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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第56章 シェスタリア~エルフの里
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第498話『曲草』

「さて、早速相模原さん達が証拠品となりそうなものを見つけてきたわけですか。(わたくし)達も負けてはいられませんわ。血眼になって探しますわよ」

「前々から思っていたけど、キララちゃんはちょっと血の気が多すぎる気がするわね」


 雅と優が戻ってきて、バトンタッチするように交流会を抜けてきた希羅々とミカエル。


 二人が向かう先は、ルーフィウスの家とは反対方向の森の中。


 雅達が『ルーフィウス本人』を調べたのなら、二人は『サルモコカイアの入手経路』を調べるつもりである。サルモコカイアを使うにしても、どこかから調達したはずだから。


 宅配の魔法で、金品とサルモコカイアをやりとりすれば良いように思えるが、こういった違法な物のやりとりは、バスターによって二十四時間厳重に監視されているため、やれば一発でバレる。だから必ず、別の方法で受け渡ししていたはずだ。


 エルフは閉鎖的な種族。特に理由が無ければ、人間や他の生物を積極的に里に招くことはしない。サルモコカイアの売人は流石に人間だろうから、里に入れば目立ってしまう。ルーフィウスの家に出入りすれば、尚更変な噂が立つ可能性は無視できないだろう。であれば、心理的に、目隠しになるものが多い森の中かつ、家からなるべく離れたところで取引されている気がした。


 加えて、今二人が向かっている場所は、人間が地上から里に入ろうとした際に、一番立ち入りそうなところである。バイヤーの交通の面でも、取引しやすい位置だ。


「血の気が多いとは何ですか。全くもって普通でしょうに。大体、考えてもご覧くださいまし。もし(わたくし)が手掛かりの一つでも見つけられなければ、まず間違いなくあの庶民に大笑いされますわ。考えただけでも屈辱でしてよ」

「ま、まぁまぁ。おっとっと!」

「気を付けて下さいまし。ここら辺、手入れが乱雑ですから、躓きやすいですわ」

「だ、大丈夫よ。今日はもう二回もドジ踏んじゃったけど、三回目は流石に無いわ」


 実は足元の木の枝に足を取られかけたのだが、何事も無いかのようにミカエルは誤魔化す。顔が赤いせいで、希羅々にはバレバレだったが。


「二度あることは、三度ある……そういう諺が日本にはありまして」

「ニホンには確か、三度目の正直って言葉もあったわよね? 心配しなくても平気よ。辺りを注意していれば、いくら私だって転んだりしないわ。ほら、戦闘中だって、私が転んでしくじることなんてそうそう無いじゃない。あれと同じよ」

「何も、ドジを踏むのが転ぶことだけとは限らないではありませんの。うっかり木に頭をぶつけたり、うっかりいらないことを言ってしまうのも含まれますわ。――まぁとにかく、探すのに集中致しましょう」


 問答に終わりが見えなくなってきた気がして、希羅々は思考と行動を、半ば強引に、本来の目的へと戻す。


 だが、辺りを見回し、探し始めて十分後、……その表情を曇らせた。


「……取引場所を探そうなどと思いましたが、こうも闇雲だと、少し失敗だったかもしれませんわ。一体何を探せば良いのやら」


 半分くらい勢いで森の方を探すことに決めていた希羅々。いざ実際に行動に移して、自分が随分と途方もないことをしようとしていたことに、やっと気が付いたのだ。


 しかし、ミカエルは希羅々の言葉に、「え、ノープランだったの?」と目を点にする。その反応が何となく癪に障り、希羅々は口を尖らせた。


「……逆に、アストラムさんは何を探そうと思っておりましたの?」


 逆ギレという自覚はあるが、一度湧いた感情を手懐けられる希羅々ではない。


 だが、ミカエルは何てこと無さそうな顔をすると、


「ねぇ、キララちゃんが、わるぅい取引をしようと思ったら、取引場所はどんなところを選ぶ?」

「質問に質問を返さないで下さいまし。……大体、言うまでも無いじゃありませんの。そんなの、人気(ひとけ)が無いところに決まっていますわ」

「ふぅん? じゃあ、こういうのはどう思うかしら?」


 ミカエルはそう言うと、しゃがみこみ、近くに生えている植物の葉っぱを指で軽く叩く。すると、その葉っぱが、葉巻のように巻かれ出した。


「これ、マガリソウって言うの。ちょっと珍しい植物だけど、里の辺りにはたくさん生えているわ。で、この植物だけど、今みたいに刺激を与えると、こうやって丸まっちゃうのよ。キララちゃんの足元にも、ほら」


