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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第7章 新潟市西区~中央区
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第57話『蛇蛙』

 優達が襲撃を受けた場所から北西に向かって道なりに進むと、海岸がある。


 夕方だからか、周りには人はいない。


 砂浜は広く、少し足を取られるものの、戦うには不自由しないだろう。


 そこで、権志愛と橘真衣華は、キリギリス顔のレイパーと交戦していた。


 先程まで戦っていた時は、真衣華の手には片手斧が一挺しか無かったが、今は両手に一挺ずつ、合計二挺の片手斧を持っている。


 武器が増えているのは真衣華のスキル『鏡映し』が理由だ。アーツに当たった光が作り出した影から、同じアーツを創り出す効果がある。要はアーツをコピー出来るという訳だ。


 創り出したアーツは三十分で消えてしまうが、性能はコピー元のアーツと全く同じ。


 これにより手数を増やして戦う、というのが、真衣華の基本戦術である。


 志愛の持つ棍型アーツ『跳烙印・躍櫛』が力一杯にレイパーの腹部へと突かれるが、それがヒットする前にレイパーは片手で棍を掴み、攻撃を止める。


 そんなレイパーの背中に襲いかかる、真衣華の斧。


 Xの字を書くように素早く二連撃を繰り出され、思いかけず走る激しい痛みにレイパーは仰け反ってしまう。


 なよっとした真衣華の体からは、想像も出来ないパワー。


 別に真衣華の腕力が見かけによらない……という訳ではない。


 これは真衣華が持つ()()()()()()()()『腕力強化』により、腕力を上げたからである。


 橘真衣華は割と珍しい、二つのスキルを持つ女性なのだ。


 実は彼女は、七年前までは今使っている『フォートラクス・ヴァーミリア』ではなく、別のアーツを使っていた。『鏡映し』はそのアーツから与えられたスキルだったのである。


 そちらのアーツは修復不可能なほど壊れてしまったのだが、与えられたスキルまで無くなるわけではない。


 二つのアーツから認められ、スキルを与えられるというのは相当な労力を要するのだが……身体能力には未熟な部分が目立つにも関わらず、真衣華はそれを成し遂げた。


 周りの人はこのことを知ると「彼女にはセンスがあるのだろう」と考えるのだが……真衣華はそうは思っていない。実は自分でも、何故スキルを与えられたのか分かっていなかったりする。


 それでも攻撃的なこの二つのスキルは使いどころも分かりやすいため、体は貧弱でもレイパーと戦えるまでに真衣華の実力を底上げしていた。


 が、しかし。


 そんな橘真衣華と、身体能力に優れた権志愛を持ってしても、このレイパーには苦戦を強いられている。


 今の二連撃でダメージを受けた様子を見せたものの、レイパーはまず掴んでいる棍を自分の方へと引っ張り、つんのめった志愛を蹴り飛ばす。さらに振り返り、お返しと言わんばかりに真衣華へボディブローをかます。


