第62話『帰還』
「――ああっ! そうだ! 皆はっ?」
「しまった、忘れていた! 束音! 近くでもう一体、レイパーを見なかったかっ? 黒い奴だ!」
再会の余韻が薄らぎ、程なくして。
優と愛理は希羅々達が別の場所で戦っていることと、黒猫顔のレイパーが逃走中だということを思い出す。
「二人の友達なら、多分無事です。ここにはザ・お嬢様、みたいな喋り方をする娘に教えてもらってきましたから……。黒いレイパーは見て無いですね……」
「ザ・お嬢様……? あぁ、希羅々ちゃんのことか。いや、あれは別に友達というわけじゃ……。っていうか、希羅々ちゃん以外にも二人、戦っている友達がいるのよ! そっちには誰が? もしかして希羅々ちゃんが向かったのっ? いやいやキツいでしょ! 助けに行かなきゃ!」
「お、落ち着いてさがみん! その人達のことも、彼女から聞いています! そっちには私の仲間が向かっているので、多分大丈夫!」
「仲間?」
「束音、もしかして、彼女のことか?」
「えっ?」
愛理が視線を向けている方向に、雅と優は顔を向ける。
そこには、こちらに向かって走ってきているレーゼ、希羅々、志愛、真衣華の姿があった。
「皆っ?」
「二人とモッ! 無事カッ?」
「ああ、ご覧の通りだ」
志愛が、優達へ手を振りながら聞いてきて、愛理が両腕を広げて無事であることを示す。
「……ん? あのピンクの髪の人がもしかして?」
「ええ、多分、相模原さんの探していた親友の方だと思いますわ」
真衣華と希羅々は雅を見て、ヒソヒソとそんな言葉を交わした。
「ミヤビッ!」
走ってくるレーゼ。手には鏡が握られていた。
そんな彼女を見て、優と愛理にレーゼを紹介しようとして……言葉を詰まらせる。
彼女をどう、紹介すればよいのだろうかと疑問を持ったのだ。
そもそも自分が今までどこにいたのか説明するのも、困難ではないかと気がつく雅。
しかし、これまでの説明をしないわけにもいかない。
証拠も無しに、今まで自分は異世界にいて、レーゼはそっちの世界の仲間ですと言っても頭の心配をされるのがオチだろう。最悪の場合、信用を失う可能性まである。
雅は頭をフル回転させるが……結局、正直に話すしか道は無いと分かり、思わず溜息を吐いた。
とは言え、だ。
雅もレーゼも連戦で疲れており、優達も満身創痍。ちゃんとした説明は後の方が良いだろうと判断した雅は、皆が集まったところで、注目を集めるように一つ、咳払いをする。
「えっと、皆さん初めまして。束音雅と言います。さがみん――彼女の親友です」
「タバネミヤビ……。確カ、優の探していた親友カ?」
「うん。詳しい話は聞いていないんだけど、再会出来た。危ないところを助けてもらったんだ」
「なんダそのかっこいい登場の仕方ハ。イケメンすぎル……」
「ドヤァ!」
「束音、説明の続きを」
志愛の評価に対する雅の反応に若干頭を抱えつつ、愛理が先を促した。
雅は「これは失礼」と小さく呟くと、やりとりを黙って眺めていたレーゼに手を向ける。
「彼女はレーゼ・マーガロイスさん。私の仲間です」
「……どうも、こんにちは」
いきなり紹介されても何を言えばよいか分からず、困ったレーゼは軽く頭を下げた。
彼女もまた、自分が異世界から来ました、と言っても簡単に信じてはもらえないだろうと思っていたので、他に言えることも無い。
優、愛理、希羅々、志愛が簡単に自己紹介をして、最後に真衣華が名乗る。
すると、
「レーゼさんだっけ? 外国の人? どこ出身?」
「あー……それは……」
「ちょっと色々事情があるんですけど、複雑なので後で説明させて下さい。先に今の状況を整理したいんですけど……」
困るところを突っ込まれてしまい、雅は慌てて話題を変えた。
「あ、そう言えば私達を最初に襲ったレイパー! あいつ、途中で逃げちゃったんだけど……誰か見ていない?」
上手く話題が変わり心の中でホッと一息つく雅だが、隣で雅の腕を掴んでいる優の眉がピクリと動いたことには気がつかない。
「真衣華達と戦っていた奴も逃げ出したんだ。私達も逃がしたのよ。途中で熊みたいなレイパーが出てきて、それを見て去っていったわ」
しかし優は雅を特に追求することはせず、話題に沿って話を進める。
「途中で出てきた? もしかしてお二人のところにも、魔法陣みたいなものが出現しまして?」
「魔法陣? いや、そんなものは見ていないが……」
「いや、あいつは最初、私達のところに出現したんですよ。何故か逃走したので、追いかけたら皆さんに合流したんです」
結局、何故ベルセルク種レイパーが逃げ出したのかは分からず仕舞いだ。
敵の目的が分からず、嫌な予感がしてならない雅とレーゼ。
「……二人とも、魔法陣から出てきたレイパーについて、何か知っているのか?」
「えっ?」
「いや、何となく、そんな気がしただけなんだが……」
愛理の鋭い勘に、内心で感心してしまう雅。
しかし、答え辛そうにする雅を見てどう思ったのか、
「知っていることがあれば、後で聞かせてくれ」
そう言う。
「桔梗院のところモ、同じ感じカ?」
「ええ。途中で蛇みたいなレイパーが出現したら、烏顔のレイパーは逃げ出しましたわ」
「……何か変だナ。途中で現れた奴と一緒に襲われれバ、間違いなク私達が負けていただろウ。何故逃げ出したんダ?」
志愛の質問に、誰も答えることは出来ない。
うーん……と一同が唸る中、愛理は雅と優を交互に見て、
「……今は考えるのは止めておこう。皆疲れているはずだ」
そう言った。
「束音、相模原を頼む。私は彼女達を家まで送っていくから」
「えっ? 愛理ちゃん?」
「ちょっと篠田さん?」
「ささっ、皆行こうか」
やや強引に話を終わらせ、仕切る愛理に文句を言いかける希羅々だが、お構いなしに愛理に背中を押され、なんやかんやで結局帰ってしまった。
後に残されたのは、雅とレーゼ、優だけ。呆気にとられ、立ち尽くしてしまう。
「……もしかして、気を遣われた?」
「みたいですねぇ」
「え? どういうこと?」
雅と優の関係性をよく知らないレーゼは首を傾げる。
「……取りあえず、私の家に行きましょう。色々話をしたいこともありますし……」
「そう言えば、当初はそのつもりだったわね。レイパーが現れて、バタバタしちゃったけど」
「……ちゃんと話、聞かせてもらうからね。今までどこに行っていたのか、彼女とはどう知り合ったのか、とか。まぁそんなことより――」
優は一旦そこで言葉を切り、雅の目を見つめ、にっこりと笑う。
「おかえり、みーちゃん」
「……ええ、ただいま。さがみん」
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