 言われて下を向くと、希羅々も気づく。葉っぱが曲がっている植物が、近くに生えていたことに。見た目は日本で見かけるアオキの葉のような葉っぱのある雑草があるだけだったので、特に気にもしていなかった。


「ほぅ。オジギソウみたいな植物ですわね……。で、それが何か?」

「元に戻るまで、大体十数分くらいなんだけど、体内の組織はいつ丸まったか覚えているの。面白いでしょ? そして、実はそれを調べる魔法があって――うん。今を除いて最後に丸まったのは、十一日前ね」

「……ん? もしかしてこのマガリソウ、人が近くを歩くと……?」

「足が葉っぱに触れたりすれば、当然丸まっちゃうわね。まぁ流石に、森に詳しいエルフにしてみれば、この植物の特性なんて一般常識もいいところだろうけど、バイヤーの方はどうかしら? 割と珍しい植物だから、特性なんて知らなくてもおかしくないでしょうね」


 マガリソウは、背の低い植物だ。生えていること自体、気付きにくい。現に、希羅々はミカエルに言われるまで存在に気付かなかったくらいだ。


 そして、ここら辺にはたくさんマガリソウが生えている。もしここを通っていれば、その後を示すように、マガリソウの葉っぱが丸まっていただろう。


「ルーフィウスさんは歩く時に気を付けていたでしょうね。でも、もしバイヤーがそんなことを気にしていなかったとしたら?」

「成程。魔法で調べてしまえば、足取りが追える……と」

「正解。そして、幸運にも、大当たりを引いたみたいよ」


 ミカエルはニヤリと笑みを浮かべて、西の方を指差す。マガリソウの葉っぱが曲がった履歴を魔法でザっと調べたら、ほぼ同じ時間に、マガリソウの葉が丸まった記録が出てきた。


「一見すると、人が通った感じはない。痕跡はなるべく残さないように気を付けていたみたいね。でもちょっと詰めが甘かったかしら」

「でも、アストラムさんはよくご存じでしたわね。流石研究者ですわ」

「レイパーの生態とかの研究をする中で、このマガリソウを食べるやつがいたのよ。その関係でね。どう? ちょっとは見直した?」

「見直すも何も、アストラムさんのことはちゃんと尊敬しておりますわよ。あまり表に出し過ぎると、アプリカッツァさんに嫉妬されそうだから控えているだけで」

「そう? ノルンなら、私が褒められると喜ぶと思うけれど。……ま、それより早く行きましょう」


 そう言って、希羅々を先導し、マガリソウが示すままに向かっていく。


 すると、


「あら、大きな岩があるわね」


 人の身長の倍はありそうな、ゴツゴツとした岩が、苔を生やして鎮座していた。恐らくは自然物だろう……が、明らかに人がくりぬいたような穴が開いていた。


「人が身を隠せそうな穴……秘密の取引には、打って付けね。足跡もあるし」

「二人の人間が入っても、そんな窮屈ではありませんし、人目にも付き辛いですわ。問題は、本当にここでサルモコカイアの取引をしていた証拠があるか、ということですが……」


 穴の中をひとしきり見て、希羅々は溜息を吐く。流石に、痕跡を残すようなヘマはしていないようだ。足跡はあるが、踏まれまくっていて何が何やら分からない有様になっていた。ここから推測は難しいだろう。


「まぁ、渡すものがサルモコカイアとお金なら、痕跡なんて残りようもないわよね。……って、あら? これは何かしら?」


 ミカエルが、地面に落ちていた何かを拾い上げる。見れば、それは動物の毛皮をなめしたものだ。


 何故こんなものが、と首を捻る二人だが、希羅々は「あっ」と声を上げる。


「もしかして、靴の素材では?」

「成程! キララちゃん、冴えているわね! 動物の毛皮……これ、エルフの人達は使わない素材よね? もしかして、バイヤーの靴に使われているんじゃない?」

「可能性は高そうですわ。これがバイヤーの靴のもので、ここに落ちていたら……誰かとここで取引していた証拠としては、充分ではありませんの?」

「取引相手がルーフィウスさんとは限らないけど、こんなところで取引をしていたのなら、相手がエルフなのは間違いないわ。ミヤビちゃん達が見つけてきた横領の証拠と併せれば、もっと大々的に調べる口実に出来る。――早速、調べてもらいましょう!」


 ここから先は、ミカエルよりも優香の方が得意な作業のはず。


 ミカエルは宅配の魔法で、日本にいるレーゼを経由し、優香にこれを届けてもらうのだった。

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