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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第55章 新潟市中央区万代島~紫竹山
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季節イベント『本勧』

 ある日のこと。


 相模原家、二階にある優の部屋。


 そこに四人の少女が集まっていた。


「んじゃ、全員揃ったね。始めよっか。――第十三回、漫画・小説王決定戦を!」


 一人は勿論、部屋の主である相模原優。家の中でも黒髪サイドテールにきめる彼女は不敵に笑みを浮かべると、座布団に腰掛ける。


「いや、十三回って……私ら、今日が初参加なんだけど」


 二人目は、ファム・パトリオーラ。紫紙ウェーブの彼女は、「え、何このテンション」と、やや引いた様子。


「私は今回で二回目ダ。分からないことがあったラ、何でも聞いてくレ」

「二回目って、シアさん私達と大して変わらないじゃないですか」


 残る二人は、権志愛とノルン・アプリカッツァ。ツーサイドアップの髪型をした志愛が、ツリ目を閉じて謎に得意気にうんうんと唸ると、前髪が跳ねた緑髪ロングのノルンが苦笑いを浮かべる。


「えー、では改めてこの決定戦の説明を。これは、各個人が『これは面白い!』と思った漫画、小説を持ち寄って、滅茶苦茶に褒めまくる会です。因みに順位付けとかは一切しません」

「決定戦の意味」

「じゃあ、なんでこんなことするんですか?」

「私の趣味は読書。なんか面白い本、紹介プリーズ」


 私利私欲全開に、本を求める。それがこの決定戦の裏の意図である。


 優が「面白そう!」って思った本があったとしても、その紹介者に景品等は一切ないというケチな企画だ。一応、お菓子と飲み物は振舞われるが。


「ちなみにみーちゃんは出禁です。あいつ、第一回の時に成人向けのレズエロ同人誌持ってきやがったので」

「仕方ないナ」

「残当」

「流石と言うべきか、ドン引きすべきか……」

「それじゃ、事前に決めた通りの順番で。まずは志愛から!」

「よシ。じゃあ私が紹介するのハ、これダ!」


 ULフォンによって空中に作りだされたウィンドウ。


 そこには、志愛イチオシの漫画の表紙がデカデカと映し出されていた。


 刹那、志愛の口が、オタクのものへと変わり――


「『最弱魔王に転生した私、勇者にボロカスに負けたので隠居します~辺境で送るスローライフ……のはずが、魔王幹部やボス連中、果ては勇者までやってきた。生きる事に疲れたって? しょうがないなぁ、慰めてやろうじゃないか~』、通称『最勇キ』。原作はネット小説だガ、コミカライズもされていル。映っているのは漫画版だナ。私達の世界では全人類必須科目かツ皆には昔布教したのデ、あらすじは省略ダ。今作の魅力は何と言っても主人公のラツィーナ。ビジャルは勿論美しくも儚ク、大胆さと細心サを併せ持った文字通りの美少女だガ、彼女の本当の魅力はそこでハなイ。最弱魔王に転生シ、王国が滅ぼされても尚前を向く気高サがありなガらモ、自分をこんな目に合わせタ勇者にすら慈愛を向ける献身さを持チ、戦闘でも決しテ後ろで隠れておらずむシろ積極的に前に出テ、作中にはいクつもの困難が待ち構えているガ、ほぼその全てデ大きな活躍を残ス有能っぷリ。前々から女神女神と思っていたガ、最新話では本当に女神に変身したゾ、この女神様。それでいテきちんとドジも踏メ、基本ゆるゆるコメディ路線のこの作品の雰囲気をきちんと保てルなんテ、なんだこの可愛い生き物ハ! ちなミに私のお気に入りは原作小説七巻のの三百二ページ目かラの三十ページ、自分の能力の無さに引きこもった勇者の妹ニ、勇者と一緒に手を差し伸べて説得するあソこは何度読んでも泣けル。スゥー、そしてこの作品は知っての通りアニメ化もされていル。こんなスーパーウルトラハイパー完璧超人を演じられる人間がこの世にいルと思うだろうカ? 私はいないと思っていタ。ベテラン声優が死ぬ気でガンバッテ、何とか及第点だと思っていタ。だがこの世にたった一人だけいたんダ、アニメのラツィーナに魂を吹き込ミ、ただの動く絵ヲ、原作通り女神へと昇華させられる声優ガ、たった一人だケ! 誰だかもう知っているナ? そうダ新人声優、神埼(かんざき)斑美(むらみ)様ダ! 愛理とは別ベクトルで発せラれるその麗シいボイスハ、まさニ声優をやるタめに生まれてきタと言っても過言ではなイ! あれ以来、私は斑美様の出るアニメは全て履修していル。来季も二本別出演されるかラ、皆も必ず見るよウ――」

