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第509話『集羽』

【ミヤビ! この時間なら遠慮はいらないよ!】

「はい!」


 カレンの言葉に、雅が声高にそう叫ぶと、彼女の体から五線譜が飛び出てくる。


 午後九時半。もうすぐ日付が変わる頃。雅のスキルや変身は一日一回という制限はあるが、日付が変わればリセットされる。カレンの言う通り、この時間ならば、後のイレギュラーの可能性を深く考慮する必要は薄い。


 目の前で、人工種カメレオン科レイパーの姿が消えていく。この夜の闇の中、体色を周りの風景と同化させてしまえば、見つけるのは困難になるだろう。


 だが――


「ッ?」


 宙を舞う五線譜は、例えレイパーが消えても、居場所を見失うことはない。五線譜が人工レイパーに激突し、弾き飛ばした次の瞬間、


「ノルンちゃん! 今です! 奴を洞窟の中に!」

「はい!」


 桃色の燕尾服姿へと変身した雅の指示に、ノルンが声を張り上げる。


 そして黒い節くれだったスタッフ『無限の明日』を、――今は姿が見えなくなったが――人工レイパーがいるであろう場所へと向けると、緑色の風が集めて作った巨大な球体が放たれる。ノルンの得意魔法、ウィンドボールだ。


 響く爆音。直撃した手応え。洞窟の中を転がるような、鈍い音。


 上手く逃げ場のない洞窟内へと敵を吹っ飛ばせたことを確信し、皆も一斉にそこへと入っていく。


「デューラさん! 今の内に、里へ!」

「分かった! ――すまない! このことは、必ず皆にも知らせる!」


 ノルンの言葉に、デューラは深く頭を垂れると、大急ぎで里へと走り出した。


 ノルンが洞窟の中に入り、最後にアラマンダが隙を見て逃げ出さないように、入口を風魔法で破壊し、瓦礫で塞ぐ。


 さぁ、戦闘開始だ。




 ***




 洞窟の奥。コートマル鉱石の原石が置かれた大広間。


 エネルギーを多量に含んだ鉱石の山。それを初めて見たであろう雅、ファム、ノルンからしてみれば、何も無ければ圧倒されていたであろうその光景。だが、そんな余裕は今は無い。


「皆さん! 上から来ます!」


 コートマル鉱石の山を見ながら叫ぶノルン。瞬間、そこから地上にいる者達へと向けて、白い粘液が飛んでくる。接着力が高く、固まるまでの時間も早いその粘液は、喰らってしまえばその場から動けなくなってしまうだろう。


 散り散りになって避けていく四人。ノルンが『未来視』のスキルで危険を先に伝えたことで、ギリギリ回避が間に合ったのだ。


 だが、


「――っ? ファム! ごめん!」

「えっ? ――ぃだっ!」


 突如、空中にいるファムの体に、ノルンの放ったウィンドボールが直撃し、吹っ飛ばされていく。


 威力を抑えた魔法攻撃だが、いきなり何でフレンドリーファイアなんかするんだと、ファムが文句を言おうとした次の瞬間。




 コートマル鉱石の山の一部が、いきなり轟音を立てて崩れだした。




「ちょ! えっ? ノルンっ?」


 さながら岩雪崩のように降り注ぐコートマル鉱石の欠片。その先にいるのは、ノルン。


 そして鉱石の雪崩は、先程ファムがいたところにも通過している。先のノルンの一撃は、ファムをそこから逃がすためのものだったのだ。


 だが、何故山が崩れたのか。


「しまった……! ノルンちゃん!」


 その答えに、カリッサはすぐに気づく。コートマル鉱石の置かれている場所の近くの地面に、二つの穴が出来ていた。カリッサ達には見えないが、片方の穴から一本の()が飛び出している。


