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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第7章 新潟市西区~中央区
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第55話『新手』

「ミヤビの世界……ここが?」

「……はい、間違いありません」


 魔王種レイパーと戦闘後、鏡――ガルティカ遺跡で雅が拾い、レイパーに奪われ、そして天空島の神殿内の祭壇に置かれていた、あの鏡――が光を放ち、それに飲み込まれ気を失った雅とレーゼ。


 目が覚めたら見知らぬ砂浜にいた……と思っていたのだが、落ち着いて周りを見渡してみたところ、雅はここが、自分が元々暮らしていた世界、日本の新潟県であると気が付いたのだ。


 レーゼが念のため通話の魔法でセリスティア達に連絡をとろうとしたが、一向に繋がらない。異世界の仲間達に助けを求めるのは不可能だと知る。


 なお二人の目の前に映るのは日本海。遠くに見える島は佐渡島だ。


「島の隣の、あの白い物体は?」

「レイパーです。百年くらい前に突然現れて以来、あそこから全く移動してないんですけど……」

「随分大きなレイパーね。さっきまで戦っていたあの怪物よりも、ずっと……」


 その巨大なレイパーを見つめながら、レーゼは眉を顰める。


 あのレイパーの分類は『ラージ級ランド種』。長年、倒す方法が見つからず放置されたままになったレイパーだ。現状、自発的に人間に襲い掛かるようなことは無いが、こちらから危害を加えようとすれば暴れ出し巨大な津波を発生させ、佐渡や近隣国へと甚大な被害をもたらすため、止むを得ずそのままになってしまっている。


「今は何日なんでしょうか……時間は夕方、多分四時くらいだと思うんですけど……」

「あなたが私達の世界に来てから、二ヶ月くらいよね。時間の流れが同じなら、それくらいの月日が流れているはずだけれど……」


 雅が異世界に転移したのは2221年の四月五日。レーゼの言う通りならば、今は六月の初め頃だと推測する雅。


「そうなら良いのですが。浦島太郎状態になっていた場合が、一番まずいですねぇ……」

「ウラシマタロウ状態? 何それ?」

「こっちの世界の御伽噺から生まれた言葉です。気が付いたら自分だけが過去に取り残されていたっていう状況で使われる言葉なんですけど……」


 そうは言いながらも、雅はあまり慌てた様子は見せない。


 空気の匂いや、波の音、遠くに見える風景……それら全てが、雅にここが自分の元いた時間軸からそう遠くないことを、直感させていたからだ。



 事実、今は2221年六月二十一日の木曜日。午後四時三分である。雅の推測は、大きくは外れていない。



「一旦、私の家に向かいましょう。少し歩かないとですけど……大丈夫ですか?」

「別に平気よ。ありがとう」


 レーゼは少し微笑んで頷く。


 勿論、平気なはずは無い。


 何てこと無さそうに雅も話してはいるが、二人とも疲労困憊であった。


 なにせ今日一日、激戦続きだったのだ。体は悲鳴を上げている。


 それをなるべく表に出さないようにしているのは……まだ安心して力を抜いて良い時では無いと思っているからである。


 見知らぬ土地に飛ばされたレーゼは勿論、雅とて、きちんと状況を把握し、ちゃんと自分がいるべき時間軸のこの世界に帰ってきたのだと確信が持てなければ、安心することも出来ないでいた。


 雅は、何気なく、海とは反対側の、街がある方に目を向ける。


 兎にも角にも、真っ先に会いたい親友の顔が脳裏に浮かんでいた。


 彼女の顔が見たい、きっと心配しているだろうから……そう思う雅。


 二人は落ちていた自分達のアーツ『百花繚乱』と『希望に描く虹』、そして鏡を拾い、目的地へ向かい一歩を踏み出した――その瞬間。


「――っ!」

「これはっ?」


 二人の目の前の地面に、突如巨大な魔法陣が、黒い光を放ちながら出現する。


 魔王種レイパーがレイパーを召喚する際に出す、あの魔法陣だとすぐに悟った雅とレーゼはアーツを構え、顔を歪める。


 アーツの重みが、ずっしりと腕に圧し掛かり、全身からも軋むような音が鳴る。


 それでも戦闘態勢がとれるのは、気力と根性で支えているが故。


 まだ戦いが終わっていないと分かり、二人は必死で体に力を入れ、朦朧とする頭も回す。


 魔法陣が出現して、少し遅れてから雅は辺りに視線を配る。


 ここでようやく、魔法陣があるのなら、近くに魔王種レイパーもいるのではと思ったのだ。


 しかし、奴の姿どころか、影すら見当たらない。


「ミヤビっ! 来るわよ!」


 そうこうしている内に、魔法陣の中心部に何かが下から浮き出るようにして出現する。


 全長二メートル程の、赤い眼をした茶色い熊のようなレイパー。指からは、長さ七十センチ程もある鋭い爪が生えている。


 眼が光り輝いた瞬間、レイパーは咆哮を上げ、二人に向かって突っ込んでくる。


 その様子は、まるで神話やゲーム等で登場する、凶戦士のよう。


 分類は『ベルセルク種』だろう。


 突っ込んできたレイパーの攻撃をまずはアーツで防いでから反撃に転じようと二人は身構える。


 しかし――


「――っ?」


 何故かレイパーは二人を通り過ぎて、どこかへと走り去ってしまう。


 振り向き、猛スピードで自分達から離れていく敵の背中を見ながらも、呆気に取られる二人。


 しかしそれも一瞬のこと。


「レーゼさん! 追いましょう!」

「ええ!」


 二人は慌ててレイパーの後を追って、走り出した。

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