「早い早い言葉が早い! 馬車より早い! 勢い台風かっ!」

「ウォ、ナ、なんダッ? 邪魔をするナ!」


 まだ続きそうな志愛の話だったが、ファムの叫び声で強制終了させられる。


 オタク特有の早口。前半は圧倒させられ呆気にとられていたとは言え、途中から正気を取り戻したファムは、ある意味凄いのか否か。


「すっごい熱意だけは伝わってきましたけど、話の中身は一ミリも分かんないの、ある意味凄いですね……」


 ノルンの顔も引き攣っている。内心では、ファムの妨害に拍手喝采だ。


「えー、志愛は途中でなんか斑美(むらみ)ちゃんの話に切り替わってきたのでここで終了!」


 えー、と抗議の声を上げる志愛を無視し、「次はファムの番ね」と司会の役割をしっかりこなす優。


 肩で息をし、もう既にぐったりといった様子のファムだが、優に話を振られると、コホンと咳払い。


 志愛からULフォンの操作権限を借り、ウィンドウに映し出したのは、またしても漫画である。


「えー、私が紹介するのはこちら。『幼馴染とクラス委員長は私にメロメロ』。シアから借りて読んでいるんだけど、最近嵌ってるんだ。ラブコメって言うんだっけ? 主人公が女タラシで、しかもその自覚もあるから癖があるんだけど、色んなトラブルに巻き込まれてアタフタするのが面白いんだよね。基本ギャグなんだけど、時々ガツンと胃が痛くなるようなシリアスもあって、飽きないよ」

「……ン? その作品、確カ、ヒロインの一人がノルンに似ていたやつだったナ」

「あ、いやちょっと待ってタンマ何で言うのさシアの馬鹿!」

「流れるように罵倒」


 突然顔を真っ赤にして動揺しだすファム。何を隠そう、ファムがこの作品を読む切っ掛けになったのは、志愛の言う通りクラス委員長のキャラがノルンのビジュアルにそっくりだからだった。