 この柱は、実は人工レイパーの足。


 足を伸ばし、肥大化させて作ったもの。それが鉱石を砕いていた。


 歴史が変わったことで、人工レイパーに備わった体の変形機能は、訓練次第ではこういうこともできる。


「ノルン!」


 青褪めるファムの前で、ノルンはあっという間にコートマル鉱石の破片の下敷きになってしまう。


 ファムが声を上げ、助けようとそちらに向かうが、


「こ、こっちは大丈夫……!」

「ノ、ノルンっ!」


 ギリギリのところで、風魔法によるドーム状の盾を作り出していたノルン。瓦礫の山の下で身動きは取れなくなっているが、大きな怪我は無かった。


 ホッと胸を撫でおろすファム。


 その近くで――


「カリッサさん! 危ない!」

「えっ? きゃっ!」


 ノルンの方に気を取られていたカリッサ。そんな彼女を、雅が突き飛ばす。


 刹那、雅が今度は、壁際へと吹っ飛ばされていく。


 その体に着いているのは、白い粘液。


 実は、人工レイパーがカリッサに向けて放っていたもの。雅もノルンに気を取られていたが、カレンがカリッサの危険を察知し、雅に伝えていたのである。最も、攻撃の身代わりになることしか出来なかったが。


「く……動けない……!」

【ミヤビ! アーツが!】

「えっ? ――しまった!」


 すぐに硬化した粘液。体と右腕、左足が完全に壁に固定されてしまっている。


 そんな雅のすぐ側には、彼女の持つアーツ『百花繚乱』。今の粘液攻撃を受けた際に、うっかり手放してしまったのだ。


 それでも、雅は叫ぶ。呆然とした、カリッサに。


「カリッサさん……早くアラマンダさんをっ!」

「ミヤビさん……なんでっ?」

「カリッサさん! ミヤビさんは、ずっとあなたのことを信じていましたよ!」

「――っ!」


 ノルンの言葉が、カリッサを貫く。


「君は……本当に……なんで……!」


 私は君を利用していたんだぞ、という言葉を、カリッサはグッと飲み込む。


「……ありがとう!」

「二人とも、今助ける!」


 まんまとやられてしまったノルンと雅。そんな二人を助けようとファムがそちらへと向かおうとするが、


「ぉわわっ?」

「ア、アラマンダっ!」


 硬化した粘液を破片状にして飛ばし、さらに腕も伸ばして攻撃してくる人工レイパーに、ファムとカリッサは意識をそちらへと向けざるを得ない。四人同時に相手をするのは不利。故に、まずは雅とノルンの動きを封じ、ファムとカリッサから始末しようという心づもりだ。


 敵の激しい攻撃の乱打に、ファムとカリッサは何とかそれを凌いでいく。しかし、反撃までは出来ない。カリッサは得意の光魔法で防壁を作るが、即席で作った防御魔法は、敵の攻撃に長くは持たない。ファムは翼型アーツ『シェル・リヴァーティス』で洞窟内を飛び回って直撃は躱すが、姿の見えない腕の攻撃は勘で避けるしかなく、大きく離れる余裕もない様子。


「ミ、ミヤビさん! 今、魔法で破壊します……!」


 ノルンは雅同様、アーツを瓦礫の外に落としてしまっていた。手を伸ばせばそれが届きそうなところにあり、今躍起になって拾おうとしているところだ。


「ノルンちゃんっ? ――ノルンちゃんから見て、右後方の上に積んである鉱石をどかしてください! それでノルンちゃんが抜け出せるはずです!」


 ノルンに向かって、雅がそう叫ぶ。


 他の人のスキルを、一つにつき一日一回だけ使える『共感(シンパシー)』のスキル。それでファムの『リベレーション』を発動し、ノルンが瓦礫のどこをどうすれば自由になれるのか、教えたのだ。


【ミヤビ! 『鏡映し』と『アンビュラトリック・ファンタズム』で、瓦礫の方を何とか出来ない?】

(駄目です! この体勢だと、力加減が難しくて、下手するとノルンちゃんまで巻き添えにしちゃいそうです! 私の方の粘液だけなら何とか出来ると思う――けど、それをするなら!)


