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第506話『次席』

「おい! こっちだ! こっちにいるぞ!」

「おのれ人間めぇ! なんて奴らだ!」


 里の北。そこに、エルフ達の怒号が飛ぶ。


 雅、ノルン、ライナがファム達の行方を追い始めて少し経ったところで、牢屋に残っていた者達が全て分身であることは看破されていた。


 当然、騒ぎになる里の中。コートマル鉱石を盗むために脱獄したと考えられ、一刻も早く見つけ出さなければという空気になった。拘束後、速やかに処刑せねばという極端な声も、少数ながら上がったくらいだ。


 だが、そこから大規模な捜索が始まる……と思いきや、トラブルが発生した。それは――




「おーっほっほ! ほら、もっとかかって来て下さいまし! (わたくし)はここにいますわよ!」




 高らかに声を張る、希羅々。手に持った金色のレイピア、『シュヴァリカ・フルーレ』を撫でる。


 脱走したはずの者が、何故かエルフ達の前に堂々と姿を見せたのだ。これには長生きしているエルフと言えど、流石に驚かされた。


 対処しない訳にはいかないため、急いで確保に向かったのだが……希羅々の周りには、倒れたエルフ達。全員、ノックアウトされている。希羅々は場所を変えつつも、迫りくるエルフ達を次々に倒していた。


(……全く、早く事が片付きませんのかしら? あまり長びくと、うっかり大事故を引き起こしそうですわ)


 一応、あまり怪我をしないように気を遣ったつもりだが、色々思うところがあるせいか、つい力が入ってしまいそうになる。それを堪えるのも、中々大変なのだ。


 駆け付けてきたエルフ二人。それぞれ剣と弓を持っており、弓を持ったエルフが希羅々に矢を放って動きを鈍らせ、その隙に剣を持っているエルフが突撃してくる。


 希羅々目掛け、斜めに斬りかかってくるエルフ。しかし、


「甘いですわよ!」

「ぬぅっ?」


 希羅々のレイピアがそれを弾き、間髪入れずに彼女の膝が、エルフの鳩尾に入った。


 くぐもった声を上げたエルフ。そんな彼を腕で払い飛ばす希羅々。


「くそう! 他の者は何をしている! 誰もいないのか!」


 あっという間に倒されたエルフを見て、奥で弓を構えていたエルフが顔を引き攣らせ、くそったれと言わんばかりにそう叫んだ。


 返事の代わりに遠くから聞こえてくるのは、爆音。


 ミカエルの炎魔法が炸裂した時の音だ。


「あら、アストラムさんも、派手にやっていること。あの様子では、そうそうこちらには来られませんわね」

「ぐぬぬ……おのれ!」


 弓を引くエルフ。勢いよく矢が飛んでくるが、希羅々はそれを斬り落としながら、エルフへと勢いよく接近すると、エルフの腕を蹴り飛ばし、弓を吹っ飛ばす。


 エルフが呆気に取られた隙に、希羅々は肘打ちを腹部に決めて沈ませた。


「な、なんという強さ……! ぐふ……!」


 まさか、ここまで力の差があるとは……エルフは無念そうにそう言い残し、意識を手放す。


「さて、向こうはまだ時間がかかりそうですわね。……お次の相手は、あなたかしら?」


 希羅々が後ろを振り返りながらそう言い放つ。すると、建物の影から「ほう、気付いたか」と言いながら、エルフが一人姿を現した。


「あら、あなたは……」

「デューラ・グラナスタ。里の長、ルーフィウスの補佐をしている。顔は覚えているだろう?」

「ええ。里のナンバーツーの方ですわね。よーく覚えておりますわ」


 牢屋であれこれやりとりをした相手だ。顔を忘れる程、希羅々も痴呆ではない。


「手荒な真似は面倒だから、せめて奇襲で手っ取り早くと思ったのだが……」

「もう少し殺気を抑えていましたら、流石に気づかなかったと思いますわよ」


 希羅々の挑発的な言葉に、デューラは舌打ちをすると、腰から細剣を抜く。


 それを見ると、希羅々は眉をピクリと動かす。


「あら、奇遇ですわね。(わたくし)と同じ、レイピア使いだったとは」

「一緒にするな。流石に年季が違う。そして――」


 刹那、デューラの掌が希羅々へと向けられ、眩い光弾が放たれる。


 咄嗟に体を逸らした希羅々。その体のすぐ側を、光弾が通り抜けていった。


 後ろから聞こえてきた爆音。そして、服が少し焦げた臭い。希羅々はそれを、顔色一つ変えずに感じ取る。


「このように、攻撃の魔法も使える。人間の少女よ、大人しく牢屋に戻れ。今なら、命は助けてやる」

「困りましたわね……。あまり強い相手とは戦いたくありませんでしたが」


 そう言いながらも、希羅々は攻撃的な笑みを浮かべ、レイピアを構え直す。


「あまりにも相手が強いと、手加減してあげられないではありませんの。怪我させてしまったら、ごめんあそばせ」

「ふん、言ってくれるな!」


 その言葉を皮切りに、二人は同時に、地面を蹴るのだった。




 ***




 一方、その頃。


「よし、命中!」


 希羅々とミカエルから少し離れたところ。建物の屋根の上で、優が白いスナイパーライフル型アーツ『ガーデンズ・ガーディア』を構えながら、小さくそう叫ぶ。


 視線の先には、呆然とするエルフ達の姿。今し方、優の狙撃により、持っていたはずの武器を吹っ飛ばされてしまったのだ。


 優の役目は、ミカエルと希羅々の援護。とりわけ、近接戦闘に弱いミカエルのサポートである。


 そして――


(……人工レイパー、まだ姿を見せないわね)


 優は、緑色に輝く眼で、辺りを確認する。レイパーの位置を把握出来る『エリシター・パーシブ』のスキルだ。これをずっと使いながら、虎視眈々と位置を捕える時を待っている。


 人工レイパーの目的は、ほぼ間違いなく里にあるコートマル鉱石。今は大混乱の真っ最中なので、何か動きがあるとすれば、今だと思われる。


 敵の正体さえ突き止めれば、ファムに掛けられた疑いを晴らすことも出来よう。問題は、人工レイパーの場合、変身しなければスキルが感知してくれないことか。


(まぁ、簡単にはいかないか)


 最も、スキルが反応しないということは、姿を消せる人工レイパーから奇襲を受けることがないともいえる。それはそれで、安心材料だ。


 目下のところ、問題は……


「あー、もう! こういう時、ライフルって不便……!」


 エルフ達が武器を拾いに行く姿を見て、優が歯噛みする。


 ヘッドショットで仕留める訳にいかない以上、優に出来るのは、時間稼ぎくらい。エネルギー弾を足元の地面に撃ってよろめかせるのが、関の山だ。


 希羅々とミカエルを遠距離からサポートする者が必要だった上、エルフ達に思うところもあったので仕方ないのだが、思い切って大暴れ出来ないのなら自分も雅達と一緒に、ファムの行方を追いたかったと思わなくもない。


 優は、ちょっとだけブツクサと文句を漏らしながら、別の狙撃場所に向かって走りだすのだった。

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