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第510話『疑惑』

「ファム!」

「あぁ、ノルン――おわっ?」


 人工種カメレオン科レイパーを倒した直後。洞窟内。


 地上に舞い降りたファムに、ノルンが勢いよく抱きついた。その勢いのあまり、押し倒されそうになってしまうファム。それでもノルンは構わず、ファムの体を強く抱きしめる。


「馬鹿! 本当に……心配したんだから!」

「……ごめん」


 震えるノルンの手。それだけで、どれだけ気を揉ませたか嫌でも分かってしまう。


「ミヤビ達にも、心配かけたよね」

「大変だったんですよ、もう。……でも今は、ノルンちゃんの側にいてあげて下さい」

「……うん。事情は、カリッサが全部説明してくれるから。――そうだよね?」


 バツの悪そうな声から一転、催促するような声で、ファムはカリッサに目を向ける。睨まれたカリッサは、一瞬言葉を詰まらせたが、それでもコクンと頷いた。


「カリッサさん……」

「ごめん。ちゃんと説明する。でもその前に、どうしても確認しないといけないことがあるんだ。ちょっと待っていてもらってもいい?」


 そう言うと、カリッサは倒れたアラマンダの元へと駆け寄るのだった。




 ***




「――ンダ! ……マンダ! アラマンダ!」

「――ぁ、ぅん?」

「やっと起きたね、こんの愚弟が!」


 体を揺らされる感覚と、自分の名前を呼ぶ声に、アラマンダは意識を取り戻す。


 目覚めて早々、姉に罵倒された彼は、自分の体に目を向けて、唇を噛む。――もう、人工レイパーの力は消えていた。


「アラマンダ。もう逃げられないからね。白状しなさい。……あんたに、こんなことさせたのは、誰?」

「…………」

「答えないなら、質問を変えるけど――私の知っている人の中にいる?」

「……カリッサさん?」

「ごめんね、ミヤビさん。私も疑っているわけじゃないんだけど、でも、ここだけは本当にはっきりさせておかないといけないことだからさ。で、どうなの?」

「ここで僕が『違う』って言ったら、姉さんは信じてくれるの?」

「何年あんたの姉やっていると思ってんの。目を見れば、嘘言っているかどうかくらい分かるわ」

「……敵わないな」


 アラマンダは観念したようにそう呟くと、「僕に指示を出していたのは、姉さんの知り合いじゃないよ」と答える。


 カリッサはそう答えたアラマンダの目を、しばらくジッと見て……「そっか」と頷く。


「本当は今すぐそいつのことを教えてもらいたいところだけど……その前にやらないといけないことがあるから、後にする。――ミヤビさん」


 アラマンダから雅に向き直ったカリッサ。


 そして、




「ごめん。君達には、色々謝らないといけないことがある。依頼のこととか、たくさん嘘を吐いて、危険に晒してしまったこと、詫びさせて欲しい」




 そう言って、カリッサは直角に頭を下げる。


「カリッサさん……これは一体……?」

「実は、アラマンダの悪事を止めるために、君達のことを利用していたんだ。……皆が集まったら、きちんと最初から、全部説明する」

「……分かりました。正直、状況が呑み込めないので、今すぐにでも知りたいって気持ちはあるんですけど……一先ず、明日にしませんか?」


 雅の提案に、カリッサは目を丸くして「えっ?」と声を上げる。


 そんな彼女に、雅は肩をグルグル回しながら、痛みに耐えるような顔をする。


「もう遅いですし、戦いで疲れちゃいましたし……。今話を聞いても、頭に入らないかも。それにカリッサさんも、頭を整理する時間が必要ですよね?」

「でも……」

「後で皆が来てから、もう一回説明するのも手間でしょう? 大丈夫。……今のカリッサさんなら、明日になっても、全部ちゃんと話してくれるって分かります。だって――」


 言いながら、雅は自分の胸に手を当てる。




「今、私もカリッサさんの『光封眼』のスキル、使えるようになりましたから」




 一日一回だけ誰かのスキルを使える雅の『共感(シンパシー)』。


 だがこれは、誰のスキルでも使える訳ではない。そのスキルの持ち主が、自分に心を開いてくれた場合に限る。


 その判定は結構緩いのだが、今までは使えなかったカリッサのスキルが、今ここで使えるようになった。それはつまり、カリッサの心境が変わったことを意味する。


 雅にとっては、それだけで充分だった。


「アラマンダさんを人工レイパーにした元凶を、私は知っています。きっと、長い話になると思う。……だから、明日きちんと話をしましょう」

「分かった。……ファムちゃんの目が怖いけど、正直助かるよ。アラマンダには、他にも色々聞きたいことがある。お互い、情報交換といこう」


「ええ」と雅は頷く。


 カリッサが、改めてアラマンダの側に座り込む中、


【ところでミヤビ。気づいている?】

(ええ。……アラマンダさん、普通に目を覚ましましたね)


 柚希の一件があったため、アラマンダも昏睡状態に陥るとも思っていた雅。


(……やっぱり柚希ちゃんが子供だから? 心身共に成熟しているアラマンダさんだったから、妙な副作用も出なかったってことなんでしょうか?)

【……多分。アラマンダさんはエルフの中じゃ若いと言っても、年齢だけ見れば百歳は超えているはずだからね】

(歴史は変わってしまいましたけど、変身者が目覚めないなんて事例はあれが初めてです。やっぱり副作用が出るか出ないかは、子供か大人か、という違いなんでしょう)

【問題は、クゼがなんで子供を狙ったのか……。逆なら分からなくもないけど】

(子供に薬が渡ることが、久世にとって想定外の事態だとは思いません。必ず何か理由があるはずです)


 戦力面を考えれば、子供よりも大人の方が良いに決まっている。にも拘わらず、子供を人工レイパーにしようとしていることに、雅とカレンは、改めて戦慄するのだった。

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