 瞬間、緑に光る雅の眼。


 優の『エリシター・パーシブ』……これを発動した。


 敵の位置を把握できるこのスキルは、姿を隠していようが関係ない――


「――そこか!」


 粘液から逃れていた雅の左腕が動く。


 直後、雅は()()()()()()を使っていた。左手に出現するもう一本の百花繚乱と、一組のワームホール。カレンがさっき言っていた、『鏡映し』と『アンビュラトリック・ファンタズム』だ。アーツを増やせるスキルに、ワームホールから遠隔で敵に攻撃できるスキル……それで、位置を特定した人工種カメレオン科レイパーの背中を、剣で突く。


 腕の力だけに頼った一撃では、大した威力は出ない。だが、


「ッ?」


 中々に鋭い痛みと重い衝撃が背中に走り、人工レイパーは大きく吹っ飛ばされる。その威力たるや、今まで背景に同化していた姿が、露わになる程。


 腕力を上げる『腕力強化』と、敵の死角から当てた攻撃の威力を上げる『死角強打』のスキル……雅はこれらのスキルも使っていたから。


「二人とも! こっちは自力で何とかします! 今のうちに彼を!」

「……うん、分かった!」

「ノルンの仇!」


 姿を見せた人工レイパー。追撃できる数少ないチャンス。今はまた消えようとしているが、居場所のあたりはかなり正確についている。


 そこを逃す手は無い。


 ファムが白翼をはためかせて一気に加速し、敵に跳び蹴りを喰らわせ。


 カリッサのアミュレット型アーツ『星屑の瞬き』が輝き、彼女の手から、弟相手に撃つにはやや容赦のない大きさの光弾を直撃させた。


 吹っ飛ばされる人工種カメレオン科レイパー。


 それでも、姿を消しかけていたお蔭で、攻撃は急所には当たらない。体を背景に同化させたまま、人工レイパーは上手く受け身を取って地面に着地すると、お返しと言わんばかりに舌と腕を伸ばし、さらには粘液を固めた破片を我武者羅に放ちだす。


「こ、このぉ……!」


 ファムが宙を飛び回って攻撃を躱しながら、やけっぱちにシェル・リヴァーティスの羽根を飛ばすが当たらず。


 敵は見えないが、地上やコートマル鉱石の山の上を移動し、あらゆる方向から攻撃を放ってくる。ファムもカリッサも勘で攻撃していくが、やはり当たらない。


 そんな時、


「ファム! 山の上から来るよ!」


 ノルンの叫ぶ声が、ファムの耳に届く。『未来視』――それがノルンに見せた未来の映像。敵がコートマル鉱石の山の上から舌を伸ばし、ファムの腹部を貫いた光景に、ノルンが警告を発する。


 そしてそれは同時に、敵の位置も伝えるということ。


「とりゃぁぁぁあっ!」


 一気に急降下し、敵の舌の一撃を回避すると、ファムは敵がいると思われる山の上に蹴りをぶちかましに行った。


 しかし――


「っ?」


 足の裏に伝わる、妙な感触。人工レイパーが腕を盾に変形させ、ファムの一撃を受け止めていたのだ。


 直後、ファムの腹部へと、敵の蹴りが炸裂する。攻撃を防がれた時、嫌な予感がして、防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』を発動していたものの、それでも洞窟の天井へと吹っ飛ばされるのは避けられない。


 ファムはしばらく復帰出来ないはず……人工レイパーはそう確信し、残った一人(カリッサ)へと攻撃の矛先を向ける。


 粘液や、それを固めた破片を飛ばしてカリッサの動きを牽制し、実の姉に向かって、腕と舌を容赦なく振り回すアラマンダ。


「この……アラマンダ……!」


 確実に殺意の籠った乱打。カリッサは走り回りながら光魔法で盾を作り、アラマンダがそれを腕で次々に破壊していき、その度にカリッサが張り直す。


 攻撃と防御の応酬をしながら互いに移動し、二人の距離は徐々に近づいていく。


 人工レイパー(アラマンダ)は勿論のこと、カリッサもそれを、肌で感じ取っていた。


「――っ!」


 不意に、カリッサは自分の頬の辺りに、何かが通り抜ける感覚に襲われる。熱い血が頬を流れ、少し遅れてやってくる、熱の籠った痛み。


 人工レイパーが、腕を刃にして、カリッサの顔を狙ったのだ。その狙いが逸れ、頬を掠めたのである。


「アラマンダ……あんたねぇ……!」


 カリッサの頭に過ぎるのは、幼き頃、弟と喧嘩した時のこと。喧嘩と言っても、大抵はカリッサが一方的にアラマンダをボコるのだが、アラマンダだって反撃しないわけではない。


