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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第7章 新潟市西区~中央区
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第58話『鉢合』

 時は少し遡り、雅とレーゼは。


 国道四0二号線に出たベルセルク種レイパーは、そのまま道なりに北東へと逃走。


 二人はレイパーの後を追っていた。


 ちなみに追いかけ始めてから、雅は自分達が青山海岸海水浴場の近くに転移していたことに気がついた。二ヶ月近く異世界に行っていたからパッと思い出せなかったのだが、走っている内に段々と記憶が蘇ってきたのだ。


 レイパーは驚くほどの速さで走っており、既に姿は見えない。


 しかし、道に残された足跡が、敵の行く先を明確に示していたため、追跡が出来ていた。


 そして、追いかけ始めて約三十分。


 国道四○二号線を進んでいくと、関屋分水路を横断する橋へと差し掛かる。


 関屋分水路は、洪水から新潟市を守るために作られた分水路だ。日本一長い川である信濃川の途中で分流し、日本海へとバイパスすることで、信濃川の流量を減らしている。この分水路を境に、新潟市は西区と中央区に別れているのだ。


 関屋分水路と信濃川、日本海により、優達の通う新潟県立大和撫子専門学校付属高校のあるエリアは島のようになっており『新潟島』と呼ぶ人もいる。


 西区から新潟島へ渡るための橋は五本。


 足跡を辿るあたり、レイパーはその内の一本、新潟大堰橋を渡って新潟島へと渡ったと思われたため、雅先導の元、二人は道を進む。


「あっ! レーゼさん危ないですよ!」

「……ちっ! ミヤビの世界って、ちょっと面倒ね……!」


 転移後、何度目かも分からないレーゼ舌打ちに、雅は苦笑いを浮かべる。


 レイパーを追いかける間、レーゼは頻繁に車道にはみ出しかけては雅に注意をされていたのだ。


 最初は何でその『シャドウ』とやらに出ては駄目なのか分からなかったレーゼだが、前後から鉄の塊――自動車のことだ――が凄いスピードで走ってくるのを見て、雅の言葉の意味を知る。


「要は私の世界で言うところの馬車道なんでしょうけど……どこもかしこも、そんなのばかりじゃない。なんでそんな道がこんなに多いのよ」

「向こうでは、馬車が通る道は限られていましたからねぇ……」


 2221年の現代日本では、車は自動操縦が当たり前の時代になっている。技術は進化し、人を轢いてしまう可能性は限りなくゼロだ。


 さらに歩行者がうっかり車に気が付かず車道に飛び出してしまいそうになっても、本能的に危ないと第六感に訴えかける特殊な電波が車から発せられており、歩行者が危険を察知することが可能だ。


 だから仮にレーゼが車道を走っていても、車に轢かれる心配は無いかもしれないのだが……彼女は異世界人。この世界の技術は、果たしてレーゼを人間と見なすかは若干の不安が残る。


 故に雅は、念のために警告を発していたのだが……こちらに来て一時間も経っていないレーゼからしてみれば、車道だの歩道だのは馴染みが無い。うっかり間違えて車道にはみ出してしまうのも仕方の無いことだ。


 特にレーゼはアスファルトの地面に大いに違和感を覚えており、戦闘で体が疲弊しているのも相まってかなりのストレスを感じてしまっていた。


 橋を渡ると、T字路だ。レイパーの足跡は北の方へと続いている。


「それにしても……何であのレイパー、こんな足跡を残して逃げるんでしょうか?」

「……何か、不気味ではあるわね」

「逃げる方向も謎です。橋なんか渡らず、あっちに行けば人も多いはずなのに」


 そう言いながら、南を見る雅。そちらには住宅街や小学校があり、十字路も多く、追っ手を撒くにも女性を襲うにも丁度良い。


 一方、レイパーが向かったと思われる方は、海沿いを走る道が伸びている。この時間では人も少ないため、向かったところで旨味は少ない。


 一応、飛砂防備保健保安林が並んでいるため身を隠すのには向いているものの、そもそもここまで来る間にも林はあり、そうするのならばここまで道なりに進む必要は感じられなかった。


「……何が狙いでしょう?」

「うーん……。正直、分からないわ。でも、追うしか無いでしょう?」

「まぁ、そうなんですけど……」


 言いながらも、走る足は止めない。


 言いようの無い不安を抱えながらもレイパーを追いかけること、二十分。


 二人は少し遠くで、謎の黒い発光を目撃したのだった。


 そこは西海岸公園。


 桔梗院希羅々が戦っている場所である。



 ***



 ナーガ種の二本のサーベルから繰り出される、息も吐かせぬ激しい連撃。


 希羅々はその攻撃を、レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』で何とか防ぎ続けることしか出来ていなかった。


