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ヤバい奴が異世界からやってきました  作者: Puney Loran Seapon
第55章 新潟市中央区万代島~紫竹山
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第55章幕間

【それにしても、面倒なことになったね】

(ええ。……もしかすると、私の知らないところで、歴史改変の影響が出ているかもしれません。今後もよく確認しないといけませんね……)


 その日の夜、八時二十六分。


 雅は自室のベッドに寝転がりながら、心の中でカレンとそんな会話をする。


 ――歴史を変えてしまったことによる、人工レイパーのパワーアップ――そのことは、雅に大きなショックを与えていた。


【ミヤビ、あんまり気にしないようにね? あの時のミヤビは、ちゃんと全力を尽くした。悪いことなんて何もしていない。元はと言えば、私に化けていたあのレイパーが全部悪いんだ】

(…………)


 そう言われても、すんなりと受け入れられない雅。


 それもそうだろう。人工レイパーがパワーアップしたということは、それに併せて、その被害者の数も増えるということ。……事実、皆から聞かされた人工レイパーとの戦いのいくつかでは、雅の記憶以上の被害が出ていた。


 過去の世界でもっと上手く立ち回っていれば、防げたかもしれない……その想いが、どうしても拭えない。


 そしてタイムスリップするために必要な時計型アーツ『逆巻きの未来』が手元に無い以上、この現実は変えようがなかった。よしんばあったとして、雅がそれをどうにかするために頑張ったところで、また別の問題が出る可能性だってある。結局のところ、時間に介入するという行為自体、人間には過ぎたことなのだ。


 さらにもしかすると、今回の柚希の一件も、これが原因という可能性がある。未だ彼女はまだ眠りに落ちたまま。……このまま目を覚まさなかったらと思うと、どう償えばいいのか。


 それが、無性に怖くて苦しかった。


(……でも、なんでパワーアップしたんでしょうか?)


 何となくその事実から目を背けたくなって、雅は話題を少しばかり変える。大きく変えなかったのは、逃げ出そうとする自分に対し、せめてもの抵抗だったのかもしれない。


(私達、人工レイパーに関すること、何かしましたっけ? そもそもあの時代に、人工レイパーなんてまだいませんでしたよね?)

【クゼはいただろうけど、会ってもないし……。行動の大半は異世界の地だったはずだったもんね。確かにミヤビの言う通り、人工レイパーがパワーアップする理由なんて心当たりがないや】

(となると、風が吹けば桶屋が儲かるというか、バタフライエフェクト的な感じってことになるんですかね?)


 カレンにそう言いながら、雅は眉を顰める。もしそうだとすれば、原因を突き止めようにも、何が何やら分からない。


【……とにかく、今出来ることをしよう。クゼを捕まえれば、パワーアップの原因だって分かるはずだ。だって彼が人工レイパーを作ったことには、変わりがないんだから】

(……確かに、その通りですね。ありがとうございます、カレンさん。ちょっと吹っ切れたかも)