 そういう時、稀にアラマンダの拳やら足やらが、うっかり女の子の当てちゃいけないところを掠めたりするのだが、何となく今、その時のことを思い出したのだ。


 カリッサの頭に、一気に血が上っていく。端的に言って、カチンときた。




「姉に向かって殺意向けるとかあんた……勇敢を通り越して無謀なのよ! 弟の癖に生意気な!」

「なっ?」




 癇癪を起したかのようにそう叫んだ瞬間、カリッサは魔力の大半を使って、目の前に光の盾を作り出す。縦横五メートル、厚み一メートル以上もある、巨大な光の防壁を。


 アラマンダの無茶苦茶な攻撃も、この盾に全て阻まれる。今までのバリアとは強度がまるで違う。姿を消しているアラマンダが、思わず声を上げてしまう程に、この盾は頑丈だった。


 カリッサの得意とする光魔法。その神髄は、攻撃よりも防御や補助にある。この盾は、カリッサの一八六年という人生の中で磨いてきた魔法の力の集大成だ。


 かなりの魔力を消費するが、人工レイパーの生半可な攻撃では傷一つ付かない強固な盾。それに攻撃を防がれたアラマンダは、その反動でよろめいてしまう。


 その瞬間。


「隠れてないで姿を見せなさいっ!」

「っ?」




 カリッサの怒りの声が洞窟内に轟いたと思ったら、彼女の体が激しく発光した。




 部屋全体が白く染まる程の光。カリッサが、残りの魔力を全て使って放ったもの。アラマンダや他の皆の視界がやられる程ではないが、今まで薄暗い中だったこともあって、頭がクラっとする程には眩しい光。


 こんなことをした理由は――


「っ! そこかっ!」


 カリッサの視線が、ある一点へと向けられ、そこに力の限り手を伸ばす。




 そこには、影。――人工種カメレオン科レイパーの形をくっきりと現した、巨大な影があったのだ。




 カリッサは、ずっとこれを狙っていた。姿の見えないアラマンダの居場所を突き止められる、この瞬間を。


 いくら姿が見えないと言っても、それは体を周りの景色に完全に同化させてあるだけ。実体はそこにある。


 この人工レイパーの変色能力が厄介なのは、『普通の光』は体を素通りさせてしまうこと。太陽や電球、ここであればコートマル鉱石が発する淡い光が、この『普通の光』に相当する。


 だが、カリッサは見た。自分の光魔法で光弾を撃った時、僅かだが人工レイパーの影が見えたことを。『魔法による光』ならば、変色能力によって素通りされない。そのことに気付いたのだ。


 そして姉の勘だが、アラマンダはその弱点に気付いていない、ということも。


 アラマンダの攻撃を全て弾き返したこの瞬間が、一番のチャンス。


 影が指し示す、アラマンダの居場所。カリッサはそこに向けて、全力で手を伸ばし――


「喰らいなさい!」

「――っ!」


 発動する。相手の視界を白く染め上げる自身のスキル、『光封眼』を。


 そして、


「やぁぁぁっ!」

「ッ?」


 横から飛んできた巨大なウィンドボールが、人工レイパーの体に直撃する。


 放ったのは、ノルン。アラマンダがカリッサと攻防を続けている間に、コートマル鉱石の瓦礫の山から抜け出していたのだ。


 視界が突然ホワイトアウトし、怯んだ一瞬のところを狙った一発。ベストタイミングといってもよい。――以前のランド種討伐戦、その時に一緒に戦った経験がなせる業。


 ウィンドボールの一撃は、絶妙。人工レイパーの体にはしっかりとダメージを与えつつ、決して吹っ飛ばす程の威力は無い。吹っ飛ばしてしまえば、アラマンダの位置を把握する術が無くなってしまうから。カリッサが魔力をほぼ使い切ってしまった今、魔法によるフラッシュでの位置把握が通用するのは、恐らく今回の一度きりだけ。二度目は無い。カリッサが魔力を回復する前に彼女を仕留められてしまうだろうから。


 アラマンダは動けない。相手から身を隠すことは得意でも、自分が相手を見失う状況は経験が無いから。咄嗟の動きが、出来なかった。


 それでも、彼は冷静だった。標的の姿を見失っても、位置を捕える手段は他にもある。――そう、あの粘液で付着させた臭いを辿ることで。


 今、粘液による攻撃は何度も放った。あれは地面や岩等に当たっても臭いは付かないが、人体や衣服に当たると、特殊な臭いを発するようになる。雅はモロに喰らったし、カリッサやファムも、直撃こそしていないが、飛沫くらいは当たっているはずだ。


