第6章閑話
静かな水の音が響く、とある場所にて。
そこに、二人の少女が倒れていた。
一人は桃色の髪の少女。もう一人は青髪の少女。
束音雅と、レーゼ・マーガロイスだ。
近くには、二人のアーツ『百花繚乱』と『希望に描く虹』も落ちていた。
さらに少し離れたところには、鏡も転がっている。魔王種レイパーが祭壇に飾り、レーゼが奪った、あの鏡だ。
二人は気を失っているようだが、しばらくするとレーゼの体がピクリと動き、ゆっくりと起き上がる。
「ここは……海?」
自分の体に付いた砂や、眼前に広がる光景を見て、彼女は呟く。
海が見えるということは、ここはシェスタリアだろうか……なんてことを思ったレーゼだが、そこで、
「っ! ミヤビ!」
雅が倒れていることに気がついて、彼女の体を揺する。
「ぅ、ぅうん?」
「良かった……! 無事だったのね!」
目を覚ました雅は上体を起こすと、胡乱な目でしばらく固まる。
「ミ、ミヤビ……?」
「……っ! そうだ、あいつはっ?」
随分とボーッとしていた彼女は、ようやく脳が起きたのか、急に辺りを見渡してそう叫ぶ。
つい先程まで魔王種レイパーと戦って、途中で光に巻き込まれて気が付けばこんなところにいたのだ。まだ近くにいるのでは、と思ったものの、幸か不幸か、レイパーの姿はどこにも無い。
よく考えてみれば、もしレイパーが近くにいるのなら、自分達が生きているわけは無いだろうと気が付く。
「こんなところにいるってことは、あの光で、私達どこかに転移させられたってことですかね?」
「……分からない。でも、きっとそうだと思う。あのレイパーだけ、別の場所に転移したってことかしらね? それにしても、ここはシェスタリア?」
そう言いながらも、レーゼの声に自信は無い。
砂の感触も、海も、どこか違和感がある。
辺りを見回しても、シェスタリアらしさが無いのだ。
そもそもここはナランタリア大陸なのかさえも怪しいと思うレーゼ。
「シェスタリアとなれば、あれはドラゴナ島だと思うけど……あんな形状だったかしらね? 隣の白いのは何?」
レーゼが指を差した方を見る雅。
そこに見えるのは、レーゼの言う通り、島がうっすらと見えていた。隣には、島のような半楕円形の白っぽい『何か』もある。
少し前までドラゴナ島にいた雅は、見える島がはっきりとドラゴナ島ではないと確信を持ったが、じゃあ何だと聞かれれば首を傾げるより他は無い。
が、
そう思ったのも僅か数秒。
すぐに、それが何か理解した雅は、目を大きく見開く。
慌てて砂を一掴みし、すぐに落とす。海の方へと駆け出し、打ち寄せる波へと手を晒した。
「ちょっと……どうしたの……?」
濡れた手をジッと見つめ、さらには辺りを見渡し始めた雅を見て、何かあったのかと不安になるレーゼ。
そんな彼女に、雅はポツリと、
「ここは……私の元いた世界……! 新潟……!」
そう告げた。
ご愛読頂き、ありがとうございます。ここまで如何でしたか?
第6章閑話。タイトルを付けるならば、『転移』。
次回、第7章投稿は9/27(月)となります。後、ついでに一言。
この物語のプロローグが、やっと半分、終わりました。