 時折飛んでくる、レイパーの唾液にも注意を払う……が、完全に躱すことは困難で、黒いブレザーとスカートの一部分からは白い煙が上がり、溶けて穴が開いてしまっている。


 女の命である髪に唾液が触れていないのは、まさに奇跡と言っても良いだろう。


 防戦一方ではあるものの、未だ生きながらえているのは希羅々の実力が高いことを示しているのだが、このまま長引けば敗北は濃厚。


 何とか攻撃する隙を見つけなければ……と、素早い敵の動きをよく観察しながらチャンスを伺っていた希羅々だが、ついには強烈なサーベルの一閃により、手からアーツが吹っ飛ばされ、彼女の後方の地面に突き刺さる。


 しまった――と、ついアーツを拾おうとレイパーに背中を向けてしまった希羅々は、そこで自分の失敗に気が付く。


 しかし時既に遅し。レイパーは希羅々の背中へ斬りかかろうと、先程一閃を放った方とは別の手に握ったサーベルを、高く振り上げていた。


 万事休すか、そう思った、その時。



 どこからともなく桃色のエネルギー弾が飛んできて、レイパーの腕に命中する。



 思わずサーベルを落とし、撃たれた腕を押さえて痛みに呻くレイパー。


 一体何が、と、エネルギー弾が飛んできた方向に希羅々が目を向ければ、二人の少女の姿が映る。


 桃色の髪に、ムスカリのヘアピンを付けた、新潟県立大和撫子専門学校付属高校の制服を来た少女。


 もう一人は、腰の辺りまで伸びたスカイブルーの髪をした、翡翠の眼の、不思議な雰囲気のある少女。


 束音雅と、レーゼ・マーガロイスだ。


 ベルセルク種レイパーを追う途中で謎の発光を目撃し、嫌な予感がしたため見に来たのである。


 てっきりベルセルク種レイパーが何かやったのかと思ったのだが、来て見ればそこには別のレイパーと、襲われる少女の姿。一瞬で少女のピンチを悟った二人は、一先ず少女の加勢をすることに決めたのだ。


 雅の手には剣銃両用アーツ『百花繚乱』。ライフルモードになっており、これでレイパーへエネルギー弾を放った。


 そしてレーゼは、剣型アーツ『希望に描く虹』を構えつつ、レイパーへと近づいている。


 そして自らの攻撃の間合いになった瞬間、レーゼはアーツを振る。剣の軌跡には、美しい虹が架かりながら、ナーガ種レイパーの胴体へと大きな傷を付けた。


「離れてなさい!」


 レーゼは希羅々に目もくれずにそう言うと、先の一撃で怯んだレイパーへと何度も何度も残撃を繰り出していく。


 さらに援護のように、雅の放ったエネルギー弾が次々にレイパーの体に命中する。


 状況はレーゼと雅の方が優勢……かに思えたのだが。


 段々と攻撃のリズムに慣れてきて、さらには傷ついた体が再生したこともあり、レーゼと雅の攻撃を少しずつ躱し、腕で防ぐようになっていく。


 そしてタイミングを見計らい落としたサーベルを拾い上げると、力任せにレーゼへとサーベルを振った。


「――っ! あなたっ?」


 吹っ飛ばされるレーゼの体に、希羅々の悲痛な叫び声が響く。レーゼは自らのスキルである『衣服強化』により服を鎧並の強度にすることで致命傷は避けていたものの、そのスキルの存在を知らない希羅々には、レーゼがやられたように見えてしまったのだ。


