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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第58章 オートザギア魔法学院
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第513話『文字』

「……参ったな」


 侍従のケリーヌ同行の元、シンディ捜索を再開した愛理とスピネリアだが、それから約三十分後。


 ここはまたしても学校のトイレの中で、愛理が髪を手でワシャワシャとさせて、そう唸る。


 その様子からも分かる通り、捜索の進展は無し。シンディの姿は、影すら見つからない。


「探し方を変えましょう。シンディは、直前までテイラー先生から何か頼まれ事をしていたのは間違いない。だから、何を頼まれたのか、そこから辿ってみない?」

「テイラー先生……シャルロッテさんと同じ頃にいなくなったという、教師のことですね?」


 スピネリアの言葉に、ケリーヌがそう確認する。今分かっていることの仔細は、概ね二人から聞かされていた。


「そうよ。テイラー先生は魔法薬学の先生だけど、担当は他の学年よ。普段私達に授業をする機会は無い。どうしてシャルロッテに声を掛けたのかしら?」

「……突発的なことで、偶然シャルロッテが近くにいたから頼んだ、というところでしょう。となると、例えば荷物の運搬か? 魔法薬学なら、実験に使う道具がかさばるはずですから」

「なら、普段テイラー先生が授業をしている実験室に向かってみますか?」


 ケリーヌの言葉に、二人は頷く。




 ――そして、


「うわ、なによこの臭い……?」


 テイラー先生が、普段授業で使う実験室に来た三人。中に入るや否や、スピネリア達は顔を顰める。乳製品や生ごみが腐ったような、とても耐えきれない酷い臭いが充満していた。鼻が曲がりそうとはこのことである。


「姫様。廊下に出られた方が……」

「別にいいわよ。それにしても、実験に失敗でもしたのかしら? 換気すればいいのに。……シノダ? どうしたの?」


 臭いにばかり気を取られていたスピネリア。しかし不意に愛理の顔が視界に映り、異臭に耐えるのとは別の意味で、スピネリアは眉間に皺を寄せた。


 愛理に声を掛けたスピネリアの声色は、いつもより少し低かった。警戒心というやつか。辺りをしきりに見回す愛理の顔を見たら、自然とそんな声になったのだ。それくらい、愛理からは剣呑なオーラが出ていた。


「……この臭い、どこからです?」


 そう尋ねる愛理の言葉。口調は丁寧だが、スピネリアの「どうしたの?」という質問には答えていない。


 普段、スピネリアに対して不敬にならないように気を付けている愛理の、そんな対応。それが、あまりにもイレギュラーで、スピネリアもケリーヌも一瞬、言葉を詰まらせた。


 一体どうしたというのか。……二人が思わず顔を見合わせると、


「この臭い……死臭じゃありませんか? 死体が長いこと放置されると、こんな臭いがするんです」

「……え?」


 王女という立場上、死体の臭いなんて知らないスピネリア。だが愛理は今までに嗅いだことがあったから分かった。


「姫様、ここでお待ちを。シノダさん、一緒に臭いの発生源、探しましょう」

「お願いします。ここまで酷いと、虫が集まっていそうなものですが……」


 あまりにも部屋に充満し過ぎていて、どこから漂ってくるのか分からない有様だ。愛理とケリーヌは、しらみつぶしに探し始める。


 そして、五分もしない内に、ケリーヌが「あっ」と声を上げた。


「シノダさん、もしかすると、天井裏では?」

「……言われてみると、確かにそうかもしれない。どこか入れる場所は……あった。すみません、脚立か何か、ありますか?」

「シノダ、これに乗りなさい」


 スピネリアが、得意の氷魔法で足場を作ると、愛理はそれに乗り、点検口を開ける。


「げほ、げほっ……お、恐らくビンゴだな」


 そこから一気に漏れてきた腐敗臭に咽る愛理。


 さらに、


「…………」


 点検口の辺りに、引き摺られたような血の痕が残っている。しかも、新しそうだ。


 愛理は、この中の様子を想像して一瞬躊躇ったものの、流石に放っておくことも出来ないと覚悟を決め、点検口から天井裏へと侵入。


 臭いもそうだが、埃も酷い。手で鼻を覆いながら、ライトで中を照らした瞬間、


「おわっ!」

「シノダっ?」

「何か見つかりましたかっ?」


 いきなり上がった愛理の慌てた声に、スピネリアとケリーヌが血相を変える。


 だが、愛理は二人の言葉に、すぐに返事が出来なかった。


 無理もない。そこにあったのは、愛理の想像を遥かに超えるものだったから。天井裏にあったのは――




 胴体が上下に無残に切断された、見知らぬ女子生徒の惨殺死体だったのだから。




 思わず顔を背ける愛理。胃の中の物が、一気に外に出そうになるのを抑えられたのは奇跡か。あるいは「死体があるかも」と想像していたから故か。蛆なのかなんなのか分からない蟲が湧き、それらが蠢いている音は聞こえないフリをした。とても耐えられそうになかったから。


(な、なんだこれは……。何時からあった? 今までどうして見つからずに? ……ん?)


 チラっと見えた、足元の傷。……いや、それは文字。何か硬いもので引っ掻いたのか、『YY』と書かれている。自然に付いた傷のようには見えない。


(……いや、それより……!)


 その文字の意味を考える前に、愛理は逃げ出すように、天井裏から実験室へと戻る。あれ以上あそこにいたら、頭がおかしくなりそうだった。


「ちょっとシノダ、酷い顔よ! 一体――」


 と、スピネリアがそこまで言った時。




 ガチャリ……ガチャリ……。




「……何の音です?」


 不意に聞こえてきた、ガチャガチャとした金属音に、ケリーヌが眉を寄せる。


 瞬間、実験室の戸がゆっくりと開くと――




 そこに、異形の怪物が立っていた。

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