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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第8章 新潟市中央区~弥彦
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第68話『身軽』

 突如現れたテナガザル種レイパーは、甲高い声を上げながら、飛び掛ってくる。


 狙いは……愛理だ。


 襲ってくるレイパーを受け止めようとする愛理だが、勢いよく伸びてきたレイパーの長い腕に防御が間に合わず、モロに喰らってしまう。


 飛んでいく愛理の体。ブナの木の幹に背中を打ちつけ、呻くような声と共に地面に崩れ落ちてしまう。


「愛理ちゃんっ?」

「来るわよ、ミヤビっ!」


 レイパーの眼が、レーゼを捕らえた。


 地面を蹴ると共に、一気にレーゼとの距離が縮まる。愛理にしたように、レーゼに向かって腕を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。


 レーゼは咄嗟に自身のスキル『衣服強化』を発動。身に着けている服の強度が鎧並になり、レイパーの腕の攻撃を防ぐ……が、強い衝撃に、レーゼの体が大きくよろめいた。


 それでもレイパーから目は離さなかったレーゼだが、レイパーは跳躍してレーゼの体を飛び超える。


 顔を後ろに向けると、そこにはレーゼに突進してくるレイパーの姿が。


 体勢を崩しているレーゼだが、必死で体を捻って突撃をギリギリのところで躱す。


 二度、三度……前後左右から同じように、まるで飛び掛るように突進攻撃をしてくるレイパーを何とか躱していたものの、四度目、左方向からの攻撃は躱しきれず、彼女も吹っ飛ばされてしまう。


 そして、目にも止まらぬスピードで動き回るレイパーの姿を捕らえきれず、攻撃するタイミングを掴めない雅に向かって、レイパーは飛び掛る。


 しかし、直前で雅の『共感(シンパシー)』のスキルにより、ノルン・アプリカッツァのスキル『未来視』が発動していた。自分の右方向から来るレイパーが、モノクロのイメージではっきりと雅の脳裏に浮かび上がっていたのだ。


 次に、どの方向から襲いかかってくるか、事前に察知していた雅。レイパーに体の正面を向けると、さらにレーゼのスキル『衣服強化』を発動する。レーゼとは少しスキルの効果が異なり、体が鉛のように重くなる代わりに、全身の強度が鎧並になるのだ。効果時間は三十秒。


 そして、これまでの愛理やレーゼの様子から、攻撃の威力も大まかに予想していた雅。レイパーの伸ばした腕が雅に激突するが、片足が僅かに後方に擦る様に退いたものの、二人のように大きく吹っ飛ばされることは無い。


 瞬間、雅は『衣服強化』のスキルを解除すると、剣銃両用アーツ『百花繚乱』を握る手に力を込める。


「はあぁぁぁあっ!」


 声を張り上げ、レイパーの腹部に向かってブレードモードの百花繚乱を突き出す。


 が、しかし――


「――っ?」


 レイパーが跳躍し、雅の突きを躱してしまった。


 攻撃が空かされ、つんのめる雅の体。そんな彼女の背中を、レイパーは宙に浮いたまま蹴り飛ばす。


 地面を転がるように飛ばされる雅。


 そんな彼女に、止めを刺さんと飛び掛るレイパーだが、


「束音っ!」


 体勢を整えた愛理が刀型アーツ『朧月下』で繰り出した横からの斬撃を躱すため、レイパーが上に跳躍したことで雅への止めが中断される。


 レイパーが自分の攻撃を避けたことで、スキル『空切之舞』を発動しようとした愛理だが……レイパーが木の幹に上の方に抱きつくように掴まっているのに気が付くと奥歯を噛み締める。


 愛理のスキルは、当てようとした攻撃が躱された時、相手の死角に瞬間移動出来る効果があるが、今使えば愛理の体は宙に投げ出されることになってしまう。浮いた状態で刀を振っても大した威力は出ず、致命傷を与えられなければ、身動きのとれない愛理は攻撃の的になるだろう。故に、使うに使えない。


「ちょこまかと……厄介ね……!」


 レーゼが起き上がりながら、剣型アーツ『希望に描く虹』を構える手に力を込める。


 愛理と雅、レーゼがアーツを構え、空中にぶら下がるレイパーを睨みつける。


 レイパーは何が面白いのか、甲高い声で笑うと――木から木へと飛び移り、三人が自身の姿を見失った瞬間を見計らって上から飛び掛かる。


「っ?」

「レーゼさ――くっ?」

「二人と――なにっ?」


 一瞬で、三人を吹っ飛ばすレイパー。そして再び木の上に跳び上がる。


 猛スピードで木の上や地上を動き回り、前後左右だけでなく上空からも攻撃が飛んでくる、この状況。


 雅、レーゼ、愛理は防戦一方になるのも仕方の無いことだった。


 致命傷を避けられているのは、三人の戦いのセンス故。ある程度レイパーの殺気を感じ取れているので、どこから攻撃されるかは、直前ならば分かる。避けたり防いだりするので精一杯なのだが。


 しかしレイパーの攻撃に耐え忍んでいる、そんな中。


 チャンスがやってくる。


 愛理の背後から飛び掛るレイパー。その姿を、雅はしっかりと捕らえたのだ。


 咄嗟に、百花繚乱をライフルモードに変更し、()()()()()を発動すると同時にレイパーに向かって桃色のエネルギー弾を放つ。


 まさか自分に攻撃が飛んでくると思っていないレイパー。その横顔にエネルギー弾が命中し、大きな爆発音と共にレイパーを吹っ飛ばす。


 雅が使ったスキルとは、優のスキル『死角強打』。効果は優と同じく、相手が視認していない攻撃の威力を上げるスキルだ。


「逃げますよ!」

「分かったわ!」


 反撃したいのは山々だが、この場所は余りにもレイパーに有利過ぎる。悔しくても、ここは一旦引くべきだと判断した。


 同じように判断していたレーゼは、すでに撤退の用意が整っている。


 愛理は地面に転がるレイパーと雅を交互に見て――それでも状況を理解して、逃げることを決めた。


 愛理を先頭に、走り出す三人。雅は一番後ろでライフルモードの百花繚乱を構え、倒れたレイパーにエネルギー弾を乱射する。


 エネルギー弾の嵐は、レイパーに目立ったダメージを与えることこそ無かったが、その視界を立ち込める煙で塞いでしまう。


 嵐が止んだ頃に残っていたのは、五つの死体と、持ち主を失ったアーツだけ。


 レイパーの視界から、三人の姿は完全に消えていた。

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