望に描く虹』を構えるレーゼ。だが優が、レイパーの目が自分達では無く、テーブルの上に乗った鏡に向けられていることに気がつく。


「レーゼさん!」


 敵の狙いを悟った優が声を掛けるが、時既に遅し。


 レイパーの触覚についた球体が、強い光を放ち、レーゼ達の視界を奪う。


「っ、しま――」

「みんな伏せて!」


 レーゼ達が目をやられ蹲る中、一人だけ無事な者がいた。


 優だ。レイパーが目くらまししてくることを直感した彼女は、顔を背け目を閉じて光を防いでいた。


 右手の薬指に嵌った指輪が光り輝き、出現するは弓型アーツ『霞』。弦を引くと、矢型の白いエネルギー弾が充填される。


 そして、テーブルの上に乗った鏡に手を伸ばすレイパーに向けて、そのエネルギー弾を勢いよく放つのだった。

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