第61話『再会』
本物だ。
相模原優は、いきなり現れた束音雅を見てそう確信を持つ。
今までどこに行っていたのか等、疑問は多々あるが……それでも、生死が不明だった親友が生きていたことに、戦闘中なのにも関わらず目頭が熱くなってしまう優。
雅はベルセルク種レイパーに視線を向けつつも、優と愛理へとサムズアップをしてから、剣銃両用アーツ『百花繚乱』を構える。
雅のタックルを受けて吹っ飛ばされたレイパーは、威嚇するような唸り声を上げつつも立ち上がった瞬間――お返しと言わんばかりに、雅へと突進していく。
咄嗟に腰を落としてレイパーの攻撃を受けようとするも、敵のあまりのスピードに、反応は僅かに遅れてしまった雅。
正面からぶつかり合うアーツとレイパーだが、衝撃を抑えきれずに雅は吹っ飛ばされてしまう。尻餅をつくことこそ無かったものの、両腕は上に上がり、後方に数歩よろめく。
そんな彼女の腹部へと迫る、レイパーの爪。
「――っ!」
しかし、その攻撃が雅に直撃することは無かった。
優の放った矢型のエネルギー弾が、レイパーの左目を貫いたのだ。
「さがみんっ?」
「みーちゃんには手を出させない……!」
そして愛理が雅の後方から飛び出て、怯んだレイパーへと斬りかかる。
「愛理ちゃんっ?」
「こんなところで……負けて堪るものか!」
毛と一緒に皮膚が切れ、血が飛び出る。
悲鳴のような咆哮と共に、レイパーは大きく後ろへと飛び退き、雅達と距離をとった。
抉られた眼や斬り裂かれた皮膚はすぐに再生するが、レイパーの三人を見る目が明らかに変わる。
獲物ではなく、敵を見るような視線。殺気も強まり、雅達の背筋を震わせた。
「さがみん、愛理ちゃん……!」
「大丈夫。まだ戦える……!」
「私もいけるぞ!」
雅と愛理はアーツを構えつつ、ジリジリとレイパーへと近づきはじめる。
優は弦を強く引き絞り、矢型のエネルギー弾を生成。いつでも放てる状態だ。
雅と愛理、レイパーが地面を蹴るのは同時。
雅が身を低くし、レイパーの腹部を狙って百花繚乱を横に一閃。
愛理が朧月下を振り上げ、レイパーの頭部へと縦に一閃。
二人の同時攻撃を、レイパーは両腕の爪で受け止める。
攻撃を弾かれる二人だが、間髪入れずに別の方向からそれぞれ刃を振るう。
それさえ、再び爪で防ぐレイパーだが、二人はまだ諦めない。
別々の角度から同時に、時にはタイミングをずらし、気力を振り絞るように声を張り上げながら攻め続ける。
そして二人の動きの隙を付き、反撃に転じるためにレイパーが一歩踏み込んだ瞬間、優がエネルギー弾を放つ。
直線的な軌道で飛んでいったその攻撃が、レイパーの首へと命中。その痛みで、レイパーは僅かに動きを鈍らせる。
その隙に雅の振った剣が、レイパーの胸元に大きな傷をつけた。
さらに追撃のように振るわれた愛理の刀が、レイパーの右足にも傷を負わせる。
膝をつき、呻くレイパーに止めを刺さんと、雅と愛理のアーツが同時に頭上から襲いかかった……のだが。
鬱陶しい虫を振り払うように、レイパーは爪を振って二人の体を吹っ飛ばす。
強く叩き付けられた爪に苦悶の声を上げる雅と愛理。いとも簡単に吹っ飛ばされた彼女達は、並ぶようにして地面に背中から叩きつけられる。
「ば……化け物めぇ……! うっ……」
起き上がろうとした愛理だが、爪の攻撃を受けた所に激痛が走り、上体を起こすことすら出来ない。
「ぐっ……」
雅も同じような状態だが、愛理程ダメージを受けたわけでは無い。