 ……因みに、主人公は実はサキュバスの血を引いているというファンタジックな設定があったり。


 すると、ノルンが「あー」と声を上げて、ファムの体がビクンと震えた。


 ヤバい、ノルンに変なこと思われた? ……と、何を言われるかとファムがビクビクしていると、


「これ、私も前にシアさんから借りて読みました。私もこれ好き。主人公がちょっとクズっぽいけど、やる時はやるからちょっと見直しちゃうっていうか」

「へ、へぇ!」


 良かった、大丈夫みたい……ファムがそう胸を撫でおろした、次の瞬間だった。




「あ、でもあそこはショックだったかも。ヒロインのクラス委員長がトラックに跳ねられて死ぬところ」




「……え」


 部屋に不思議と響いたファムの唖然とした声。


「ア、待てノルン。それハ……」

「……あ、あれ? まさかファム……」


 ファムの顔を見たノルンが、「しまった」と両手で口を抑えるが、もう遅い。


 そう、ファムは、


「……ワタシ、マダソコマデ、ヨンデナイ」


 読み始めたのは最近なので、まだ序盤の話しか知らなかったのだ。


 無機質に発したはずのファムの言葉には、中途半端にショックの感情が込められており、それが中々に悲壮感を演出していた。


「さ、さぁ次いこう! ファム、私のお菓子あげるから!」

「マ、マァ、そう言う日もあル!」

「ごめん! 本当にごめん!」


 三人の慰めが、逆に辛いファムであった――




 ***




「じゃ、じゃあ気を取り直して、次は私です!」


 十分後、ULフォンの使用権限を受け取ったノルンが、元気よくそう声を上げる。


 すると、今度は活字の文章がウィンドウに広がった……のだが、


「私のオススメはこれ! 『レイパーの皮膚細胞における免疫機能の解析』です! これは師匠の書いた論文の一種で、タイトルが示す通り、レイパーの毒や病気に対する免疫機能について実験した結果を示すもので――」

「ストーップッ! それはレギュレーション違反だろウ!」


 至極当然の志愛の突っ込みがきまる。


 が、ノルンは志愛に対し、珍しく目を吊り上げると、


「レギュレーション違反とは人聞きが悪いです! 私にとって、師匠の論文はまさに芸術! 要は小説みたいなものです! この論文の何が凄いって、まず解析の手法から画期的で、こちらの世界で言うところの科学解析に近いことを行っているんです! 魔法が主流かつ師匠自体が魔法使いなのに、それにとらわれない逆転かつ挑戦的な一手! これが研究者の生き様だと言わんばかりの実力溢れた論文で――」


 無茶苦茶なことを言いながら、ツラツラとこの論文の魅力を言葉にするノルン。当の本人がそれを聞いたら喜ぶか、あるいは羞恥に悶えるか。


「だ、駄目だよノルン! そんな詳しい話をしたら、ユウと私が泡噴いて倒れちゃう!」

「そこまでアホな子ちゃうわ! ――じゃなくて、流石にノルン、アウト!」

「そんな! 後生です!」

「セクハラがバレた時のみーちゃんみたいな顔しても駄目!」

「私そんな顔してましたかっ?」


 あまりにも不名誉な言い方に、心外だとノルンは喚くが、判定は覆らず。


 順番は遂に、大トリの優。


「私が紹介するのは、これだっ!」


 自信満々にそう叫ぶと、ウィンドウに映し出される文字の羅列。


 どうやら小説のようだが、どこか様子が変で、三人は揃って「ん?」と微妙な顔になる。


 小説は小説なのだが、これは――


「タイトルは『みーちゃんと私。シーズン8』」

「自作の小説じゃないカッ!」


 驚愕に塗れた声で飛ばされる、志愛の鋭い突っ込み。


「本作は大学に進学した私とみーちゃんの、非日常を描いたラブロマンス&サスペンスであり――」

「怖い怖い怖い何か解説し始めたんだけどっ?」

「しかもシーズン8ッ? 超大作ッ?」


 ――優の趣味は読書。しかし読んだ本に影響され、自分でも書いてみたくなる時がままある。気持ちの昂るままに書いたのが、この小説。


 因みにシーズン8と宣っているが、中身は全てパラレルワールド設定。その時々によって、SFだったりコメディだったり様々だ。ただし本人の趣味で、殺人等のサスペンス的な色が必ず含まれている。


「今回は音楽サークルに所属した私達が、先輩の家に連れていかれ、そこで殺人事件が勃発し――」

「ヤバいよ止まんないって! 誰か助けて!」

「クッ、聞いているこっちが恥ずかしくなってくル!」

「ユウさんがミヤビさんを出禁にした本当の理由、これを聞かれるのが恥ずかしいからですよね!」

「何を言うか! 全部きっちりみーちゃんにも読ませているに決まっているじゃない!」

「それはそれで怖いって! ミヤビはどんな顔でそれを読んだのっ?」

「え? 普通にニコニコしていたけど?」

「うっそだロッ?」

「流石の次元を超えています……! 一周回ってヤバいです!」


 阿鼻叫喚の嵐。


 てんやわんやで大騒ぎな相模原家だが、これも一つの平和の形……なのかもしれない。

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