 ライナのこともそれで追ったように、自分の鼻に意識を集中させて、臭いを辿るアラマンダ。


 焦る必要は無い。『光封眼』の効果時間は長くないのだ。視界が封じられている内に、勝負を決めに来る臭いが必ずある。カウンターを決めればよい。


 ノルンの攻撃でブレる意識の中――人工レイパーは落ち着き、そしてついに突き止める。


 上側から自分に向かって飛び掛かってくる、一つの臭いを。


 捕らえた――アラマンダはそう確信し、そこに向かって勢いよく舌を伸ばす。


 だが――


「ッ?」


 手応えが、明らかにおかしい。人を貫いたような感触が無い。


 一瞬フリーズする意識。そして遅れて理解する。




 これは、人の体では無い。ただの布……服である、と。


 それが誰の服かと言えば――




「今だ!」

「ッ!」


 雅の声が聞こえた直後、人工レイパーは、自分の体に何かが撃ち込まれた感触に襲われる。


 音符。


 固まった粘液の拘束から抜け出した雅が放った一発。


 アラマンダには、気付く時間が無かった。ノルンが瓦礫から脱出しているということは、雅もまた、固まった粘液の拘束から抜け出している、という可能性に。


 先程人工レイパーが攻撃したのは、雅が着ていた燕尾服。


 粘液がベットリ付いた、あの燕尾服だ。それを空中に放り投げ、アラマンダはそれを攻撃してしまったのだ。




 攻撃を防がれ、視界を白く染め上げられ、魔法の一撃を受けた彼は、一見冷静さを保っているように見えて、本人も分からないところで焦っていた。




(な、なんだこれはっ? 何を受けたっ?)


 アラマンダは、ここで自分でもはっきりと分かるくらいに慌てだす。


 雅に撃ち込まれた音符。この効果を、アラマンダは知らない。知らされていない。


 動揺する彼が、自らの体に気を取られた刹那、


「ファムゥゥゥゥウッ!」


 ノルンの叫び声が轟き、アラマンダは思わず空を見て――目を見開く。


 そこにはいた。シェル・リヴァーティスをはためかせたファムが。


 蹴り飛ばされた後、彼女は降りることなく、ずっとそこにいた。


 敵の位置を把握するため、空に留まっていたのだ。


 止めの一撃を撃ち込むために――


【ミヤビ! 今だよ!】

「ええ!」


 ファムに向かって、左手の平を伸ばす雅。


 その先には、コートマル鉱石の山。


 そこに向かって音符を放つと、


「弾けろ!」


 雅のその言葉と同時に、音符が、無数の小さな音符に分裂して飛び散る。


『カレイドスコープ』。障害物に当たったエネルギー弾や音符を分裂して、あちこちに飛び散らせる効果を持ったスキル。岩室駐在所の大和撫子、長瀬(ながせ)夏音(かのん)のスキルを使ったのだ。


 こんなことをした理由は――


「ファムちゃん! 渡された()()を!」

「分かっているよ!」


 そう叫ぶと同時に、シェル・リヴァーティスから、三十枚の羽根が全方位に放たれる。


 その羽根に吸い込まれていく、小さな音符たち。


 次の瞬間。


「集まれ!」







 ファムの言葉に呼応するように、その羽根が、洞窟内の石ころや砂ごと、ファムの足元に集まってきた。


 羽根が集合して出来たそれは、まるでサッカーボールのよう。







『グラビディ・コントローラー』。今朝がた、ファムに渡された新しい武器。


 軽いものを引き寄せるそれを、ファムが使ったのだ。あれはただのイタズラ道具ではない。


「当たれぇぇぇえっ!」


 羽根で出来たボールを、思いっきりシュートするファム。


 向かう先は――アラマンダ。


 真っ直ぐに飛んでいったそれが、姿を隠す人工レイパーへと突っ込んでいく。


 あまりのことに、彼はその場から、全く動くことが出来なかった。


 そして、




 新たな必殺の一撃(ボール)が腹部に直撃した刹那、数多の音が鳴り響き、人工種カメレオン科レイパーは爆発するのだった。

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