 咄嗟にアーツで防ごうとするも間に合わず、レイパーの拳は真衣華の鳩尾の少し下くらいに減り込み、骨を軋ませる音と共に、真衣華の体は弓なりに飛んでいってしまう。


「真衣華ッ!」


 志愛の呼びかけが耳に届くと同時に背中を浜に強く打ちつけられ、肺の中の空気が全部吐き出されてしまったかのような感覚が襲う。


 大きく咳き込む真衣華だが、その度に殴られた部分が痛み、顔を顰めた。


 そんな真衣華へと近づこうと一歩踏み出したレイパーだが、その後ろから志愛がアーツで殴りかかる。


 蹴り飛ばされた志愛とて体は辛いが、それでも我慢出来ない程では無い。


 後頭部を強く殴られるも、何事も無いかのようにレイパーは振り向き、志愛に殴りかかる。


 だがその攻撃は、腕の側面を棍で叩き、軌道を逸らすことで躱す志愛。


 そして素早くレイパーの足を払うように棍を叩きつけ、続けざまに顔を棍で殴りつける。


 レイパーから反撃の左ストレートが飛んでくるが、一旦アーツを投げ捨てバク転して攻撃を避けると、側に落ちていた流木を拾って再び『跳烙印・躍櫛』に変化させる。


 志愛は棍を右の脇に抱え、腰を落としながらも、顔を顰めていた。


 自分の攻撃が、あまり効いていない様子だからである。


 殴りつけたり、払ったりするよりも、先端の紫水晶で『突く』方が威力があると分かっているのだが、『突く』という攻撃は軌道を読まれやすく、故に避けられやすい。


 中々、この『突く』攻撃を当てるチャンスが無いのだ。


 近づいてくるレイパー。レイパーが一歩前に進む度に、志愛は一歩後ずさる。


 どうすれば良いか……そう思っていた、その時だ。



 突如、真衣華と志愛の間に、巨大な魔法陣が出現した。



「何ッ? なんダッ?」


 真衣華も志愛も、それが何だかは分からない。


 この魔法陣は魔王種レイパーが他のレイパーを召喚する際に出すものなのだが、そんなことは知る由も無い二人。


 キリギリス顔のレイパーも突然出現したこの魔法陣に驚いているのか、動きを止め、巨大な魔法陣のあちらこちらに忙しなく視線を滑らせていた。


 何だか分からないが、何かヤバい。


 そう直感する志愛と真衣華。


 そして、魔法陣の中心部から、下から浮き出るように何かが出現する。


 現れたのは、全長二メートル程の、暗い緑色をした巨大なヒキガエル。


 分類は……魔王種レイパーが召喚したレイパーのため、異世界的に言えば『トード種』だろう。


 出現したトード種レイパーを見た瞬間、キリギリス顔のレイパーは一目散に逃げ出し、志愛と真衣華も急いでその場を離れ、距離を取る。


 逃げ出すキリギリス顔のレイパーと、戦闘の意思を見せる志愛と真衣華。


 トード種レイパーは逃げたキリギリス顔のレイパーには目もくれず、緊張した面持ちの志愛と真衣華を交互に見ると、低い鳴き声を上げて志愛の方へと近づき始めた。



 ***



 一方、ここは西海岸公園。噴水広場やバスケットコートがある公園である。


 志愛と真衣華が戦っているところからそう遠くない場所。


 その公園の芝生が広がるエリアで、桔梗院希羅々は烏顔のレイパーと激戦を繰り広げていた。


 レイピア型アーツ『シュヴァリカ・フルーレ』でレイパーからの乱打をいなしながら、隙を見て突きを繰り出すも躱される。


 中々決定打を与えられないことに苛立ち、玉のような汗を浮かべながらロングの髪を靡かせ果敢に攻め込む。


 しかし苛立ちから生まれた焦り故か。無理に踏み込み、攻撃を仕掛けた瞬間に、レイパーの拳がカウンター気味に希羅々の腹部に入る。


 吹っ飛ばされ、地面を転がりレイパーから離れていく希羅々の体。


 顔を歪めながらも、アーツを持つ手に力を込め、ゆっくりと立ち上がる。


 彼女の目はまだ死んでいない。


 が、動きは少し鈍い。


 今日は午後、学校で戦闘訓練の授業があり、激しく体を動かしていた。


 故に最初から体に疲労が蓄積されている状態での戦闘。


 一対一の戦闘では、どうしても遅れをとってしまうのも仕方の無いことだろう。


 敵の攻撃に耐えながら、仲間の援護を待つというのも手ではあるが、希羅々のプライドがそれを許さない。


 タイマンを承知で引き受けたのは自分。ならば何としてでも一人で倒そうと、そう思っていた。万全の状態ではない、というのは言い訳でしかない。


 追撃のために近づいてくる烏顔のレイパーの、一挙手一投足をしっかり見る希羅々。


 アーツを構えたままピクリとも動かない彼女に、レイパーは右拳を振り上げる。


 が。


 攻撃動作に入るため、腕を上げた瞬間を彼女は見逃さない。


 大きく踏み込み、振り下ろされる拳を搔い潜りながら、がら空きになった右脇腹を斬りつける。


 入れ替わる二人の位置。


 さらに背中に一発入れようと振り向くが、既にレイパーが先に体を向けており、蹴りの動作に入っていたためにバックステップで希羅々は攻撃を躱す。


 少し後ずさり、敵との距離を取りながら希羅々は舌打ちをした。


 動きを止めるか、せめて鈍らせることさえ出来れば、自身のスキルにより倒しきれる自信があるが、烏顔のレイパーの筋肉はまるで鋼のように硬く、攻撃が通らないことにイライラしていたのだ。


 だが、諦めるわけにもいかない。


 攻撃が通らないのなら、通るまで続けるまで、と希羅々が再び踏みこもうとした時。



 突如、希羅々の立っているところを中心として、巨大な魔法陣が出現した。



「――っ?」


 慌ててその場を飛び退き、離れる希羅々。


 烏顔のレイパーが何か仕掛けてきたのか、とも思ったが、レイパーの方もこの魔法陣の出現に驚いた様子を見せており、すぐに違うと分かった。


 実は同じ頃、志愛と真衣華のところでも魔法陣が出現したのだが、希羅々はそんなことは知らない。


 警戒心を緩めず、レイピアを構える希羅々。


 そして、魔法陣の中心部から、下から浮き上がるようにレイパーが出現する。


 現れたのは、全長三メートル程の、紫色の蛇。大きな襟があることから、コブラだ。


 両襟から人間の腕のようなものが生えており、手には二本のサーベルを握っている。刃渡りは実に一メートル。口を開けると、白い液体が地面に零れ、落ちた瞬間に蒸発したかのような音を立てて煙が上がる。毒だ。


 こいつも魔法陣から出現したため、魔王種レイパーが召喚したレイパーだ。故に分類は『ナーガ種』。


 烏顔のレイパーは突如出現したナーガ種レイパーを見ると、慌てたように逃げ出す。


 しかし希羅々はそれを分かっていながらも、烏顔のレイパーを止めることが出来ない。


 何故なら、ナーガ種は希羅々を見ると、獲物を見つけたと言わんばかりの勢いで近づいてきたのだから。

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