百花繚乱の柄を曲げてライフルモードにすると、倒れたまま狙いを定め、レイパーへと桃色のエネルギー弾を放つ。
最初の三発は外れたものの、四発目はレイパーの顔面に直撃。
だが怯む様子は無い。
「二人ともっ!」
優が青い顔で雅達へと声を掛け、レイパーに向かってエネルギー弾を放ちながら二人の側へと駆け寄る。
雅と優の遠距離攻撃が雨のようにレイパーを襲うが、ダメージを受けた様子は無い。
腕でエネルギー弾を受けながら、あるいは被弾しながらも立ち上がり、怒り狂ったように雄叫びを上げ、腰を落とす。
タックルを仕掛けてくる構えだ。
ヤバい――そう思うと同時に、雅の頭に電流が走る。
「さがみんっ! あれ!」
「――っ!」
何かに気がついたように叫ぶ雅で、彼女の言いたいことが伝わった優。
体は既に悲鳴を上げているが、気合と根性と言う名の鞭を打ち、雅は立ち上がる。
素早く雅が百花繚乱の柄を戻してブレードモードにすると同時に、優が霞の弦を引く。
それを見て愛理が二人の行動の意味を悟ると同時に、レイパーが三人目掛けて地面を蹴った。
雅の百花繚乱が、優の霞へと番えられる。
雅のアーツに備わっている『合体』機能。
同じメーカーの、他のアーツと組み合わせることが出来るこの機能。異世界ではついぞ使う機会が無かったのだが――今なら使える。
エネルギーが番えられた百花繚乱へと集まり、白い光を纏うが……攻撃可能になるまで、僅かにその充填速度が間に合わない。このままでは二人が攻撃するより先に、レイパーの爪が二人を抉ってしまう。
しかしその時、愛理が動いた。
立ち上がれなくとも腕は動かせる愛理は、レイパー目掛けて自らのアーツを放り投げたのだ。
猛スピードで近づくレイパーは、投げられた朧月下に対し、腕を振るって爪でそれを明後日の方向へと弾き飛ばす。
だがそれにより一瞬の隙が出来、百花繚乱へのエネルギーの充填が終わる。
レイパーが腕を伸ばし、爪が二人の顔面まであと数センチというところまで迫るが、それより霞の弦から二人の指が離れる方が速かった。
レイパーへと、ほぼほぼゼロ距離で放たれる百花繚乱。
眩い光を放つ百花繚乱が、レイパーの胴体を貫いて、そのままレイパーごと直線的に飛んでいく。
ベルセルク種レイパーは雅達へと腕を伸ばしたまま狂ったように声を上げるも、そのまま空中で爆発四散したのだった。
***
ベルセルク種レイパーが爆発四散して、一呼吸置いた後。
優が、雅に抱きついた。
「わわっ? さがみんっ?」
「みーちゃん、ちょっとジタバタしないで」
「あ、いえっ? でも私今、汗が――」
「うっさい」
汗の臭いなど気になるはずも無い。
絶対に生きているのだと確信していても、それでもやはりこうして生きている姿を見れば、色々と込み上げてくる。
優の目からポロポロと涙が零れ落ち、それに気がついた雅も、優を抱き締め返す。
「……束音、色々聞きたいことはあるが……まずは……無事で良かった……本当に良かった」
愛理も涙ぐんでおり、雅は二人に随分と心配を掛けていたことに改めて気づかされる。
異世界に行っている間の優達の行動を直接見たわけではないが、何となく、ずっと自分を探し回っていたのでは無いかと思う雅。
「二人とも……ごめんなさい」
「いい。別にみーちゃんが悪いわけじゃないから……」
もしかしたらずっと会えないかもしれないと思うこともあった。
でも、また会えたのだ。
それだけで、優と愛理は充分だった。
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