「大丈夫……よっ!」


 地面に叩き付けられるも立ち上がるレーゼ。しかし見るからに辛そうな様子。


 天空島での激戦による疲れが蓄積している状態で強烈な一撃を叩きこまれてしまえば、スキル越しとは言え大ダメージは避けられない。


「くっ……っ! 危ない!」


 いつの間にか希羅々へと近づいていたレイパー。既にもう一本のサーベルも回収し、二本の武器で丸腰の希羅々に攻撃を仕掛けようとしていた寸前だった。


 しかし、その攻撃が希羅々へと振り下ろされる直前で、雅が希羅々とレイパーの間に体を割り込ませる。そこでレイパーから距離をとる希羅々。


 そして振り下ろされたサーベルを、ブレードモードにした百花繚乱で防ぎ鍔迫り合いに持ちこんだ瞬間、横からレーゼがレイパーの脇腹へと希望に描く虹を突き立てる。


 大きく体を捩り、唾を撒き散らしながら激しく悶えるレイパー。


 唾液が落ちたところから煙が上がるのを見たレーゼと雅は、急いでその場を離れる。


 爆発四散するかと思われたナーガ種レイパーだが、どうやら苦しむ以上に激昂している様子。


 もう一押し……もう一発、体に刃を付き立てなければ倒れなさそうだと判断した二人は、気を緩めることなくアーツを構える。


 が、その時。


 レーゼと雅の後方から、全長十メートルもの巨大なレイピアがレイパーに迫る。レイピアのブレイドがレイパーの体を貫いた。


 体を仰け反らせ、腕からサーベルを再び落としながら、断末魔のような叫び声を上げるレイパー。


 振り返って見れば、希羅々が吹っ飛ばされたシュヴァリカ・フルーレを拾い、肩で息をしながらもポイントをレイパーの方へと向けていた。


 この巨大なレイピアは、希羅々のスキル『グラシューク・エクラ』により出現したもの。一時間に一発しか使えないが、その分絶大な威力を誇る、希羅々最大の技。


 希羅々が途中でレイパーから距離をとったのは、逃げるためではない。二人が敵を引き付けることにより生まれた余裕でこのスキルを使い、レイパーを倒すためだった。


 そしてその目的通り、巨大なレイピアに貫かれたレイパーは程なく、爆発四散する。


「ふん……全く、情け無いですわね……」


 結局一人でどうにも出来なかったことに、希羅々は苛立つ心を抑えきれない。


 思わずそう呟きながら、片膝をつくのだった。


「あっ! 大丈夫ですかっ?」


 雅がそんな希羅々を見て、血相を変えて近づいてくる。


「立てますか? 誰かを呼んだ方が――」

「い、いえ……心配には及びませんわ。助かりました、ありがとう」


 差伸ばされた雅の手。


 しかし希羅々はその手は取らず、ふらつきながらも一人で立ち上がる。


 希羅々は雅の姿を眺めながら、心の中で首を傾げた。


「あの……どうしました?」

「……桃色の髪に、剣銃両用のアーツ……あなた、もしかして――いえ、それよりも!」


 しかし、こんな話をしている場合では無い。希羅々は慌てて空中で右手の人差し指をスライドさせる。


 突如、空中に現れるウィンドウ。


 それを見て、レーゼは目を丸くする。


 希羅々の制服の内ポケットに入った小型デバイス『ULフォン』。生体情報が登録された人間の意思一つで、他人と通話したりネットワークに接続したりと様々なことが出来る機械だ。


 これにより、希羅々は空中に地図を出す。


 地図上にはマーカーがあり、優や愛理、志愛や真衣華の位置を示している。


「……近くの浜と、変電所の裏手で、(わたくし)の友人がレイパーと戦っています。申し訳有りませんが、加勢をお願い出来ませんこと?」

「まだこの近くにレイパーがっ?」

「ええ。今倒したレイパーの他に、三体。一体はどこかへ逃走しましたが……」

「まずいわねミヤビ。私達が追っていたレイパーもいる。数が多い……」

「一旦、この子のお友達を助けましょう。私達が追っていた方は、あまり積極的に人を襲うつもりは無さそうですし……」


 二人の会話を聞いていた希羅々は、「ミヤビ……やはり……」と呟いてから、コホンと咳払いをする。


「私は浜の方へと向かいますわ。お二人はもう片方をお願い致します。変電所へは、道を出て真っ直ぐ行けば着くはずです」

「ちょっとあなた、その体で戦う気? 私も浜の方へ行くわ!」

「あなた方もボロボロではありませんの……」


 二人の様子から、激戦を終えた後だと察する希羅々。


 二人を見ていれば、自分の方がいくらかマシに思えてしまう程だ。


 しかしそれは希羅々の主観。客観的に見れば、希羅々も充分に疲労困憊と言える状態だ。


「大丈夫! 彼女、強いですから! きっと、何とかしてくれます!」

「……あ、あなたねぇ」

「じゃあ、私行ってきます! レーゼさん、そちらはお願いしますね!」

「ええ、任せなさい! ミヤビも気を付けて!」


 笑顔でサムズアップした後、変電所へと向かって走り出す雅に、希羅々は呆れたような視線を向ける。


「じゃあ、案内してもらえるかしら?」

「え、ええ。こちらですわ!」


 そう言って、希羅々とレーゼは走り出すのだった。

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