 やるべきことを意識すると、少し心が軽くなった気がした雅。


 勢い任せに上体を起こしたところで、部屋がノックされ、「ミヤビお姉ちゃん、入っていい?」というラティアの声が聞こえてきた。


 雅が「いいですよー」と返事をすると、髪をしっとりと濡らしたラティアが入ってくる。さっきまでセリスティアと一緒にお風呂に入っており、上がってきたのだ。


「もうちょっとしたらセリスティアお姉さんも着替え終わるから、そしたらミヤビお姉ちゃんの番」

「ん? てことは、今脱衣所にダッシュすれば――」

「駄目だからね?」

「あらー、残念。……あ、ラティアちゃん、髪乾かしますね。こっちへどうぞ」


 雅が机に置かれたドライヤーを手に取り、自分の膝をポンポンと叩く。


 いつも、ラティアの髪を乾かすときは、彼女を膝の上に乗せている。これは、彼女が言葉を話せなかった時からの習慣だ。


 今日も今日とて、同じように雅の膝にちょこんと座り、大人しく温風を受けるラティア。


 いつもは、何気無い日常会話をするのだが、


「あー……ミヤビお姉ちゃん、もう落ち着いた?」

「んー?」

「なんというか……ちょっと辛そうだったし。……皆も心配していた」

「あー……情けないところ、見せちゃいましたね。でも、もう大丈夫ですから!」


 カレンに元気づけられた後で良かったと、雅は心底そう思う。この幼い少女に気を遣わせてしまうのは、あまりにも忍びない。


 そう、いつまでもクヨクヨもしていられないのだ。


 壁に掛かったカレンダーを見ながら、雅は気合を入れる。柚希の件もあるが、やらねばならぬことは他にもあるのだ。


(カリッサさんとの約束もあるんだし……頑張らないと!)


 カリッサとの再会まで、後一週間――




 ***




 一方、その頃。


(……やっぱり)


 ここは、とある洞窟。その奥の、広い空洞エリア。


 そこに金髪のエルフ、カリッサがいた。


 彼女の光魔法で照らされた洞窟内、その眼前にあるのは、身長の三倍近くもある巨大な赤い宝石――コートマル鉱石である。


 雅達の持つ防御用アーツ『命の(サーヴァルト・)護り手(イージス)』や、先日のラージ級ランド種レイパーを座礁させる際に使った転移装置、はたまたミカエルやノルンのアーツ……それらのエネルギー源として使われているこの鉱石は、元々エルフ一族が管理、守護しているもの。


 これは元々はハプトギア大森林の奥に隠しており、クルルハプト一族が管理していたものだが、レイパーのトラブルが起こった都合で、ここに移してあった。


 そんなコートマル鉱石を見つめるカリッサの顔は、険しい。


 彼女は何か調べものをしていたようだが、何を考えているのか……その答えは、彼女のみぞ知る。


 グルグルと渦巻く思考。そんな時、




「姉さん。またここに来ていたの?」




 後ろから静かな声が聞こえてきて、考え事に集中していたカリッサは、悲鳴こそ上げないものの、ビクっと体を震わせ振り返る。


「あ、あぁアラマンダ。ごめん、もう戻る」


 カリッサと同じく、金髪に長い耳。


 スッとした美形の彼は、アラマンダ・クルルハプト。……「姉さん」という言葉が示す通り、カリッサの弟だ。


 どうやら中々戻ってこない姉を心配し、様子を見に来たという顔である。


「やっぱり、不安? 人間を里に呼ぶのは」


 洞窟の通路を二人並んで歩いていると、アラマンダはそう尋ねてくる。


「……ちょっとだけ。前例がないから」

「長も、よく許してくれたよね? どういう魔法を使ったの?」

「言い方。……別に、許してもらったとか、そういうんじゃないんだよ。長は反対していたしね。ただ少し騒ぎ立てて、事を大きくしただけ。ほら、やむを得ず、コートマル鉱石を人間に渡したでしょ。信頼に足る人物なのか、エルフ一族で見極めようって雰囲気に持っていったの。まあそうは言っても、表向きは交流会みたいな感じだけどね」

「……そう言えば、同じ質問を前にもしたけどさ。呼ぶ人達は、姉さん的には、どれくらい信頼できるの? 前は答えなかったけど、姉さん的にも微妙な感じ?」


 アラマンダの質問に、カリッサは細く息を吐く。


 弟の眼をマジマジと見つめるのが少し怖くて、思わず目を逸らしてしまった。


 自分の質問にまた答えてくれないと、アラマンダは少し拗ねた様子で「ま、いいけどさ」と呟く。


「……なんか、ごめん」


 小さく呟いたカリッサの言葉は、自分でも何に対してなのか、そして誰に対してなのか、よく分からなかった。


 洞窟から出て、空を見上げるカリッサ。


 月の光が、やたら眩しく見える、そんな気がした。

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